町のために。人のために。人情を活かしたまちづくり『東彼杵町役場 産業振興課・村田俊輔さん』【長崎国際大学 佐野ゼミ生共著記事】

取材・文

  • 石橋麗唯(長崎国際大学佐野ゼミ生)

    石橋麗唯(長崎国際大学佐野ゼミ生)

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長崎県諫早市出身の村田俊輔さん。東彼杵町役場で商工業や観光業に関する仕事に携わっている。

人口約7,400人という小さな町で、大学卒業後、これまでずっと東彼杵町役場で働かれてきた。そんな村田さんに仕事に対する思いや身近で見てきたからこそ分かるこの町の魅力について伺った。

きっかけは一番身近な“父”の存在

村田さんが公務員について考え始めたのは、父親の影響であるという。

村田さんの父親の現役時代は、自治体の職員として農地や公共施設の災害復旧事業などに携わっていた。大雨や台風の度に家を空け昼夜を問わず災害対応や復旧に取り組む父親の背中を、村田さんは幼い時から一番近くで見ていた。そんな姿を見て、幼いながらにこう感じたという。

「地域のために働くことは意義のあることだ。」

村田さん 仕事風景

様々な思いを抱きながら就職活動を進め始めた村田さんは公務員という仕事だけでなく、一般企業への就職も考えていたそうだ。色々な迷いはありながらも、友人からの誘いもあり役場を選択した。

環境が変わってもやれることはある

異動が多く存在する役場職員をしている中で、戸惑うことも多かった。

「同じ役場なのに転職したんじゃないかって思うこともあります(笑)」

財政担当を12年、総務担当を4年、農林担当を7年、そして現在の商工観光の仕事を行っている。部署異動を何回か経験しているが、今でもわからないことは数多くあるという。

「自分がいる場所で、今の仕事を好きになること。自分がいる場所で自分ができることをやる」

そんな前向きな姿勢を持ちながら、日々の仕事をこなしている。仕事が変わったとしても、内容が変わったとしても、自分にできることを精一杯やる。そんな気持ちが仕事への取り組み方にも影響しているのかもしれない。また、仕事が変わるということは、その中で関わっていく町民も変わってくる。

村田さん 仕事風景

「自分が接している人はそれが自分のお客様。その人たちのおかげで自分が生活できている。それは絶対忘れずにおこうって思ってます」

町民、生産者、事業者、関係機関、関わる人は違ってくる中でもこの気持ちだけは常に頭に入れ誠心誠意対応している。お客様が変わったとしても、対応する際の思いは変わらない。いろんな事情で役場を訪れる人に対して自分が持っている軸をずらさずに接することができるのは村田さんの強みだといえるだろう。

目と心で魅了する町

「東彼杵町は一言でいうと“風光明媚な町”といえると思います」

日本一に輝いた「そのぎ茶」は、一特産品の域を超え、風景、歴史、関わる人を含めた町のシンボルとなりつつある。紺碧の大村湾を一望する山の斜面や大地に広がる茶畑は東彼杵町にしかだせない風景で日本でも他にない唯一無二のロケーションだ。

また、東彼杵町の魅力はこれだけではない。一番の魅力はなんといっても人の結束力だ。人口は約7,400人という少ない人数でありながらも、小さな町ならではのまとまりをもっている。

これは村田さんが「そのぎ茶振興協議会」で、そのぎ茶の知名度向上、販路拡大していこうと活動していた際に、生産者や茶商、関係機関の方々などと関わっていくうちに身をもって感じたという。

「普通は、自分の仕事を優先するのが当たり前だと思うんですけど、自分の仕事は差し置いても全体のために、そのぎ茶のために動いてくださる方、時間やお金を使ってくださる方がたくさんいるってことに非常に驚きましたね。フットワークが軽くて、なんかやろうと言ったら、みんなですぐ行動に移せるっていうか、町全体がそういう雰囲気なのかな」

村田さん 茶畑の中で

一人ではない。町全体で取り組んでいく。誰かがやりたいことがあれば一緒に取り組んでくれる、東彼杵町はそんな協力的な人が集まる人情に厚い町なようだ。

「組織が大きくなればなるほどいろんな考えがあって衝突したりして、それには理由があるとは思うんですけど、東彼杵町は誰かがこれをしたらどうやろかっていったら、アイディアを出し合って、よりよくできる。そんな素質があるのかな」

新たな挑戦

村田さんには、そのぎ茶の担当していた頃から行っている「東そのぎ特別町民制度」という取り組みがある。

村田さん 特別町民制度

きっかけは、移住者とのお話だったという。全国茶品評会において多くの参加者がいる中で上位を獲得するためには、機械よりも人の手でお茶を摘む方が良い。その方が品質の高いお茶ができるそうだ。そのためには人手が必要で、そこで特別町民制度を導入し活用することにした。

「東そのぎ特別町民制度の目的は、町外在住の東彼杵町に何らかの関りのある人たちに対し、アイデンティティを付与することにより、町との継続的な関係性を生み出し、交流・発展させること、つまり関係・交流人口の見える化と活性化なんです」

開始2か月で約1,200人の登録があって驚いたそうだ。こんなにも関心を持っている人がいることに対して驚きをもちつつ、潜在的に東彼杵町に愛着をもっていただいている人がたくさんいて嬉しかったという。これは村田さんが、お茶の担当から部署が変わった今でも引き継ぎ、試行錯誤を繰り返しながら積極的に取り組まれている。

村田さん 取材風景

この活動を通して改めて町全体としての協力してくださる姿勢が見れた村田さん。制度開始当初は、どんな反響がありどんな風に進んでいくのか不安が多くあった。そんなことをよそに茶業関係者をはじめ地域の方は積極的かつ協力的だった。

「役場がハブとなり、町外へ町内事業者さんのいろいろな情報を発信したり、町外からの問い合わせに的確に対応できる町内事業者さんを繋いだり、それってもっと大きい自治体だとできないと思うんですよ。色々弊害もあると思うので。そんな中でも多くの皆さんがやった方がいいと後押しして頂いたと感じましたね」

町全体が一つの事業者のようなイメージでつながりを持つことができるのは、この特別町民制度のおかげとも言えるだろう。この制度は、町全体の横のつながり、協力する姿勢、応援してくださる存在がいること、そんな大切なことを再確認させてくれた制度である。

希望ある未来へ

長崎県で2番目に人口の少ない町である東彼杵町にこの10年で500人が移住している。少しずつではあるが、東彼杵町の良さが全国に広がりつつある。これらは、いま東彼杵町に在住している人たちの協力があってこその成果だ。

村田さん 取材風景

「元々地元で昔から頑張っておられる方が報われるっていうかですね、そういう町になればいいんじゃないかなと思うんですよ」

移住者が地域住民との交流をすることにより、地域住民もやりがいをもつ。そんなお互いが高め合える、そんな町につながってくるのかもしれない。人を集めることは重要かもしれないが、今いる地域の人へ目を向けることも忘れてはいけない。

「やっぱり地域の方があってこそ、この町の魅力が伝わって、よそから人を呼び込む原動力になると思うんですよね」

地元の人があってこそ町の魅力が伝わる。そこにこれからいろんな人が増えていき、また違う魅力があふれていく、そんな東彼杵町の発展にこれからも注目していきたい。