だんだん暖かくなってきましたね。
スーパーには新玉ねぎや菜の花など、春の訪れを感じる食材たちが並び始めました。そんな中、東彼杵の特産品が集結する「道の駅 彼杵の荘」には、真っ赤で甘いあの果物が。

大粒で鮮やかないちごを目の前に、思わず「春の宝石箱や~!」とつぶやきたくなります。
いちごとお米の会社「ファーミライズ(FARMIRISE)株式会社」は、千綿川沿いに並ぶ住宅街の一角で、ハウス栽培を営んでいます。愛情をたっぷり込めてお世話をする代表の隅 英幸さんは、4人のお子さんをもつお父さん。「子供たちがパクっと食べても大丈夫なように」と、農薬をできるだけ使わずに育てられたファーミライズのいちごは、誰がいつ食べても安心です。

結婚を機に実家のいちご農家を継いだ隅さんは、この道20年の大ベテラン。ですが、今でも失敗をして学ぶことはたくさんあるといいます。町の人々の食卓を支えるやりがいと、その裏にある葛藤をありのままに語ってくれました。
傷つきやすい繊細ないちごには、たっぷりの愛情を込めて

真っ赤で大粒の「ゆめのか」は、長崎県を代表する定番いちご。口に入れるとまずジューシーな果汁が広がります。甘みと酸味のバランスがちょうどよく、次から次へとパクパク食べられる軽やかさが特徴です。

こちらは珍しい、白色のいちご。「天使のいちご」という名の通り、丸みのある可愛らしい形をしています。生産者が少なく、市場にはあまり出回らないためお値段は少ししますが、その価値は保証します。「ゆめのか」と比べると酸味はほとんどなく、やさしい甘みと香りが広がる味わい。

赤と白どちらも詰め合わせた”紅白いちごパック”で、ぜひ2種類を食べ比べてみてください。自分へのご褒美や、縁起の良いカラーなので、お祝い事などのシーンにもいかがでしょう。バレンタイン、ホワイトデーの贈り物としてもぴったりだと思います。
もちろん生で食べるのもおいしいですが、 近頃はキッチンカーを活用して、パフェやスムージーなど加工品の販売にも力を入れているそう。不定期で道の駅や町のイベントに出向き、自慢のおいしさを広めています。
冒頭にも書いた通り、農薬に頼らず育てられたいちごは、「おいしい、やさしい、うれしい」。農薬の代わりに、有害な虫を食べてくれる「虫」を使って対策をしています。いちごは、みかんやバナナのような皮つきの果物ではないため、病気になると身がただれてしまいます。神経を使って、繊細ないちごにも、そして同時に人にもやさしい栽培を心がけています。
隅さん「地元の人に安心して食べてもらいたいけん。『おいしい!』って言われると、やっぱり嬉しいね。そういう喜びの声が、もっとやるぞっていう励みになる。あとは、儲かった時には嬉しい。(笑)儲かるためにはきついこともやらんといかんけんさ。」
消費者の声が1番のやりがいだと語る隅さん。しかし、その喜びを感じるまでは、”きついこと”も乗り越えていかなければなりません。
みんなが喜ぶ顔を、思い返しながら

20年前、農家を継ぐと決めてからは、親御さんにノウハウを学ぶ日々。「何が何だかさっぱりわからんやったね(笑)」と、当時を振り返ります。毎日様子を見ながら、細やかなお世話が必要な農家に、休みという休みはありません。
クリスマスシーズンの需要に合わせるため、6月から土づくりを開始。秋ごろに苗を植え、11月から5月までが収穫の時期です。朝4時に起床し、まだ暗いうちから作業はスタートします。選別して、パックに詰めて、その日のうちに出荷。これを毎日です。ハウス内の気温は約28℃、湿度は高めに設定されている環境で、一つ一つ丁寧に手作業で収穫します。
中にはミツバチもいるため、刺されると危険! 隅さんはこれまで3回ほど刺され、アナフィラキシーショックを起こし救急車に運ばれたことがあったそう…。命がけで私たちの食卓を支えてくれている生産者の皆さまには、頭が上がりません。

ファーミライズが育てるいちごは、常に品質が一定。毎日収穫していても、その日ごとに大きさやおいしさがバラバラ、ということはほとんどないそう。その秘訣はずばり、最新のデジタルシステム。温度、湿度、二酸化炭素濃度、飽差(空気中に含まれる水蒸気の量)など、いちごの生育にベストな環境を整えることで、病気にもなりにくく、大粒でおいしいいちごが実ります。
ただ、ハウス外の環境はどうしようもできません。農業は、気候が命取りの仕事。近年は地球温暖化の影響で、気候の大幅な変化に悩まさています。
「難しい。今年は夏が暑すぎたし、寒い時期が長く続いて、あんまりうまくいかんやったね。失敗すると収入も減るし、最近はガソリン代も高騰してるけん、ハウスの暖房にかかる費用のこととか、いろいろ調節しながらやっていかんばけん、難しいね。何の作物でもそうでしょうけど、他の農家さんもかなり大変だと思うよ。」
改めて、生産者の方への感謝を忘れてはいけないなと思いました。スーパーに毎日新鮮な食材が並んでる光景は、決してあたりまえじゃない。今日もおいしいごはんが食べられるのは、大変な思いをして食物を育ててくださっている農家さんのおかげです。

受け取ったバトンを、未来へつなぐために
3年前に、米農家の児玉 大介さんと立ち上げたファーミライズは、社員の方と、繁忙期にお手伝いに来てくれるパートの方で成り立っています。会社設立のきっかけは、”まちの農業の衰退化”を目の当たりにしたところから。
当時は家族だけで農家を営んでいた隅さんは、365日、休みなく管理しなければいけないことに加えて、家族の誰かが病気などで体が動かなくなってしまった時のことを考えると、”このまま自分たちだけでは続けていけないのかも”と、農家としての将来に不安を感じていました。

一方米農家のほうは、高齢化や就農者の減少により使われなくなった農地が荒れ地に変わり、それが増え続けるという現状。生産者同士の協力が必要不可欠だと感じた二人は、周りの農家さんにも声をかけ、まちの食を守り続けようとしました。
『地域の農場(Farm)を、未来(Mirai)へ、上昇させる(Rise)』。”自分たちが生まれ育った故郷を守り、子供たちの世代へとつなげていきたい”という思いを胸に、地産地消の推進や、観光農園を目指し、食の力で町を盛り上げていきます。
「人が集まってくれればいいかな。この場所自体、ハウステンボスの帰りとかでも全然寄れるし。東彼杵も、人口減少が進みよるけん、魅力あるまちづくりに少しでも協力できればいいなと思ってる。」

時には厳しさを痛感し、悩むこともあるけれど、自分が生まれ育った町を愛し続けていたいという想いと、人が喜ぶ笑顔を思い返しては、仕事と向き合っていく日々。そうして私たちの食を支えてくださっている生産者の方が、ここにいます。
今日の買い物は、できる限り地元で採れた食材を選んでみようと思います。そして、いつもよりきちんと「いただきます」「ごちそうさまでした」と声に出そう。そこに”ありがとう”の気持ちを込めて。生産者と消費者がお互いを思う気持ちで、町の農業は続いていくと思うのです。