東彼杵町へ移住、自らの牧場を開いた牛飼い『山﨑一也さん』

山﨑一也(やまさきかずや)さんは2019年8月に東彼杵町へ移住し、現在は長崎和牛の繁殖をメインに5頭の牛を愛情深く飼育している牛飼いです。

山﨑さんが行っている繁殖とは、母牛に子牛を産ませ育てる仕事。1頭の母牛から年に1頭のペースで生まれる子牛は生後10ヶ月ごろまで丹精込めて飼育され、やがて質の良い肉牛へと成長するために肥育牧場へと巣立っていきます。

牧場主としてスタートを切ったばかりという山﨑さんにこれまでの経緯や育てている牛たちのこと、そして東彼杵町に移住してからのことなど、じっくりとお話を伺いました。

牛が身近な存在だった

大村市松並で生まれ育ち、外で活発に遊び回る幼少期を過ごした山﨑さんは家にいるよりも外に出ることが好きで、野岳など自然が豊かな場所へとよく遊びに行っていたとか。そんな元気いっぱいの山﨑少年のすぐそばには牛の存在がありました。

山﨑「小さな頃から牛を飼育している環境が身近にあって。というのも母親の実家が代々牛を育てていて、子どもの時によく牛舎へ遊びに行ってたんです。そのおかげか小さい頃から動物がとても好きなんですよ」

やがて山﨑さんは大村市にある大村城南高等学校へと進学。高校時代は校内で飼育されているニワトリの世話を一日も欠かさず行ったそう。熱心に世話をする様子を見た先生からの一言が、山﨑さんの行く末を決めるものとなりました。

山﨑「ニワトリの世話をするのがすごく楽しくて。毎日やっていたら先生から『そんなに動物が好きなら、牛でも飼ってみれば?』と声をかけられました。当時はペットショップとか動物に関わる仕事ができたら良いかなと思っていたんだけど、その言葉でハッとして。動物とふれあうのは大好きだし自分にとって牛は身近な存在でもあるので、いつか自分の牧場を開きたいと考えるようになったんです」

東彼杵町へと移住、そして独立へ

高校卒業後は夢の実現のために、雲仙市千々石にある『荒木牧場』へと就職。荒木牧場は牛にとってストレスの少ない放牧での飼育と安全な環境づくりに力を入れており、繁殖と肥育の両方を手がけている長崎県内有数の牧場でもあります。

その後2013年に東彼杵町出身の女性と結婚。大村市に勤めていた奥さんのお仕事の関係もあり、雲仙市と大村市の中間地点にあたる諫早市に住まいを構えていましたが、2019年に大きな転機が訪れます。

山﨑「妻のお父さんが怪我をしてしまい、家の仕事が出来なくなってしまったんです。そして自分は婿養子に入っていることもあり、お義父さんのサポートができるよう妻の実家がある東彼杵町に移住しようという話になって。荒木牧場では15年にわたって修業を積んできましたが、このタイミングで自分の夢だった独立に向けて動き出しました」

2019年8月、東彼杵町へ拠点を移し独立への一歩を踏み出した山﨑さんは、東彼杵町で長年畜産農家を営んできた先輩方の元へ出向き牧場経営などについて勉強を重ねる日々を送ります。

山﨑「これまでの勤め先では一社員として決まった仕事をひたすらにこなす日々だったので、自分自身で牧場を開き継続していくにあたり先輩方から様々なお話を聞いて『そういうこともあるんだ!』と新たに知ることがたくさんありました。牧場を始めた現在でも親身にアドバイスをしてくださり、教えて頂いたことはすぐに取り入れています」

そこから数ヶ月の準備期間を経て2020年4月、ついに山﨑さんは牧場をスタートさせました。

難しいけど、楽しい。牛たちとの日々

牛舎があるのは緑が深い自然に囲まれ、虫の鳴き声や鳥のさえずりがはっきりと聞こえるほど静かな場所。30℃を超える真夏日でも爽やかな風が吹き渡る心地良い牛舎の中で、子牛2頭を含む5頭の牛が穏やかな暮らしを送っています。

山﨑「牛たちの世話は朝8時ごろのエサやりから始まります。昼間は他の牛飼いさんのところへ手伝いに行って、夕方に2回目のエサやりを。時間にゆとりがあるときは牛舎の中の片付けをやったり、畑仕事もやっているのでそちらへ出向いたりもしています」

仕事を続ける中で山﨑さんが特に気を付けているのが牛たちの体調管理です。牛は神経がかなりデリケートでストレスに弱い生き物。牛舎は牛たちにとって心地良い気温になるよう季節ごとに調整されており、心すこやかに過ごせる住環境づくりがなされています。

また、スムーズな繁殖を行うために発情のサインを察知できるよう熱心な観察も欠かせません。繁殖は今後の牧場経営を左右する重要な仕事であり、確実に子牛を産ませることが求められるもの。サインを見逃してしまうと次の出産まで時間がかかってしまい、効率が落ちてしまうのです。

山﨑「仕事で大変なことはあります。台風が吹きすさぶような日であっても牛舎へ駆けつけて毎日しっかりと世話をする必要があるし、大量の糞の処理もある。それに想像以上の経費も掛かっています。だけど自分は好きでやっているから苦には感じていません。難しいけど、楽しいですよ」

牛たちみんな一頭ずつ顔や性格が違って可愛いんですよと嬉しそうに語ってくださった山﨑さんですが、自分が育てた子牛を初めて肥育牧場へと競りに出した時のことがとても印象に残っているそう。

山﨑「以前勤めていた荒木牧場は頭数が多くてちょくちょく競りに出すのが当たり前でしたから、初めての競りまでにかかった10ヶ月という時間がとてつもなく長くて。売れたときは『自分が一から育てた牛がやっと市場に回るんだ』とすごく感慨深かったです。勤めていた頃には得られなかった、自分でやっているからこその感覚ですね」

牧場のこれから

自身の牧場がスタートして1年あまり。山﨑さんの夢は今も広がり続けています。

山﨑「これからは牛舎が埋まるほど飼育する頭数をもっと増やしていきたいし、欲を言えば新たな牛舎も建てたい。そしていつかは高品質の肉牛を育てる肥育に挑戦して、繁殖から肥育までを一貫して行えるような規模の大きい牧場にしたいです。そのために始めたばかりの今は繁殖を頑張って続けていかなければなりません。自分が人に認められることも大事かもしれませんが、それよりも自分が納得のいくような牛を育てていければ良いと考えています」

インタビューの最後に、山﨑さんにとって東彼杵町はどんな町か伺ってみました。

山﨑「東彼杵町は自然いっぱいで良いところだし、とても住みやすいです。自分は田舎が好きなので住んでいて気持ち良いと感じる町ですね」

山﨑さんはその優しいまなざしで、今日も牛たちを愛情いっぱいに見守っています。

取材:樋口 英里
記事:樋口 英里
写真:小玉 大介

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