佐世保市生まれ、佐世保市在住という情報しかわからない、ベールに包まれたアーティスト・shinさんの作品が2022年sorriso risoにて展覧されることが決定した。作品展のタイトルは『addiction』。その内容について話を伺ってみた。
“光と影”をテーマとするアーティストが、
sorriso risoを開催地に選んだ理由
shin「今回、東彼杵の地で作品展を開こうと思った理由ですが、もともとこの町の風景がとても好きだったんです。一本道で、穏やかな大村湾を横目に見ながら佐世保から大村、長崎へと続くこの道が。また、途中の空間もすごく好きで、岬にぽつんと佇む家とか可愛いらしいんですよね。そして、お洒落なカフェもあるsorriso risoがあって、ここで自分の絵を展示できたらしっくりくると思って。お店の活動や成り立ちは知らずに、たまたま雰囲気が良くて選んだのですが、お話をしてみてお店のバックグラウンドを知ると、もっとこの場所でやりたいと思うようになりました」
今回の作品展のタイトルでもある『addiction』という作品(上記写真)が、実に興味深い。一度訪れた人なら見覚えがあるかもしれないが、sorriso risoの店内を彷彿とさせる…。
「これは、偶然の一致ですね(笑)。今回の作品展を意識したわけではなかったんですが、言われてみると、確かに”sorriso risoっぽい”。自分の真相心理が無意識のところで出ていると思うと、感慨深いです。この作品は左右で対比になっているんですが、同じものをただひっくり返しても面白くない。なので、少しずつ変化させながら描いています。完全に想像の世界なんですが、影になってる部分に星と月が出ていて、窓の外みたいになっている。上を定義するものがはっきりせず、どっちが上で下なのかがわからない。さらに、フクロウという夜に飛ぶ物を飛ばすことで空間性を表現しています」
一貫したテーマで作られる作品たち。
全ては、『世界の果てで待つ君へ』から始まった
shinさんの描くどの絵にも、刻まれているのは”光と影”というテーマだ。表裏一体の世界観が、観る人を魅了する。今まで描いてきた中で、印象的な作品とは何だろうか。
「宇宙で宇宙飛行士が浮かんでいる絵があるんですが、そこに風船を入れるという起こり得ない状況を描いています。別に風船に深い意味はなく、ただイメージのままに描いてみただけなんですが、さらに絵の中心に開いたドアから手が一本伸びていて、ひとつの風船を掴んでいる。無意識に描いたものなんですが、そのドアが足されて初めてしっくりきたんですよ。足りないピースが当てはまったというか」
題名は、『世界の果てで待つ君へ』。広大な宇宙は、自分の心の中を表しており、その中の風船はこれまでの作品たち。絵を描くことは氏の心の支えであり、そして作品を掴んで外に出て行こうとする氏の心の変化がこの絵に描かれている。
「深層心理の一番深いところを表現できたと思います。宇宙飛行士は僕自身で、風船というのは、無意識の心の中から生まれてくる作品たち。それに乗って自分が浮上している。ただ、自分一人しかいません。そこに、突然ドアが現れて誰かがキャッチする。これは、誰かのもとにこの絵を届けたいという気持ちが現れています。絵を通して自分の想いに気づき、これがきっかけで作品展をしたいと思い立った、思い入れ深い作品です」
それまでは、人に見せるためではなく、ただ好きで描いていただけのことだった。この作品が生まれて、初めて人に見せるのを意識するようになった。
「なので、人に作品を観てもらうなら、自分のコンセプトをしっかりしないといけないと考えるようになりました。友人に相談して、アーティスト名や印鑑をしっかり考えて作ったらどうかと言われて。アーティスト名の『shin』も、友人につけてもらいました」
addiction【アディクション】(名)。
①常用、中毒、依存 ②[…への]熱中、渇望
今回、sorriso risoにて開かれる作品展のテーマが『addiction(アディクション)』。意味は、日本語で「中毒」や「依存」を指す。その言葉を選んだ真意は、何だろうか。
「僕の絵って、万人にわかりやすい絵ではないと思うんです。色々な含みがあって、僕の中で多くの伏線を張っています。パッと見て良いと思ってくれる人もいれば、中にはどういう意味なのか理解しようと思ってくれる人もいます。意味深いものが色々散りばめられていると、何度か見ていくうちに味が出てくるというか、そっちの方が面白いんじゃないかと思います。それが、『中毒性』ということで今回のタイトルを考えました。好きな人には、ひとつの絵でずっと考察してほしい。僕の描く世界観の中毒になってくれるような人が現れてくれること期待して。そうでないと、描く意味がないです」
小説や音楽、映画なども、わかりやすいものは得意ではないという。そんな氏だからこそ、万人に認められる絵ではなく、特定の人に深く刺さる絵を追い求める。
「複雑にこんがらがった、だけどシンプルな世界。そこのバランスを心がけて描いています。現実的な部分と、非現実的な部分とが合わさっておかしな感覚になるというか。よく考えているのが、日常で見ている風景のすぐそばにパラレル世界が存在しているということ。ちょっと路地を曲がったら、全然知らない街があったり。そんなイメージですね。日常の風景を書きたいんですが、ちょっと外れて想像が膨らんでいくというか。そういうのが面白いと思ってもらえるのが狙いだし、本望です」
「自分は劣等生で、マイノリティ」だと氏は言う。しかし、挫折を経験し、モラトリアムの時代を経たからこそ見える世界がある。絵から送られる不思議なシグナルが、魂の奥底で揺れ動く。表現者にとって、観る者がメッセージを汲み取ってくれることがどれだけ支えになるだろうか。中毒性溢れる作品を、その目に焼き付けてほしい。余韻を残しながら、味わってほしい。新年早々の開催が決定した作品展が楽しみでならない。
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