国道34号線を北に走り、杭出津1丁目の交差点を曲がると、大きな「雷」の文字が目を引く店舗がある。
ここは薬膳火鍋と麻辣湯(マーラータン)の専門店「薬膳火鍋 麻辣湯専門店 雷」。店名の「雷」には「とんがった感覚、刺激的な」といった意味が込められている。その名の通り、刺激的な、でもその中に感じられるうまみが癖になる、薬膳火鍋と麻辣湯が食べられるお店だ。
しかし、なぜ「薬膳火鍋」なのだろう。なぜ大村なのだろうか。
居酒屋を経営しながら「自分の店にしかないウリ」を探していたオーナーの中野大輔さんは、初めて薬膳火鍋を食べた時、直感で「これを売りたい」と思ったという。
辛くて辛くて、辛くて病みつきになる。そんな「薬膳火鍋 麻辣湯専門店 雷」の魅力、そしてここにしかないこだわりを伺った。
「これだ!」。衝撃を受けた薬膳火鍋との出会い
中野「このへんで(薬膳火鍋を)やってるやついない。何より食べたら癖になる料理。すごいな、この感覚って」
この店をオープンすることになったきっかけを、オーナーの中野さんはこう話してくれた。
薬膳火鍋は中国の一般的な料理。もともとは裕福ではない家庭で食べられていたもので、唐辛子を使って辛さを増し、腐りそうな食材やホルモンを食べられるように作ったことが起源だという。
中国のどの地域でも比較的食べられているそうだが、さすが広大な土地を抱える国。北京風、四川風…など、地方によって食べ方や鍋の形、入れる食材なども変わるそうだ。
例えば中野さんが初めて食べた北京風薬膳火鍋は、鍋の中央にある煙突に炭が入っており、その熱で周りのお湯を沸かすのだとか。ちなみに「雷」では重慶の薬膳火鍋をベースにしている。
当時、中野さんは居酒屋を10数年経営していたが、店独自の強みがないことに課題を感じていたという。「居酒屋ってなんやろうな。自信を持って何かを売れる人にならんば」と思っていた時に、知人に紹介されて知ったのが薬膳火鍋だった。
野菜のおいしさに感動。研究を重ねてオリジナルの薬膳火鍋にたどり着くまで
特に感動したのが、野菜のおいしさ。薬膳火鍋にはさまざまな食材が入っているが、ベースになるのが野菜だという。
「野菜が純粋にうまい」。そう思ったのは人生で初めてだったという。
そこからの中野さんの動きは早かった。当時のスタッフとともにさまざまな薬膳火鍋のお店を訪ね、とにかく食べまくった。調べられることは調べつくしたし、中国の方にも話を聞いた。こうして、「雷」にしかない薬膳火鍋の形が出来上がっていったという。
「薬膳を入れればいいっていう問題じゃない。この薬膳をいれたら、効果はあるだろうけど臭くなるなとか、違う薬膳がいいかなとか。日本っぽい漢方なんかもあるし、栄養なんかも考えて、合う合わないの基準で抜いたり入れたりを繰り返してさ。
居酒屋のときのメニューをつくる感覚とは違う。薬膳火鍋の店をやろうと思わなかったら、そういう勉強もしようとすらしなかったと思うよ。ここのメニューに関しては、どちらかといえば自分の作りたいものを優先した」
こうして生まれた「雷」のメニューは2つ。
一つは麻辣スープと白湯スープの2種類でいただける薬膳火鍋。ディナータイムはお肉や野菜の盛り合わせ、春雨がセットで付いてくる。食材の追加も可能だ。ランチタイムはお手頃に食べてほしいという思いから、品数を減らしてお値頃価格で販売している。
つけダレは「油蝶(ヨウディエ)」と呼ばれる黒酢ベースのつけダレとごまダレのふたつを用意。食べ方はしゃぶしゃぶと変わらないという。
もう一つが薬膳火鍋と同じ麻辣スープを使った麻辣湯。長崎の製麺所に依頼し、何度も施策を重ねて出来上がった中華麺か、中国の春雨が選べる。
どちらも味付けの基本は中野さんが考えているが、細かな部分はスタッフと相談しながら決めているという。
また、家庭でも薬膳火鍋を楽しんでもらいたいと、「雷」では火鍋の素と「油蝶(ヨウディエ)」を販売している。日本人に合った辛さやうまみに調整。水で溶いて火にかけるだけという手軽さだ。
さらに、一般的な火鍋の元には入っていない、薬膳もセットになっている。ご自宅用はもちろん、辛いものが好きな人への手土産としてもいいかもしれない。
食材を通して生まれた「地域への思い」
現在も薬膳火鍋に入れる食材を「研究」「検討」し続けている中野さん。最近はびわの葉に興味があるという。
「びわの葉は長崎っぽい食材がないかなと思った時に見つけて。一般的にはお茶にして飲んだりされてるね」
こうして薬膳火鍋の食材を考えることが、結果的に地元を知り、地元と繋がりを持ちたいと思うきっかけになっているという。
「こうやって食材の勉強をしてると、農家の人に興味出てくるとか、面白い繋がりが生まれてくるんだよね。千綿の人にもどんどん話を聞かせてほしいし、お手伝いだけでもさせてほしい。お茶も、今まで全く興味なかったけど、そこからつながっていけたらいいな。そういう、今までなかった感覚が生まれてるね」
現在、火鍋の元の新しいパッケージを検討中という中野さん。制作段階というパッケージを見せてもらうと、書道家の佐藤 鳳水(ほうすい)さんが手掛けた文字が。
「(佐藤)鳳水さんはお店のウリを考えるようになった頃に出会った人の一人で、この店の立ち上げのときにもお世話になって。うちの看板は鳳水さんに書いてもらってるんです。それに何回も食べに来てもらって」
できるだけ地元の食材を使い、地元の人に支えられながら、ここにしかない商品を提供する。「雷」の薬膳火鍋にはピリリとした刺激とともに、中野さんのこだわりと地域の愛が詰まっていた。
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