ずっと心の中にあった医療から福祉への貢献『上田皮ふ科』院長・上田厚登さんの取り組み

取材

記事

写真

『医療法人 Palette 上田皮ふ科』院長として、優しく丁寧な診療を心がけ、患者さんに満足してもらうことを最優先とした取り組みを続ける上田厚登さん。クリニックのスタッフなど、関係者全員の意思を統一して、より良い組織となるような工夫をさまざま凝らしてきている。院長としての取り組みはもちろんのこと、そのほかにもさまざまな方面で動き続ける上田さんの、これまでとこれからのことについて紹介していく。

医療法人 Palette 上田皮ふ科 院長として
上田皮ふ科の基本的信念が記されたクレド。

先述したとおり、上田さんは組織作りという点において、上田皮ふ科のスタッフに共通の理念を浸透されるために『クレド』を作り、意思統一を図る工夫を行なっている。2010年頃から自身の成長を図ってさまざまな受講をしており、2014年には個人の能力開発や、組織の企業開発を行っている『アチーブメント株式会社』のプログラムを受講し、自身の組織に還元。リーダーとして学ぶ動きを行ってきた。

上田さんがクリニックに対し取り組んだことのひとつとして、スタッフの子どもたちへの貢献がある。上田皮ふ科の従業員満足度の向上に対する取り組み10箇条を掲げ、そのなかに「学ぶことへの貢献」というものがある。そこで今年の夏、大村市の『ミライon図書館』でスタッフの子どもたちを対象に『夢実現応援プロジェクト』を開催した。

内容は、外部の方を呼び、クリニックのスタッフの子どもたちを対象に「夢を描いて、信じて、伝える」をテーマとして、将来なりたい自分を考える取り組みである。将来の自分をイメージした子どもたちは、それを書き出して、最後には発表する。しっかりと伝えるということを重要視しているという取り組みだ。子どもたちのなかに、21歳で上田皮ふ科で働くという夢を持った子どももいたという。

「みんな大満足でしたね。僕たちも『皮膚科なのにそういうことするの?』ということをしたいなと思ってるので、今回は外部の人に来てもらったところを、今後はクリニック発信でやったりしたいです。例えば児童養護施設などを巻き込んですると面白いかなと思ってます。ランドセルなどの物のサポートもあるかもしれませんけど、形のない無形のサポートをするのも喜んでいただけるのかもというところです。このような貢献をして、組織として定期的に発信ができればいいなと思っています」

参加した子どもたちの親であるスタッフのなかには、「将来のことなんか考えたことがなかったけれど、自分の子どもなりに考えている姿がとても嬉しかった」という声もあった。いろいろな子どもがいて、その子なりのステージで考える。この機会が子どもたちへの形のないプレゼントであり、スタッフにとっての究極の福利厚生にもなると上田さんは信じている。

これらの上田さんのクリニックに対する働きかけは、雇用に関しても良い形で結果がでている。

「クリニックにおいては、仲間内の先生たちの話で、看護師さんを募集しても全然来ないのは、『大村やから人はこんよ』とか『今はコロナで』という話があります。ただ、うちは募集したら来ていただいてるところはありますし、コロナ禍だけれども昨年は最も成長を実感できた1年でした。」

『一般社団法人 Palette』の代表として

上田さんには3歳年上の知的障害を持った兄がおり、兄を支えている両親を間近で見ながら育ってきた過去がある。母親を亡くしてからは、父親が一人で兄をサポートしてきた。そのような環境のなか、上田さんは障害を持つ人や、その周りの方々に感謝されるような仕事をしたいという思いを抱く。医師としてサービスを提供する立場であり、障害を持った家族のいる立場でもあることから、その両方のことを理解できるからこそのサービスがあるはずだと考え、2019年に一般社団法人 Paletteを設立し、『障害者福祉グループホーム スイサイ』の運営を開始した。

