”農家直送だから実現できる、抜群の鮮度”『はゆっちfarm』山内一馬さん・朋子さんご夫妻が育てるアスパラガス

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「私があほみたいに子供が好きなので。ずっと一緒にいたかったんです、卒業するまで。」

そう話すのは妻の朋子(ともこ)さん。長崎市生まれのおふたりは、8年前、この町でアスパラ農家を始めました。

夫の一馬さんはもともと、産業機械のアフターサービスをされていたそう。仕事の海外駐在でシンガポールに住んでいた時、お子さんが生まれました。

それから生活は一変。「何をするにも、子供中心やったね」と語る山内さんご夫婦は、なぜこの町で?なぜアスパラ農家を?これまでの歩みや、アスパラへのこだわり、そして大切なお子さんへの想いをお聞きしました。

寄り添って生きていきたい

田舎暮らしに憧れていたおふたりは、シンガポールの広大な自然に囲まれて生活する中で、より一層”緑のある生活”への憧れが強くなったと言う。長崎という地を選んだのは、子供たちのためだった。

朋子さん「子供たちを両親の近くに置いときたかった。子供の成長を頻繁に見せれるほうが、やっぱりいいなと思って。プラス、農家は自由が効く。それこそ学校から呼ばれたら、”5分で行きまーす!”って言えるし。」

一馬さん「授業参観にも絶対出たかったんです。」

朋子さん「子供のためにしか生きてない、みたいなところはある。」

一馬さん「それが楽しいよね。」

”子供たちに寄り添って生きていきたい”という思いから、融通が効く自営業の農家という道を選んだ。「何をするにも、子供たち中心」といって言っていたのは、そういうことだった。

「農業をするなら、体力のある若いうちに始めよう」ということで、会社員を辞め、長崎県が実施する研修に参加し、アスパラガス栽培の技術を1年間学んだ。その後、空き家バンクで見つけた土地付きの一軒家で、第二の人生をスタートさせた。

一馬さん「住んでみて思うんですけど、意外と立地はいいなって。30分あれば、大村にも佐世保にも行けるし。」

朋子さん「すごくいい町ですよね。山もあるし、大村湾も見えるしで。人もゆっくりのんびりしてるから、住みやすい。スクールバスも手厚くなったりして、子供が育つにもすごくいい場所。」

生でかじってもおいしい。でもやっぱりおすすめは…

春と夏、二度の収穫を迎えるアスパラ。取材へ伺った3月下旬は、間引きの時期だという。穂先の形や太さを見て、これから育てていくアスパラは残し、そうでないものは剪定していく。

一馬さん「彼杵のアスパラ農家さんたちは、かなり優秀だと思います。30年近く経ってる株で、年間3トンも採れているそうなので。」

朋子さん「そうなれるように頑張りまーす!」

山内さんの育てるアスパラは、なんと言っても鮮度が抜群。ネットで注文が入ると、朝収穫したものをその日のうちに発送。九州はもちろん、大阪までは翌日に届くそう。

一馬さん「肉とか魚は、熟成があるじゃないですか。野菜はないです。採った瞬間から鮮度が落ちる。だから、みなさんのお手元に届くまでの時間を、いかに短くできるかが勝負です。」

アスパラを生で食べるイメージはあまりない。しかし山内さん夫婦は、たっぷりの水を与えているため、生で食べてもおいしいという。ジューシーで、野菜本来の味と香りをしっかり感じる。消費者さんの中には、「届いた瞬間、玄関でかじるのが楽しみです!」と言ってくださる方も。

朋子さん「でもね、やっぱりベーコン巻きのほうがおいしいなって。あははははは(笑)最初は生でかじるのを押してたんだけど、油と調味料の力はでかいなと思う!マヨネーズなんか邪道だ!とか前は言ってたけどね(笑)」

一馬さん「おすすめをするんだったら、天ぷらとかフライとかもおいしい。超贅沢なのが、でかい1本をグリルして塩コショウで味つけ。でも、火を通しすぎないこと。」

朋子さん「そうそう、シャキシャキ感を残したまま。そこは譲れないね。茹ですぎてクタクタになるのだけはナシで!」

農家としてのこれまで

この町で農業を始めて、今年で8年目。これまでの道のりは、もちろん楽しいだけではなかった。

アスパラは、株を植えて収穫できるのが2年目からなのだそう。初めての収穫に気合が入っていた時のこと。大型台風の影響をもろに受け、ハウスは半壊。なぎ倒されたアスパラたちを見て、絶望したという。

その後も数回ほど台風の影響を受けたそうだが、あきらめるという選択肢はなかった。台風でダメージを受けるたびに、ハウスを強化するべくひたすら土木作業を続けてきた。

一馬さん「あれでかなりメンタル鍛えられました。だから、今また台風が来てどんなにダメージ食らっても、多分立ち直れます。うちの強みはそこかな。」

朋子さん「最初にあれを経験してよかったよね。」

一馬さん「自然と戦うのがおもしろい。勝てないけど。」

朋子さん「無力なんです。別に、立ち向かってやろうっていう気はない。目の前にある”やるべきこと”を、ただやってるだけ。それがおもしろくて。続けてこれてるのは、楽しいからなんですよね。」

一馬さん「ものすごくやりがいのある仕事です。頭使って考えて、やりこまないと結果が出てこない。日に日に条件が違うから、単純じゃないです。」

同じような日をただ繰り返すのではなく、毎日違う出来事が起きて、その度に新しい発見がある。つらいこともあるけど、それを乗り越えた先には、頑張ってよかったと思える瞬間が待っている。今までたくさんの経験を味わってきた山内さん夫婦は、そのことを知っているからこそ、今日も仕事と向き合っていけるのだった。

ふたりがこれまで続けてこれた理由は、もうひとつ。

朋子さん「もともと、子供たちに採れたての野菜を食べてほしかったから始めたことなので。」

一馬さん「子供たちにとって、それが当たり前になってる。」

朋子さん「うん。気づかないんだと思うね。10年、20年経って気づいてくれるかもしれない。でも気づいてくれなくても別にいいかな。親の自己満みたいなとこはある(笑)」

目の前でおいしそうに食べてくれるのを見れるのは、嬉しいですよね。

一馬さん「無言で食べてくれることが嬉しかったりする。はじめは、『え、また野菜?』とか言われてたけど(笑)」

朋子さん「男子はね、肉なんです(笑)」

一馬さん「あとあれね、最近給食に使ってもらえるようになったんですけど、そしたら子供たちが『今日おれんちのアスパラやけん!』とか言ってくれてるみたいで。」

朋子さん「それで友達も、『今日おまえん家のアスパラやろ?食べる!』って言って食べてくれたとかいう話は聞くかな。」

お子さんを想う気持ちで、今日もこの農場で手を動かすふたり。『はゆっちFarm』という名前は、3人のお子さんの名前の頭文字をとって付けたそう。

自然災害に悩まされる日も、自営業の農家という大変さもある。それでも続けられるのは、子供たちの存在があるから。自分たちが育てた野菜を食べてくれて、成長していく姿をとなりで見守っていられる日々の生活が、おふたりにとって何よりの喜びでした。