福祉に一票を投じる。アートを通して社会価値を創出する『=vote(イコールボート)』の挑戦

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東彼杵町にあるsorrisorisoのお隣、コインランドリー跡地の改装を経てオープンした『=vote』が今回の記事の舞台です。

たくさんの雑貨やアート作品が並ぶアートショップ『=vote』とは一体どんなところなのでしょうか?

福祉、アート、そして地域をつなぐお店に込められた想いについて、県内で計4事業所を運営し、福祉施設と企業の懸け橋を目指す会社、アンドベーシックを設立されている石丸徹郎さん。
佐世保の施設に在籍しながら、アンドベーシックの総合責任者のブランディングマネージャーを勤める坂井佳代さんをお迎えして探っていきましょう。

福祉の課題は福祉以外の場所にある

きらきらと輝くアクセサリー、カラフルなアート作品、くすっと笑えるデザインの雑貨たち。
=voteの店舗に並ぶ商品は、全てB型事業所に通所している方々がデザインや縫製、生産加工を手掛けています。

長崎県内にも、令和4年度時点で278カ所もの拠点を構える就労継続支援B型事業所。
現在でも5,500人を超える方が、自分の障がいや体調に合わせて働きながら、A型事業所や一般企業への就職に向けて日々スキル習得の訓練を行っています。

県内の福祉事業の第一線を走るお二人は、就労支援のなかでの福祉にどういった課題を感じていらっしゃるのでしょうか?

石丸「僕たちがやっている就労支援サービスは、障がいのある方と一緒に生産活動を行って、働くことそのもののやりがいを感じてもらい、企業に就労して活躍できる人材を作っていくというサービスです。しかし、B型事業所には、売り上げに応じた金額を一緒に働いた障がい者の方に“工賃”としてお渡しするという制度があって。その工賃をどれだけ払えるかで、国からの事業所に対する評価が決まってくるわけです。つまり、今の福祉施設に求められていることって、福祉施設のなかでモノを作って、それをどれだけ経済活動に繋げられるかどうかなんですね」

石丸「ただ、ここで問題になってくるのが、福祉を勉強してきた人たちが経済の勉強をしてきているわけがないっていうことなんです。例えば、介助の仕方だったり、福祉に関する座学だったり、福祉の現場に出る人が学ぶのはそういうことで、企業人としてどうあるべきかは学んできません。なので、福祉で生み出したモノをどう経済活動に繋げていくかという問題は、日本全国に共通して課せられてるものだと感じています」

令和4年度における、全国のB型事業所の平均月額工賃は17,031円。
なんと、時給に換算すると243円ほどです。
参照:厚生労働省HP 令和4年度工賃(賃金)の実績について

B型事業所の低賃金問題は、施設を経営するうえでの資金面、利用者さんのモチベーション、さらには、施設スタッフの業務負担など、あらゆる局面に影響を及ぼしているといいます。

現場を支える坂井さんは工賃の問題を背に、福祉の壁を取り払えるようなプロダクト作りに力を入れているそうです。

坂井「もちろん売り上げが国からの評価に反映されるという前提はありますけど、現場で利用者さんとやり取りする立場としては、どんなやり方で生産活動をすればみなさんが前向きになれるかをサポートするのが私の役割だと思っています。商品や施設のブランディングマネージャーとしては、営業するときに「福祉から生まれた商品なんです」ではなくて「この商品可愛いでしょ?」と、福祉の壁を取り払って言えるほどの商品を作りを目指しています」

どの分野にも共通してくることなのかもしれませんが、さらなる飛躍を求めるためには専門分野の外にある知識やアイデアが必要不可欠です。

福祉のことを学んできたプロなのに、実際に福祉の現場に立つと経営面が求められる。
今まさに、福祉業界が新たな局面を迎えているからこそ、この大きな問題が目の前に立ちはだかっているのでしょう。

トライアンドエラーを繰り返しながら、福祉を経済活動へと繋げる方法を模索している全国各地の事業所。
そこで石丸さんが打ち出したのが、福祉に関わるひとものことを増やすことで、新たな社会価値を生み出しながら福祉の循環を図る仕組み作りです。

福祉×ひとこともの。私たちの仕組み作りが福祉の社会価値を変えていく

サステナブルな仕組みを目指してスタートした「=vote」というプロジェクトは、現在、さまざまな“ひとこともの”を巻き込みながらどんどんと面白い広がりを見せているのだとか。

そんな「=vote」が取り組んでいる
・サステナブルを考える“サステナイブル”
・関わりたい働き方を考える“ものづくりDAO!全員集合”
・福祉のひとことものを伝える“福祉のひとことものが集まるWeb Media”
の3つの柱を少しご紹介していきましょう。