障害者福祉グループホームの運営目的としては「安心した地域生活」、利用者が好きなときに起きて、好きなことができるというような意思が尊重されるグループホーム作りをするという「自分らしい生活」。そして、全国的に不足したグループホームを設立し、利用できる人を増やすという「地域福祉への貢献」というものがある。

福祉的な分野でも社会への貢献がしたいという思いを持つ上田さんだが、赤ちゃんの妊娠に悩む女性を助けるための医療基金『円ブリオ基金』の普及にも努めている。この取り組みに関して、亡くなった母親とのエピソードがあるという。

「円ブリオ基金が立ち上がったのは40年前くらいなのですが、僕の同級生のお母さんの坂元威佐さんという人が中心となってしているんですね。ホームレスの方や身寄りがない人を引き受けたりされていて、大村のマザーテレサと呼ばれているような方です。私が威佐さんに素晴らしい活動をされてますねって言ったら、あなたのお母さんも立ち上げメンバーやったんやと言われました。当時は小学生くらいだったんですけど、知らなくて。知らずに母親と同じようなことに興味を持って動かされているようなそういう感覚になって嬉しかったですね。言われたわけではなくても、同じことに興味を持ったんだなと思って」

身をもって感じた課題と、注目すべき取り組み

障害を持った方や、その家族が選択肢を増やすことができるように取り組んでいる上田さん。今後の展望につながるのは、上田さん自身の家族の境遇である。

近年は高齢者が障害者をサポートし、共倒れしてしまうケースがある。

「大学時代に母をなくして以降、障がいを持つ兄は、80才になる父と暮らしていました。ですが、高齢になった父が病に倒れた時、厳しい現実に直面したのです。クリニックの診療と経営の傍ら、自分の家庭も守らねばならない私にはつきっきりで世話もできない・・・一方で、父は『兄が気になるから一緒に住みたい』と望んでいました。とはいえ、『父と兄、二人が一緒に生活できる施設』はいくら探しても存在しなかったのです。兄貴をどうするかという話になりまして、市の人からは川棚にいってくださいと言われたんですが、父親は大村にいてくださいと言われたたんですね。父の望みは一緒にいたい、近くにいてほしいと。本来は今まで同じ屋根の下にいたので一緒に住みたいというのは普通の望みであると思うのですが、暗黙の了解でわがままは言えないわけです。川棚の施設は寝たきりの人も多いんです。兄貴はそこまでのサービスは必要ではなく、感情も豊かだしコミュニケーションもある程度とれます。ちょっと違うんじゃないかなと思ったんですが、空きがないんですよと言われて。要するに選べないんです。障がい者にもいろんな人がいますから、色々と選べる選択肢があるべきなんですけれども、長崎では依然として不十分であるのが現状です」

そのような課題に実際に対面し、そこで上田さんが目をつけたのが『富山型デイサービス』。富山県から全国に発信したデイサービスで、年齢や障害の有無に関わらず、デイサービスを受けられる場所のことだ。

「良いところは、職員さんも利用者さんも居て、誰が誰かわからない。核家族でコミュニケーションがなかったり、おばあちゃんも子どもと触れ合えると嬉しいですよね。学校の先生を退職しても、教えることに貢献の気持ちを持つ人が、こういうところで見てくれたりすると良かったりするのかなと思っています」

長崎では収益面などで課題があり、まだまだ浸透していないとのことだが、上田さんは非常に素晴らしいモデルであると考える。富山型デイサービスのことを知り、長崎でも自分と同じように困っている方は、きっといるはずなのに・・・だったら、自分が作ってしまおう。そうして実際に自分が理想とするグループホームがオープンとなった。そこには想いを同じくする仲間が集まっている。そして今、上田さんには新たな想いが芽生えている。

