
冬にこたつで食べる果物といえば、「みかん」ですよね。
私は幼い頃、皮を剥いたあとに手が黄色くなるのが苦手で、いつも母や妹に剥いてもらっていました。
喧嘩をして気まずくなったときも、夕食後には剥いたみかんを「食べる?」と出してくれて、なんだかそれだけで仲直りできていたな。
そんなことを思い出しながら車を走らせていると、山の斜面地にみかんの木々が見えてきました。

「こんにちは~!よろしくお願いします!」
この町でご主人と一緒にみかん農家を営む、山田公子(きみこ)さん。以前は保育士をされていたこともあって、あたたかく優しい笑顔の持ち主です。
案内された作業小屋へ入ると、そこにはコンテナがびっしり、ずらり。それもそのはず、栽培しているみかんと不知火(しらぬい)の品種は、あわせて11種類もあるそう。
一番の糖度を誇る「ゆら」や、皮ごと食べやすい「原口」など。それぞれ甘みの度合いや食感には特徴があるので、きっとあなたの好みにあったみかんが見つけられるはず。

これだけの品種を育てるとなると、毎日やるべきことはたくさん。「なかなか休みはないね~」と語る公子さんに、”仕事との向き合い方”を教えてもらいました。
母として。農家として。
「ハードスケジュール!(笑)基本日曜日は休もうねってしてるけど、なかなか。融通は効くけん、所用で出ることもできるけど、その分のしわ寄せが、あとに回ってくる。難しいっちゃんね、オンとオフの切り替えが。」
高校生の娘さんを持つ公子さんは、農作業に加えて、家事や育児で大忙し。朝起きてお弁当をつくり、朝ご飯を食べて娘さんを学校まで送り届けたあと、家事をある程度済ませてから、仕事に取り掛かります。
ご主人は力仕事、公子さんは小屋での作業を担当。お手伝いに来てくれる方と一緒に作業を進めます。
春から夏にかけては、肥料や除草剤をまいたり、摘果をしたり。不知火にはたっぷりの水を与え、みかんには水を切らしてストレスをかけたほうが、甘くておいしい実がなるそうです。収穫は9月末からスタート。極早生(ごくわせ)→早生(わせ)→高糖度系→露地の不知火→せとか→ハウスの不知火という順番で、翌年の2月まで続きます。
農協に出荷したものは、関東のほうへお届け。東彼杵の道の駅「彼杵の荘」や、ふるさと納税でも手に入れることができます。季節が移り変わる度に食べ比べて、”推しみかん”をぜひ見つけてみて。


お話を聞いていると、「もうすぐ私の”右腕”がやってくるよ」と公子さん。どうやら忙しい毎日を乗りきるには、この方の存在が必要不可欠なようです。
できるだけ笑って楽しく

子供会で出会ったという、ママ友の森さん。8年前スカウトし、平日と土曜日にお手伝いに来てくれます。休憩中にお茶したり、仕事終わりに飲みに行ったり。たまにしかない休みの日も一緒に過ごすくらい、公子さんにとって心地のよい存在です。
「愚痴とか、ニュースの話とか、あれ食べたいね、あそこいきたいねとか。自分でもすごいなーって思うくらい波長が合う。すごい、いいっちゃん。仕事でもプライベートでも、彼女が”笑い”を提供してくれるけん、楽しく頑張れてる。」
しかし、ただ”仲が良い”だけではなく、時にはアドバイスや指摘をくれる、心強い”相棒”なのだそう。
「私のことを大切にしてくれる、いい子なんだ。そうねそうねって、同意するだけじゃなくて、ダメなこととか、こうしたほうがいいですよってことはちゃんと言ってくれる。なかなかおらんたい、そういう人って。友達だと言いにくいところをちゃんと言ってくれらすけん、信頼できる相手。」
お手伝いに来てくれる方々は、そんな心の優しい方ばかり。「昼間は彼女たちとおしゃべりを楽しんで、夜は父ちゃんとビールで乾杯!」日々の幸せが、公子さんの心と体を支えています。

農家にとって一番つらいのは、天候に左右されること。近頃はとくに異常気象の影響で、収穫のタイミングを逃してしまい、収入に繋がらなかったことも。さらに、カラスやヒヨドリ、イノシシなどの敵からみかんを守るのもひと苦労。
そんな大変な宿命を乗り越えていける理由は、もう一つ。”受け継いだこの農場を守っていきたいから”でした。
まだ一人前じゃないけれど
22年前、結婚してみかん農家に嫁いだ公子さん。しばらくは保育士の仕事を続けながら、休みの日に作業を手伝っていたそう。
「始めはそこまで責任もなかったけど、じいちゃんがなくなって、ばあちゃんが年とって、自分たちでしていかんばってなったら、やっぱり大変だなって思うよね。薬のタイミングとか、教わった通りにしなかった時は、やっぱり失敗するもんね(笑)」
先代から教わったことで、今も大事にしていることは何ですか?
「せんばときにせんばことをする。木の状態を見ながら、すごいかわいがってお世話しよらしたけん、それはやっぱり守っていきたいな。残していきたい。先代がこの記事ば読んだら、後継ぎがんばってるんだなって、思ってくれるかな。」
きっと思ってくれます。厳しいことを乗り越えながらも、この農場を大切に守り続けている3代目としての想いでした。

しかし、農家の高齢化が進み、やむを得ず仕事をあきらめていく農家の方が後を絶たないというのも事実。町の農業を守り続けていくために、私たちに何かできることはないのかと考えを巡らせました。
「ほんと、体力的にきついもんね。歳を重ねるごとに、若い頃にできとったこともできなくなってきよる。それでもみなさんから、『食べました!美味しかったです!』って言われたら、なかなかやめきらん(笑)頑張った分だけ返ってくるものがあるけん、やりがいのあるよね。」
自分が心を尽くしたことに対して、自分以外の誰かが笑顔になってくれると、それまで経験した苦い思いもまるっと含めて愛おしい。だから、「どんなときも楽しむこと」を忘れずに、愛情を込めて手を動かします。

「お土産に持っていき~!」と頂いた、たくさんの不知火。毎日大変な思いをしながらも、心を込めて育ててくださったんだと思って食べると、よりいっそうおいしく感じました。この感謝の気持ちを、今度お会いしたときに伝えようと思います。