まず1つ目が、企業で捨てられている資源を活かすサステナブルな考え方“サステナイブル”という取り組みです。

石丸「プロダクト開発のために森さんと企業見学していると、とんでもない良い資材がちょっとした理由で毎日山のように捨てられているということを知りました。反対に、福祉のものづくりには予算がかけられないという悩みがあって。そこをマッチさせて、福祉施設のものづくりと企業の廃材を掛け合わせてみたんです」

森「僕も衝撃的でした。小さな節目があるだけという小さな理由でこんなにも木材が燃やされているのかと。毎日いったい何トンが燃やされているんだ?これはどうなんだとモヤっとしてしまうほどでした。こういった問題も含めて、これから「=vote」が取り組んでいくことにはたくさんの背景がありますね」

安全面を考慮して捨てられてしまう命綱のザイルやヨットのセイルクロスを掛け合わせたバッグ、畳べりを活用したお財布など、=voteの店内にはもこの“サステナイブル”の観点から開発された商品がたくさん並んでいます。

2つ目は、ものづくりコミュニティの形成を目指す“ものづくりDAO!全員集合”という取り組みです。

石丸「=voteのプロジェクトは、ものづくりに興味のある全国の人が関わっていける仕組み作りを目指しています。全国の企業で出る廃材とそれぞれの福祉施設が持つものづくりのプラットフォームを掲載して、それに賛同して自分ならこんなものを作ってみたい!という方がどんどんものづくりに口を出せるようになるのが理想です。住んでいる場所や働く環境にとらわれずにプロジェクトに参加でき、かつ成果に応じた的確なインセンティブが獲得できる。そんな新しい働き方を実践していきます」

最後の3つ目は、福祉のひとことものを伝えるWeb Mediaによる情報発信です。

石丸「この仕組み作りを実現させるためには、福祉の活動を外へ伝えることが重要になってきます。福祉業界がどれだけ良いクオリティを持って市場で勝負できているか、企業さんに付加価値を与えられているか、福祉現場のものづくりって今はこれだけ進化しているんだよってことを、外に伝えるための手段がどうしても必要になってくるんですね」

森「そこで、私たちが地域の見える化を軸に運営している「くじらの髭」というWebサイトを活用します。例えば、今回のように福祉に夢中になって取り組んでいる方たちの想いや背景を記事化することで、福祉の見える化を図って外に伝えていきます。見える化を行うことで人と人とのマッチングが起こりやすくなる。さらに、人と人が合う化学反応で新しいものや、ことが生まれてくる。そしてそれに関わる人の営みが生まれることで、やっとこの地域に人が来るというアクションに繋がっていくと考えています」

石丸「Webサイトはもちろん、とにかく今の福祉プロダクトがこんなにも進化していることを知ってもらうのが一番の課題でした。そこで=voteの実店舗を持つことにして。東彼杵町のコインランドリー跡地をどうにか活用できないかと森さんにお願いしたことで、今回オープンとなった「=vote」が生まれるに至ったわけですね」

『=vote』商品の購入はあなたの一票です

石丸さんが作り出した「福祉とものづくりを進化させる」プロジェクトブランド名をそのまま店名として受け継いだ『=vote』。
“投票”というこの言葉には、誰もが気軽に福祉に参画していける未来が映し出されています。

石丸「福祉が福祉でいられるために、僕たちが目指しているのは福祉がより収益に結び付き、円滑に社会に馴染んでいけるような仕組み作りです。例えば、開発した製品のなかに、資源再利用率97%のダンボールでできている額縁があります。これは中に絵を20枚も収納できるようになっていて、この額縁を各事業所に置くことで、今までは捨てられていただけの利用者さんの絵を、商品として「売る」という行為に繋がります。1枚、2枚と絵が売れる。さらに、地域に根付いたアーティストの絵を探して回るような新しい文化が作られる。こんなふうに、事業所が困りごとを一緒に解決していけるような、仕組み作りを意識したプロダクトの開発を進めています」

石丸「自分たちの行動指針を表すようなこのプロダクトのシリーズを、僕たちは『=vote』と名付けました。“vote”とは、投票するという意味です。私たちのサステナブルな活動に対して、賛同を得てくれる方が“投票”という意味でこの商品を購入してくれたらいいなという願いを込めています」

店名である『=vote』には、石丸さんをはじめ、これからの福祉を作り上げていく人たちの行動指針が込められていました。

お店での商品選びや買い物を楽しむ中で、実はそれが新しい世の中への清き一票に繋がっている。
お店を訪れた際は、商品の背景にあるストーリーにもぜひ注目してみてください。