僕らが描く、ホントのようなウソの話。「長崎」×「妄想」で創る、でっちあげメディア『Decchi』が販売開始されました。

文・写真

Decchi メイン写真

世の中のさまざまな物事を切り取り紹介し、情報の送り手と受け手をつなぐ媒体。それが本来のメディアのカタチです。

長崎という地には、古くから根付いた歴史や文化、人々のドラマがあります。それらを伝承する教科書があって、語り部がいて、情熱がある。このWEBメディア「くじらの髭」も、まちの「ひと」「みせ」「もの」を発信することを目的に、たくさんの記事が掲載されてきました。

しかし、伝えたいことがあるのに、それでもどうしても届かない人たちがいることも事実。「リアリティやパッション以外だったら、一体何がひとの心に響くのだろう?」そんな問いに、一つの答えを示す(かもしれない?)ZINEをご紹介します。

リアルではなく、アンリアルに描く長崎の世界

『Decchi(でっち)』とは、日本初(?)のでっちあげメディアです。先述した通り、さまざまな物事のリアルを紹介する媒体、それがメディアの本来のカタチ。ですが、Decchiは“ウソ”しか書きません。

今までに、Episode.0「出島」、Episode.1「百菓之図」の2冊を刊行しました。物語を描くのは、長崎に暮らす若手ライター3人の“妄創”文芸ユニット。長崎で暮らす人・長崎に興味がある人に「より長崎を深く知って欲しい」「より好きになって欲しい」という想いを乗せ、筆を走らせます。

物語をきっかけに、「長崎のホントって何だろう?」と興味を持っていただくことこそが、Decchi編集部の想いです。Decchiでは、毎号ひとつのテーマをもとに妄創した3つの物語をお届け。

そう、たとえばーー

Decchi.0 表紙

ー「出島って、何のために造られたの?」

ー「当時、外の世界に憧れを抱いた長崎のはみ出し者たち。彼らが、一歩でも外の世界に近付くために埋め立てていた人工の島。それが出島の正体なんだよ」

より正確に、よりリアルに文章を綴ることも一つのあり方。反対に、よりユニークに、より軽快に文章を綴る、こんな“遊び心”もあってよいのではないでしょうか。

ショートショートとは?

ZINE『Decchi』に収録されているのは、「ショートショート」という超短編小説。

ショートショートとは、ユーモアやサスペンス、ファンタジーを生かした印象的なオチで終わることの多い、超短編の創作物語です。読書が苦手な人でも気軽に読めて、スパイスの効いた物語をサクッと空き時間に楽しめることで人気です。

また、創作や文芸を趣味とする人々の間でも、さまざまな発想・アイデアを活用して一編の物語にしたためることができるため、Twitterやnoteへの投稿、文学賞への応募にショートショート作品を起用することが増えています。

Decchi編集部が作品づくりに取り組む際には、長崎県内の面白い歴史や文化、エリアをテーマに設定。その中でも特にキャッチーなものやことをピックアップし、リサーチします。そして、ピックアップした「長崎」を題材に、よりカオスで飛躍した物語へと昇華させるため、ランダムに選んだ日常ワードを組み合わせていきます。

Decchi.0 表紙

例えば、Episode.0「出島」で生まれた組み合わせは、こんな具合に。

「出島」 × 「バナナ」
「埋立地」 × 「呪いの」
「開港」 × 「おっちょこちょいの」

自分たちでも全く予想できないストーリー展開。アイデアを発散させながら、設定やオチを妄創していきます。

平戸に伝わるお菓子の書物「百菓之図」にまつわる妄想物語

ここからは、Episode.1「百菓之図」の作品紹介と交えて、どんな組み合わせで物語が生まれたのかを、ちょっぴり解説。

Episode.0「出島」に引き続き、表紙イラスト・ロゴは、長崎を拠点に活動するエンターテイメントチーム「CHEBLO」が、Decchiの世界観をポップにデザイン。
各作品のイメージを表現した挿絵は、長崎育ちでイラスト・マンガ・デザインなどを手掛ける「minatuba」がタイトルの隣を飾ります。

Decchi.1 表紙

毎号ひとつのテーマをもとに、3 人のライターが妄創した 3 つの物語をお届け……なんて言ってたはずなのに、 蓋を開けてみると7つの物語が生まれていました。

Decchi.1 中面リード文

今回の舞台は、平戸島。いにしえより伝わる銘菓の図鑑「百菓之図」をもとに繰り広げられる、パワフルで、繊細で、ときに切ないストーリー。

潮が満ちて、天馬。
Decchi.1 「潮が満ちて、天馬。」

「今平戸」 × 「空飛ぶ」

荒れ模様の空の下で、酒に酔う私。
そんな私の目の前に現れたのは、背中に羽の生えた一頭の馬だった。

どこか後ろめたさを感じていた帰省。
それをほんのり和らげる父の優しさと、目まぐるしくかき消すイタズラの数々。

蘇るあの日の記憶と、 ちょっぴり塩味。
そこにはいつも、今平戸 (こんぺいとう)があった。

烏羽玉の髪の女
Decchi.1 「烏羽玉の髪の女」

「烏羽玉」 × 「東と西の」

うばたまの 我が黒髪や 変はるらむ 鏡のかげに降れる白雪

毎晩母がお手入れしてくれた黒髪は、私を私たらしめる艶やかな黒髪は、まるで京都のまちに伝わる烏羽玉のよう。

そんな私の黒髪を撫でたエボシ様との、淡く甘い恋の行方や如何に。
闇夜に溶けた銘菓の味は、風に吹かれて西へとつづく。

鬼退治は、砂糖を効かせて。
Decchi.1 「鬼退治は、砂糖を効かせて」

「牛蒡餅」 × 「鬼」

「桃太郎」をご存知でしょう。しかし、あなたはまだ何も知らない。

「鬼ヶ島」がどこにあるのか。
「きびだんご」はどんな味なのか。
そして、いったい誰がつくったのか。

その謎を解く重要な鍵が、どうやら平戸島に眠っているらしい。
知る人ぞ知る「桃太郎」 を覆す、鬼もびっくり! 痛快アドベンチャー。

次回作は、南の野母崎半島が舞台
樺島灯台

Decchi Episode.2では、「野母崎半島」をテーマに取材・創作する予定です。

長崎市の南部に眠る、圧倒的なスケール感の自然や、ロマンあふれる歴史、そして古くから伝わる人々の営み。ここからどんなショートショートが生まれるのか、本人たちもワクワクしています。

野母崎の取材風景

3人の妄創文芸ユニット「Decchi」が描く遊び心を、どうぞお楽しみください。
(※この物語はフィクションです。)