
森酒店、ふたたび灯る
— 女子美術大学とともに紡ぐ、「聴くこと」からはじまるまちのリノベーション —
この店には、いつも人の声がありました。近所の生活音と笑い声、晩酌の相談、祇園祭や精霊流しの夜のざわめき。幼少期、私はこの「森酒店」で店番をしながら、地域の人たちに育ててもらいました。森酒店は、ただの酒屋ではありませんでした。森家の本家として、親戚が集う家でもありました。お盆や正月には、親族が集まり、飲んで、食べて、語って、笑って。
その賑やかな声が、今も耳の奥に残っています。

けれど時代とともに、人の流れも、家族のかたちも変わっていきました。気づけば建物は空き家となり、親戚からは「森酒店は今どがんしとっとね?」と心配の声が届くようになりました。これまで、私たちは地域の空き家を活用し、お店やコミュニティの場を生み出すお手伝いをしてきました。でも、いつかは自分の生家も、自分たちの手で再び灯したい——。親戚の思いと、自分の原点のようなこの店をもう一度「まちとつながる場所」にしたい。そんな想いが、今回のプロジェクトのはじまりです。
先日「人生の楽園」にも出演されたさいとう宿場の齊藤ご夫妻。これまで地域で空き家を活かす多くの取り組みを牽引してきた齊藤仁さん を中心に、(一社)東彼杵ひとこともの公社、日々研究所株式会社、そして女子美術大学アート・デザイン表現学科スペース表現領域の皆さんと共に、このプロジェクトを進めていきます。

8年の時を超えて、再びつながった縁
このプロジェクトを動かすきっかけをくれたのは、現在、女子美術大学で助教を務める 西尾佳那さん です。約8年前、彼女は東京藝術大学の学生として東彼杵町や長崎県に関わってくれていました。その頃の出会いがきっかけで、彼女は今、教育者として再びこの地に戻ってきてくれました。

学生としてフィールドに立っていた西尾さんが、今度は先生として、新しい世代の学生を率いてやってくる。そのことに、私は深い敬意と感謝を感じつつ感慨深いものだと染み入っております。時間が巡り、世代が重なり、記憶が再び動き出す。森酒店の再生は、そんな“人の縁”がつなぎ直してくれた物語でもあります。
女子美術大学とともに、「聴きながらつくる」
この森酒店の改修は、単なる建物のリノベーションではありません。女子美術大学の学生たちと一緒に、2025年12月頃から地域の人たちの声を“聴く”ところから始まります。

この町に、どんな場が必要なのか。どんな人たちが、どんなふうに関われると嬉しいのか。学生たちは、地元の茶農家さんや商店の方、移住者、子育て世代、高齢者まで、さまざまな人の声を集め、対話を重ねながらフィールドワークを進めていけたらと考えています。
「つくる」よりもまず、「聴く」ことから。手探りで、時間をかけて、少しずつ形にしていく。この場所が再び人の息づかいを取り戻すまで、数年をかけて一緒に育てていくプロジェクトです。
⚠️くじらの髭 いえ(空き家等)情報はこちらから
https://kujiranohige.com/house
学びと暮らしが交わる、“まちのリビングルーム”へ

森酒店はやがて、中期滞在型の民泊兼ちいさなサテライトキャンパスとして生まれ変わります。「おみやげインレジデンス」や「お茶手伝い民泊」など、地域と旅が交わる仕掛けをつくり、学生やデザイナー、企業、まちづくりに関わる人たちが滞在しながら、東彼杵の文化や人に触れる“まなびの宿”を目指します。

ただ泊まるだけではなく、地域の人が立ち寄り、世間話をし、時には一緒にごはんを食べるような——**昔の森酒店のように、人と人が自然に集まる“まちのリビングルーム”**として、新しい時間が流れはじめます。
記憶を継ぎ、未来を編む

かつて親戚たちが笑い合った座敷に、今度は学生たちがスケッチを広げ、地域の人たちと話をしています。その風景の中に、森酒店の本来の姿——“人が集う家”——が重なって見えます。時間を超えて、記憶と未来が交わる場所。それが、これからの森酒店のかたちです。この小さな再生が、まちの未来をやさしく照らしていくことを願って。

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下記、情報は空き家指定法人として活動している(一社)東彼杵ひとこともの公社・日々研究所での空き家プロジェクトに関わる地域おこし協力隊募集記事(募集終了)です。