「パチパチと音を立てて燃え上がる炎。その温かい光に包まれ、心が安らぐ。焚き火は、私たちに自然との繋がりを感じさせ、日頃の疲れを癒してくれる。長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)にある『TAKIBIBA[R]』は、そんな焚き火の魅力を最大限に引き出した、ユニークなお店だ。店主の田中亮太さんは、幼い頃から焚き火に魅せられ、大人になってからは焚き火イベントを開催するなど、その魅力を多くの人々に伝えてきた。今回は、田中さんの熱い想いと、TAKIBIBA[R]でしか味わえない特別な体験について話を聞いた。
焚き火への興味と現在の活動につながるルーツ
田中さんは幼い頃から、室内よりも外で遊ぶことが大好きな少年だった。時には家族でキャンプへ行き、陽が暮れるまで友達と公園で遊ぶ日々を過ごす。
田中:基本的に家でゲームとかするっていうよりも、外で遊ぶ方が好きで友達と公園とか、学校の校庭に集まって野球やったりとか。特に野球は、外が真っ暗になって、ボールが見えなくなるまで遊んで、 親が「まだ帰ってこんとねって」 って言いにくるまで遊んでました。そろそろしょうがない、帰るか!みたいな感じで帰ったり、そんな感じでしたね〜
また家族でキャンプへ行っていたことも思い出の一つだと語った。この思い出が、現在に大きく影響することとなる。
田中:家族とキャンプに出かけたりする中で、自然と触れ合う楽しさを学びました。キャンプとかバーベキューとかの残火に小枝とか入れて燃やして遊んだりとか、そういうのはなんかやってましたね。ちっちゃい頃の 記憶として。杉の枯葉ってめちゃくちゃ燃えるとか思ってました(笑)
やがて大学へ進学し、父が建築関係の仕事だったこともあり小さい頃から興味のあった建築を専攻。デザインや空間作りへの興味を深めた。大学卒業後は、大学の技術職員として長崎市や福岡で約15年間建築設計・デザインなどの仕事に携わる。仕事をしながらも、幼少期からアクティブな性格の田中さんは、始めは趣味として再びアウトドアに興味を持つ。
田中:子供の頃、キャンプが楽しかったっていう記憶があって。それで社会人になってからも、いきなりキャンプはやらなかったですけど、アウトドアが好きだったんで、 ちょっと山でも登ってみようかなと。基本1人で登ることが多かったですけど、たまに職場の友達と一緒に登ったりとか、そんな感じで。大学生の時ドライブに行ったり、出かけるのは好きでしたけど、社会人になってから、より自然の中で遊ぶようになってきました。キャンプも再び行く様になり、焚火も毎回楽しんでいましたが、この焚き火の良さとか面白さを、自分たちみたいな、キャンプが好きな人とか、アウトドアが好きな人しか、知れない、気づけないってのは、なんかもったいないなと段々思ってきて、焚き火の魅力を、今全く興味がないような人とか、どちらかというインドア派みたいな、そういった人たちにも、知ってもらいたいなって。知ってもらえるきっかけとなるような気軽に体験できたりするようなイベントみたいなことを、なんかやりたいなって思うようになりました。
あるキャンンプ場へ行き、焚き火を囲んで、焚き火への想いなどを管理者の方と話したところ「それならうちのキャンプ場をぜひ使って!」と言われ、焚き火を広める活動がより加速することとなる。
田中:そこのキャンプ場で初めてイベントをしたのが、焚き火を広めていく活動のきっかけになりますね。その時やったのは、焚き火台のイベントで、洋服とか靴って試着できるけど、焚き火台って実際に火を焚くわけにはいかないから、アウトドアショップでは普通は試せないでしょ?けど使ってみないことには、自分にどんな焚き火台が合うか分からないし、いきなり道具を揃えても焚き火にはまるかどうか分からない。だからまずは洋服を試すように焚き火台を試してもらおうってイベント内容でしたね!焚き火台を6種類くらい準備して、色んな焚き火台で、実際に火起こししてもらったり好きなように薪を焚べてもらったり、そんなイベントでした。