今後の取り組みについて

上田さんには大村市で障がいがあってもなくても、赤ちゃんからお年寄りまで利用できる共生型の施設・レストランを作るという展望がある。

「イメージはお洒落な建物で、そこには人が集う場であるということと、芸術との融合ですね。障がいを持つ方が手掛けるアート作品などもあって、さらに食が入ってくると面白いのかなと思っています。レストランの名前は『グランジュテ』です。バレエの専門用語で『大きな飛躍』という意味なんですよ。10年以上前から名前だけは決めているんです(笑)。障がい者といえばなんとなく可哀想とか暗いというイメージになりがちですが、そうじゃないものをと思っています。今までの概念には全くない、『明るく♪』『楽しく♪』『ワクワク♪』そういうキーワードが障がい者の働く場のビジョンにあるんだったら素晴らしいなと思って。そしてその結果大村市って面白いところがあるなと思ってもらえたら嬉しいんです。」

想いの実現に向けての仲間あつめ

今の計画を実現するために、上田さんは必要な仲間を集めている。そのひとつは一緒にクリニックで働く先生である。これには、診察できる先生の人数を増やして患者さん一人ひとりをより丁寧に診察したいということと、先生方の働き方の選択肢を増やすということ。

「皮膚科って女性の先生が半分ぐらいいるんです。ご家庭があると当直とか困難なことも多くて、結局、退職をせざるを得ない方もいらっしゃるんですが、それはもったいないなと思って。そういった先生方と僕たちが一緒に働くことができないかなと思っています。私もかつてそうでしたが、やはり医者の仕事はハードです。しかし多くの先生方と力を合わせることでカバーし合いながら例えば週3日、4日勤務とか。大きな病院ではなかなかハードルがあるんですがそんな新しい働き方を提供できるところがあれば貴重かな。と思っています。特に地方では医師不足、看護師不足と言われていますが実は条件が合わずに休職している人も結構いるのでは。と言われているんです。」

さらに必要な仲間は、『サービス管理責任者』の資格を持った人だ。サービス管理責任者とは、障がい福祉サービスを提供している事業所を全体管理し、提供するサービスの質の管理やサービスの提供者に技術的な指導を行うなど、幅広い役割を担う人材のことだ。富山型デイサービスのような展開を考えるならば、このような仲間は必要な人材だといえる。

そして仲間を集めるにあたり、最も大切にしていることは想いへの共感。自身の想いに共感し、今後の取り組みに参画してくれる仲間が集まることを、上田さんは願っている。上田さんは障がい者の働けるレストラン事業に限らず、児童発達支援事業などいろんな可能性を拓くべく、今までも多くの出会いにも恵まれ、たくさんの人を巻き込みながら新事業は着々と進行している。そうやって新たなことに挑んでみて、たくさんの笑顔や想いに触れるにつれ感じたことはまだまだ組織としても挑戦できることはある!ということだった。その為にもその想いに共感していただける仲間が必要と考える。

「クリニックとしては大学病院で学んだ知識と最新の医療設備を次々と導入し、地域のみなさんがワクワクして下さるような医院作りに取り組んできました。しかし、まだまだ脱毛、エステなどの美容医療が地域で安定して受けられるよう新規事業を進める必要があると感じています。ヘルスケアなどもクリニックというバックボーンを持って経営すれば、より地域のお役に立てることは、たくさんあると思うのです。今後、私の考える事業展開は『クリニック✖️福祉✖️芸術✖️食の融合』です。」

共に働くあなたの想いもここで叶えてもらえたら嬉しい

「共に働くその人自身が、組織を通じてやってみたいことを一緒に叶えられれば嬉しいです。私は『相手の望みを叶えることを自分の望みとする』という姿勢を自分の心の土台に置いています。長崎のクリニック・福祉医施設を舞台に私たちと共に夢をみてお互いが刺激し合いながら、どこまで進めるか。また新しい挑戦が始まることを心から楽しみにしています」

自身の境遇から、医療、福祉の分野でさまざまな方面への貢献を目指して動き続ける上田さん。夢として語ってくれた共生レストラン・グランジュテの設立も含め、今後も人のため、地域のために尽くした取り組みを続けていくだろう。

ひと・みせについての詳細は以下のそれぞれの記事をご覧ください。