一人ひとりの魅力を見つめ続ける。これが私の福祉支援『=vote 坂井佳代さん』

取材

2023年2月、東彼杵町にあるsorrisorisoのお隣にオープンした『=vote』。
おしゃれな東彼杵のなかでも異彩を放つ店内には、長崎県内の就労継続支援B型に通いながらアーティストとしても活躍している方々が手掛けた、他にはない個性的な作品が約100種類も並んでいる。

就労継続支援B型における工賃、一般就労への定着率が全国でも高い水準を誇るこの施設。
利用者が活き活きと活動できる裏側には、今回の記事の主役でもある坂井佳代さんのブランディングマネージャーとしての支えがあった。

やきものの町で培ったクリエイティブな原体験

坂井さんが生まれ育ったのは、=voteと同じ郡内にあるやきもののまち波佐見町。
産業の歴史が続く町、そして偶然か必然か、それぞれが職人として仕事をする家族に囲まれて、坂井さんは他の家庭ではないような原体験を積んでいったといいます。

「実家は焼き物の下請けを行う生地屋さんでした。父は生地を作る仕事、母はウエディングドレスをオーダーで縫う仕事、叔父は手彫りのハンコ、叔母は和裁、もう一人の叔母はスーツを縫う仕事をやっていて、小さい頃から周りの大人が職人ばかりという環境でしたね。だから、小さい頃から何かを作ることに抵抗がないというか、それが普通だという感覚で育ちました」

「家に小さい窯があったので、生地から手で形を作って、友達の釉薬屋さんで釉薬をかけてもらって陶器を焼いたり。お母さんの横で一緒に服を作ってみたり。かなりリアルなものづくり体験をしていました。お人形の洋服を作ったり、小学校の高学年では自分のスカートとか、簡単な物は自分で作っていましたね」

中高生は可愛い先輩に憧れてテニス部に、高校はかっこいい先輩がいるハンドボール部のマネージャーをしたりと、のどかな波佐見の地で充実した学生生活を送っていたとにこやかに語ってくれました。

偶然でも必然でも、切り開いた道でどれだけ楽しめるか

何かものづくりの仕事をしたいなと漠然とした将来像を描いていた坂井さん。
進路決定が目の前に迫った高校3年生の夏休み、ぼやっとしていた将来像がはっきりと現実に変わる出来事がありました。

それはなんとなく髪を切りに訪れた行きつけの美容室でのこと…。
「行きつけの美容室に髪を切りに行ったとき、ふと「美容師になりたいな~」と思って、それをそのまま口に出したんですよ。そしたら「じゃあ社長に会っていく?」って言われて、その場で就職と美容学校への進学も就職を決めました(笑)」

そんな突発的なきっかけから始まった美容師時代を、坂井さんは「自由な時代だった!」と語ります。
「とてもいろんなことに挑戦させてくれる美容室だったので、すごく自由な時代を過ごしました。11ヶ月働いてお金を貯めて、1ヶ月はまるまる海外に勉強に行っていいよと言ってくれて。その環境を活かして毎年1ヶ月は海外に行って、向こうの学校に通って勉強するような生活を10年くらい続けていました。今思えばそうやっていろんな場所に行けたことが今の仕事にも繋がっているのかなと思います」

26歳の時には、花嫁さんの着付けやヘアメイクを担当する仕事へと転職。
その後28歳で結婚してからは、転勤族の旦那さんに付いて行って日本全国や海外を転々とする生活をしていたそうです。

結婚した時に交わした「10年くらいは専業主婦に専念して欲しい」という旦那さんとの約束のもと、家事や子育てに奮闘する日々。しかし、外に出たい好奇心と行動力があふれる坂井さんは居ても立っても居られずにさまざまな活動をしていきます。

「こんな外に出たいという気持ちの強い私だったので、家で悶々と過ごしていましたね(笑) 何かを作りたいっていう気持ちがあったので、2人の子どもが幼稚園にあがったタイミングでものづくりを始めました。それから作ったものを自分でお店に出したりとか、そういう活動をこそこそとやっていました」

「専業主婦で良かった面ももちろんあって。すごい能力を持っているけど子育ての最中だからそれを隠し持っている。そんな自分と似た境遇のママ友さんたちとたくさん出会いました。当時友達になった方は今でも続いていて、活動に協力してくれることもあります」

専業主婦をしながらも外へ外へと飛び出していく行動力。そして、どんな場面でもポジティブに、自分自身の人生やコミュニティを切り開いていく力が、現在の福祉活動にも繋がっていきます。

利用者さんを理解して強みを引き出す。それが私の福祉ブランディング

坂井さんがブランディングマネージャーを施設の特徴に、全国平均と比べても誇れるほどの一般就労への以降率、そして職場での定着率があります。

就労支援から一般企業への大きな一歩を踏み出すきっかけをくれる場所。その場所を支える坂井さんはどんな想いを持っているのでしょうか?

「うちの施設で学んだ技術のすべてが就職に活きるわけではないんですけど、仕事をするイメージだったりとか、仕事を継続するために必要なこととか、そういったことを本人が自覚するのが一番大切だと思っています。その気づきを一緒に探していけるような支援を意識しながら日々の生産活動を通した訓練に取り組んでいただいています」

「利用者さんのなかでも特異なことはバラバラなので、やっぱり本人にとってどういうサポートがあったらいいのかをしっかり観察して見ていくのが重要だなと思っています。そこさえ見つけられれば本人はもちろん、私たち職員も楽しく仕事を続けられるとわかってきたので」

=voteのキラキラした商品たち。その制作活動の裏側には、クリエイティブな発想と持ち前の明るさで福祉を支える、坂井さんにしかできないブランディング力がありました。

個性を理解してその強みを引き出すことが、本当の意味でその人のこれからに繋がる。
坂井さんが作り出す福祉支援、そして=voteのこれからに注目です。