“便利な田舎”で人を繋ぐ東彼杵町の新ツール『くじらの旅チャンネル』

取材・文・編集

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東京から移住してきて早6年となる齊藤仁さん、晶子さんご夫妻。2019年8月1日に『さいとう宿場』をオープンさせた。人を受け入れてくれる風土と、自然とのバランスの取れた東彼杵町でもっと人をつなげるために新たな観光ツール『くじらの旅チャンネル』https://kujiranotabi.comを立ち上げた。

人と人を繋いできた夫婦が
点を、線で繋いでみた

「2021年くらいから『マイクロツーリズム』という言葉が流行り始めました」。当ツールができるきっかけが、そこにあると齊藤夫妻は語る。

マイクロツーリズム。自宅から1〜2時間圏内への宿泊観光や日帰り観光を指す。本来のツーリズム市場に対し規模が小さくなるとは限らず、リピート利用の潜在性が高く繰り返し利用してもらう仕組みを持つことで持続可能で安定したマーケット性を秘めている。

晶子「コロナ禍により、遠くに行けないから近場の旅をするとか、故郷を見直す取り組みが芽生た世の中の流れの中で、マイクロツーリズムが出てきました。具体的な取り組みというのも参考例としてあったので、私たちとしてもその仕組みを作ってみたかった」

なぜ、その思いに至ったかというと、もともと東彼杵町が観光サイトを持っていなかったことある。

「自分が移住してくる時も、観光サイトがなくて困った経験があります。なかったから、欲しかったんです。そして、まだ誰も始めてなかったので、自分がやるという気持ちで始めました」

始めるにあたって、どういうサイトを作れば良いか。今までやってきたもの、今あるものを活用し、足りないものを埋めようという気持ちをヒントに、構想を広げた。

「もともと、私たちの経営する『さいとう宿場』でやってきた”人と人を繋ぐ”ということ。繋ぐためには、どういうふうに町内を回るかがとても重要です。会いに行ってほしいと言ってはいるものの、実際にどうやって会いに行けば良いかわからない。そこで、東彼杵ひとこともの公社の『くじらの髭』に着目しました。くじらの髭が発信を広げる中で、『ひと』や『みせ』など東彼杵町のスポットをどんどん増やしてくれていた。”そのスポットを、線で繋いでみたらどうなるか?” 繋ぐことで、今度はそれが周遊コースになるんですよ。なので、くじらの髭がやってきたことを繋ぐことができると観光サイトとして成り立つんじゃないかと思って」

そこで、くじらの髭の生みの親でもある『Sorriso riso』創設者の森一峻さんに相談。そして、いつの間にかチームが出来上がり、相談を重ねながらできたのが、このくじらの旅チャンネルなのだ。

くじらの髭が、これまでやってきた点の作業。それを、線で繋いでいく作業を『くじらの旅チャンネル』が担い、機能していくこととなる。

「私たちがこのサイトをもつ目的として、宿泊をしてもらうことにあります。なので、さいとう宿場から1泊2日とか、2泊とかまわれるコースとなると、東彼杵町外にも足を延ばすことになると思うのです。近くには陶芸の波佐見町や温泉の嬉野市などがあります。色々なエリアと一緒になって盛り上げられるかなというのを考えました」

仁「いわゆる、マイクロツーリズムという考え方のなかで、その地域の滞在時間を増やして”交流人口”を最終的に増やしていく。そうしていくことが、最終的に地域に関わるようなことにも繋がるのではないかと思います」

宿場に泊まってもらって、滞在時間を増やして。近場の人たちにも、深く町の魅力を知ってもらうことができる。

人にフォーカスを当てた
新しい観光サイトを目指す

また、くじらの旅チャンネルという観光サイトがあると、案内する側も助かるのだという。

仁「そもそもこのサイトを作った理由の一つとして、宿場にお客さんが来て町を案内するのが大変だったということ。東彼杵町の町に、どういうスポットがあるかを知らない人が訪ねてくることも多く、東彼杵町の読み方を知らない人もいたりします。なので、イチから説明するのも大変で、茶畑を見てくればと言っても、道を説明するだけでも一苦労でした」

晶子「これまでは、簡略の地図を渡して説明するという、非常にわかりづらいマニュアルなやり方でした。それが、くじらの旅チャンネルのQRコードをスマホで読み込んでもらえば、詳しい地図入りのサイトを見てもらうことができるし、くじらの髭とも連携しているからもっと東彼杵町のスポットを知りたかったらそっちも読んでもらえます」

仁「カフェに行きたい。コーヒーが飲みたい。お茶を買いたい。クジラが食べたい。地元で何か美味しいご飯食べるところないかとか。お客さんのニーズがそれぞれ違うので、このサイトから見てもらえれば、カフェの括りもあるし、ランチの括りもあるし、お茶の括りもあって、そういうジャンル分けができているので目的に合った検索ができます。コース別のおすすめ周遊コースを出しつつ、普通のスポット検索としても使うことができる。説明をするよりは、目で見てもらった方が伝わりやすいのかなと」