そんなイベントを何回か行って次は焚き火を使ってもっと楽しいことを体験してもらおうと思い、カレー屋さんとコラボして焚き火&カレー教室を企画したり、私もキャンプの時に楽しんでいた焚き火での珈琲焙煎を体験してもらったりとイベント内容を充実させていきました。そうした活動を地道に続けていると、興味を持ってくれる人が少しずつ増えて、取材の依頼が来たりとより多くの人達に焚き火の魅力を伝えられるようになってきました。(TAKIBIST Bo-taと言う名前で活動しており、本名ではなく「ボータ」さん「タキビストさん」と呼ばれることも多々あり)
心の片隅にしまっていた夢の始まり
ある日仕事の休憩中に見ていた物件との出会いで、大きく運命を変えることとなる。
田中:いつかは、いつでも気軽に焚き火を楽しめる常設の焚き火場を持てるといいなと思いつつ過ごしている中で、お昼休みにネットでたまたま見た物件が、焚き火ができそうなスペースのある物件で。店舗用の貸借物件で、焚き火ができる場所なんてなかなか見つからないだろうし、まずは薪で焙煎した珈琲が楽しめるカフェをオープンして、後々焚き火ができるカフェを計画しようかなと思っていました。なので、この物件の写真を見て「お!!」と思って不動産屋さんにすぐに連絡しました。焚き火が楽しめるカフェをやりたいという想いを伝えた所、その方も焚き火好きの方だったこともあり、すぐにオーナーさんに連絡をとってくれ、店舗の屋外スペースで試しに火を焚かせてもらうことに。そして「このくらいであればいいですよ」と承諾をしてくださいました。40歳というキリの良い年齢、そんなタイミングでこうした物件と出会い、今始めないとこのままずるずるといつかやりたいなと思ったまま時間だけが過ぎてしまって、結局何もやらない、何もできないのではないかと思いこの場所で焚き火が楽しめるカフェをオープンしようと決心しました。
お店を始めるにしても、珈琲とちょっとしたおやつが楽しめるお店くらいの規模感で考えていたそうだが、この物件の広さ的にはランチにも力を入れないといけないなと感じたそうで、奥様とも話し合いを重ね焚き火と珈琲とランチを楽しめるお店作りを始めることとなる。
田中:焚き火に関しても、やっぱりイベントだけだと、焚き火やってみたいけどイベントの日は 用事があって行けない、みたいな感じの話とかもちょいちょい聞いてたんで、 イベントでその日だけみたいな感じじゃなくて、いつ来てもふらっと焚き火が気軽に楽しめるような、そういう場所にしたかったので、常設の焚き火場を作りました。手ぶらで来て「焚き火したいんですけど」って言ってもらったら1時間500円で焚き火オーナーになれる仕組みとか、あとは、焚き火で珈琲豆の焙煎体験もいつでもできます。食の方に関しては、奥さんが 担当してくれてて、奥さんは、自身の体調不良をきっかけに食と健康のことに興味持って、発酵調味料であったりとか、薬膳とか、あとは「人の顔などを見て、健康状態がわかる」望診などを長年勉強していました。また調理のパートをやっていたことや、そういった勉強をしてきたことと、経験がお店づくりにも役立っていて、とても助かっています。
夫婦二人三脚で運営するお店は、体の中から健康に、そして、視覚的にも焚き火で癒され、来店していただくお客様がココロからカラダまでトータル的に健康になっていって欲しいと語った。ただ焚き火で癒されるのではなく、そこで頂く食事からこだわりをもち、本質的かつ一貫性をすごく感じた。またコース料理もあり、面白いことに、ただ料理をいただくのではなく体験しながらお野菜やお肉料理が楽しめる仕組みとなっている。焚き火の中に丸ごと野菜を入れて焼いたり(奥様手作りの発酵調味料をつけて食べると更に美味しさUP!)自分で串に刺した材料を炙ったりと焚き火の側で楽しめるほか、暑い日や寒い日は室内から焚き火を眺めながらくつろぐこともできる。また焚き火で温めた熱燗まで楽しめる。なんとも贅沢で面白い仕組みだと感じた。※コースは要予約制