この観光サイトの面白いところ。それが、『人』にフォーカスを当てているということ。そして、登場しているのが、東彼杵町に住むキーパーソンの人たちだ。

晶子「今回、このサイトに関しては案内人を立てたくて。そして、案内人というのがこの辺の人ならお茶農家さんであったり、カフェのオーナーであったり、商売をされている方がメインです。その方が、自分やお店のPRもできて、さらにその人の勧めるコースをお客さんに回ってもらう、人をメインにしたサイトを作りたかったんです」

仁「人にフォーカスを当てた観光サイトを作りたいと思ったんですよ。ただの情報誌みたいな感じではなく、その人が紹介するお店がこちらです、みたいな。そして、一般的な検索もできる多様性のあるサイトを目指しました」

晶子「もっと詳しい情報は、くじらの髭に行って見てもらえば良いので、くじらの旅チャンネルの方は、基本情報をまとめています。そして、東彼杵町に住むキーパーソンのファンになってくれれば、その人が紹介する周遊コースを巡って見たくなるし、紹介するお店はきっと素敵なお店だと思ってもらえれば。その人が好きな道を辿ってみると面白いんじゃないかと思います」

その場所で暮らし、商売をしている人が語る周遊コースは何よりも説得力がある。そして、それは一般的な観光サイトのようなものとは異なり、温かみのあるサイトになるはずだ。

晶子「周遊コースをキーパーソンの人に頼むと、がっつりトレッキングのコースを作ってくださる人もいたり、新しいコースの発見もありました。でも、たとえコースが重なったとしても、それはみんなが良いと思っているところと捉えることもできます。茶畑を見下ろす場所とか、重なる場所があるというのはこの町としての推しのスポットなのかなと。なので、あえてバラバラにする必要もなく、重なっても良いと思う気持ちで自由に作りました」

お茶とくじらの町に
旅するくじらが現れた

形がまとまるまで、どのくらいの期間を要したのか。

晶子「2021年の9月に事業がスタートし、このタイミングでの公表なのでだいたい半年です。本当は、『uminoわ』オープン時に、くじらの旅チャンネルについてのトークショーもやる予定だったんですが、その頃は観光なんて言っている余裕もなく延期しようということになって。その間も粛々とデータ集めはしていて、もう一回仕切り直してトークイベントを行うことになりました」

くじらの旅チャンネルの名前の由来は、昭和感を出したい気持ちがあった。

晶子「もともと、くじらの髭があって、今度は旅の方にシフトする。さらに、名前も昭和の感じが良いということで、いろいろなアイデアが出る中で『昭和と言ったらチャンネルだよね』と」

仁「お茶とくじらの町で、旅するくじらみたいな」

そして、ついにサイトが出来上がった。

晶子「楽しかった。すごい、ワクワクしました。キャラクターが決まった時点で、旅しているというのもわかったんですが、そのキャラクターが実際に動いたりとか、案内人とかが登場したりしてとてもテンションが上がりました」

仁「まず、トップページにインパクトがありますよね。背景が、本当に東彼杵町なんですよ。千綿駅があって、Sorriso risoがあって、uminoわがあって。本当に、東彼杵町を山から見下ろしたような風景にワクワクさせられました。上から見下ろすと、本当にそんなイメージになるのかなと。なので、見る人が見ればちゃんとわかってくれます」

晶子「ファーストページで心をキャッチできるようなサイトが欲しかったので、まさに理想のページに仕上がったと思います。そして、さらにアイコンが動くという。すごく嬉しかったです。これから育てがいのある、可愛い子が生まれたなという思いです。キャラクターもそうだし、これから展開できそうな予感がします」

仁「東彼杵町の観光協会も、名前を東彼杵町とつけて今年から動き足したので、逆にそことタイアップができたら、その観光協会を見にこられた方にもこういうサイトがあるからと見てもらえるようにしたら、どんどん広がっていくかなと。いつまでも僕らが運営しているというわけではなく、どんどんつなげて、輪を大きくして増やして行っても良いと思います」

晶子「マイクロツーリズムで1時間圏内とかなったときに、東彼杵町に限らず、他にも全然回れる場所がいくつもあるので、そういった地域との連携もしていきたいですね。いろいろと、アイデアをもらえたらと思います。みんなで育てていけたら」

東彼杵町に、新たなベースを作り上げたくじらの旅チャンネル。町にキーマンが増えたら、このサイト上でも増えることになるだろう。これが発端となって繋がりがどんどん増えていけば、ますます町が面白くなっていきそうだ。

ひと・みせ・イベントについての詳細は以下のそれぞれの記事をご覧ください。