TAKIBIBA[R]に込めた想い
「TAKIBIBA[R]」読み方は、そのまま「たきびば」だが、最後の「R」はどんな意味が込められているのだろうか。
田中:TAKIBIBA[R]って言う名称はずっとイベントの時とかも使ってたんですけど、 焚き火をする場所で、焚火場。一番最後のRは読まないんですけど、亮太のRとあとは、コーヒー豆の焙煎もしているので、ロースターのRだったりとか、 焚き火場に集まって、いろんな人が談笑するBAR(バー)みたいなちょっと 大人のくつろぎ空間じゃないですけど、将来的にそんな焚き火とお酒が楽しめるバーなんかもできたらいいなって想いがあります。
最後の「R」には将来性を見据えた想いが込められていた。また田中さんはデザインも得意で、店内のロゴなども全て田中さんが手掛けている。
薪割ぴょん吉(まきわりぴょんきち)と一流のTAKIBIST(タキビスト)
店内のメニュー表など田中さんが全てデザインされている中にうさぎがモチーフになっているロゴがあり、そのうさぎは「薪割ぴょん吉」と言うそう。また焚き火をする者としてのマナーなどを語った。
田中:お月様の中にいるうさぎを連想して、お月様の中のうさぎは餅を「ペッタンペッタン」しているけど、このロゴは、薪を「パッカンパッカン」割っている様子を描いています。お月様を眺めながら焚き火をしている時に、あのお月様のうさぎが餅つきじゃなくて、 まき割りしてたら面白いなってふと思って。あと、この服にもデザインしたんだけど、焚き火に必要な材料とか道具を描いた。ただ一番大切なのが、この部分。焚き火をした時に燃え残ったものを火消しつぼに入れてきちんと持ち帰る。そこまでやって本物のTAKIBIST。あのピアニストとかネイリストみたいな(笑)後片付けまでしっかりしないとただの放火魔になってしまうからね。
後片付けまでしかっりやらないといけないと力強く語った田中さんは、ただ好きな焚き火をすれば良いのではなく、周囲の安全に配慮する姿勢に本質が見えた気がした。また燃えてしまった灰はさらに循環を生み出していた。
田中:知り合いに染め物屋さんと焼きもの屋さんをやっているご夫婦がいらっしゃるんだけど、染め物にも焼きものにも灰を使うそうで、ある日「沢山出るなら、その灰をちょうだい!」と言われて今では出てきた灰をふるいにかけて渡すようになりました。
取材で、燃えた後の灰の話をしていたところに聞けた話だった。出てきた灰も決して無駄にすることはなく、循環を生み出す。またTAKIBIBA[R]がある東彼杵(ひがしそのぎ)はお茶の町でもあるため、茶農家さんが手入れをされた際に出るお茶の木を焚き火に活用したり、料理の中でも地域の素材を使っていたりと、繋がりを大切に活動されていることが伺えた。
これからのこと
今年(令和6年)4月より開業され半年が経つそうだが、店舗には沢山のお客様が来店され、コーヒー豆を買って行かれる方や、食事を楽しみ田中さんがお客様との会話を楽しまれる姿が見えた。一つ一つが丁寧で、とても落ち着く空間となっている。今後の展望について話を聞いてみた。
田中:焚き火って、初めましての人同士でも、仲良くなったりとか、喋りやすかったりとかするんで、 友達とか、1人で、くつろいでもらうっていうのももちろんいいんですけど、こういった場所で色々な年代の人や地元の人と観光の人など、色んな交流が生まれる交流の場になっていけばいいなって思っています。
取材の中で田中さんの芯には焚き火がある。想いに一貫性があり本質的だと感じた。またコンセプトにもなっている「人生に、火遊びを。」について話を聞くと、「一見火遊びって悪いことをしているようなイメージだけど、もっとワクワクとした人生を送って欲しいとか、遊び心を持って日々楽しく過ごしてもらいたい。そんな想いのコンセプトです。」っと語った。取材をする前は、コーヒーのイメージや、ランチが食べれる場所のイメージだったと話ていると、、、
「私は、焚き火屋さんです!」
と笑顔で締めくくった。