海風を思わせる、さわやかな文章が魅力的。佐世保市で大活躍のライター『山本千尋さん』

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山本千尋(やまもとちひろ)さんは佐世保市を拠点に活動中のライターだ。数々の媒体でウェブ記事を制作・発表しており、こちらくじらの髭でも多くの記事を執筆している。2022年6月には、過去に書いた記事を再編集し1冊の本にまとめた『佐世保の自由研究』を出版。巷では大好評を博しており、2023年10月に第2弾が発行予定だ。

青い海風のようにさわやかで、ユーモアにあふれていて、かつあたたかな誠実さを感じる文章を紡ぎ続けている千尋さん。そんな彼女のチャレンジに満ちた人生をひも解いていきたい。

お絵描き、演劇、射撃に熱中
山本千尋さん

千尋さんは佐世保市で生まれ育った。母親のすすめで絵画教室に通っていたこともあり、幼いころから絵を描くことが大好きだった。風景よりも、ネコなどの動物や人を描くことが特に好きで、小学校卒業ごろまで夢中で絵を描く毎日だったという。

中学校に入学してすぐ、オリエンテーションで演劇部の舞台を観る機会があった。白雪姫やオーロラ姫などおとぎ話のヒロインたちが毒を飲まされ亡くなったあと、どうすれば生き返られるか奮闘するコメディ劇が途中まで披露されたという。そのあまりのすごさに、千尋さんは雷に打たれたような衝撃を受けた。

千尋さん「先輩たちが演技されてるのを見て、うわあ!!って圧倒されましたね。そしてその劇がめちゃくちゃ面白くて。続きが気になる人は演劇部に入って観てくださいってことだったので、私としては『はい!絶対観たいです!』って感じで(笑)。それがきっかけで演劇を始めました」

演劇部では文化祭での発表に向けて発声や滑舌の練習をはじめ、数人で即興劇を演じるエチュードなどに励んだ。時折部内オーディションに挑む機会もあり、千尋さんは男性的な役を演じることが多かったという。高校に入学後も演劇部での活動に情熱を燃やした。

その後は佐賀大学へと進学。しかし入学後すぐに参加した演劇サークルが肌に合わず退部してしまったため、同時期に入部した射撃部での活動へと軸が移っていった。

射撃部ではエアーライフルやビームライフルを使う競技に熱中。元々スポーツが苦手な千尋さんだったが、射撃は性別や体格差、運動神経の優劣にかかわらず楽しめることや、常にベストを尽くさねばならないプレッシャーに打ち勝つメンタルを鍛えられるところにこれまで味わえなかった面白さを感じ、大学卒業まで続けた。

ライター人生のはじまり

千尋さんは大学時代にアルバイトをしていた雑貨店へ就職。異動で福岡や大分など各地を転々としたが3年後に退職し、その後は小売店や別の雑貨店などで働きどうにか食いつないだ。やがて地元佐世保に戻り、ホームセンターで働くことになった。

そんな27歳のころ「自分はこのままで良いのか」と不安がモヤモヤと芽生え始める。あれこれと考えるうちに千尋さんが思い至ったのは、これまで苦手意識を抱いていた“文章を書くこと”への挑戦だった。

千尋さん「文章を書くのは本当に苦手で、話し出すとキリ無いんですけど(笑)。それを克服とまではいかなくても、一度向き合ってみようかなって。元々いろんなお店に行くことや情報を自分なりに発信することは好きだったのもあって」

そんな矢先、千尋さんが毎週愛読していたフリーペーパー『ライフさせぼ』の誌内で編集記者の募集記事が載った。めったに訪れないチャンスに千尋さんは今しかないと応募。やがて採用が決まり、千尋さんのライター生活がスタートを切った。

家族の理解があってこそ
思わず目に留まるカラフルなデザインは、本編中に出てくる題材一つ一つがモチーフとして散りばめられている

千尋さんは編集記者として3年間働きノウハウを学んだあと、在宅で仕事がしたいとフリーライターとして独立。そして現在に至るが、4歳半と3歳の2人の子供を育てる母親としても忙しない毎日を送っている。

千尋さん「この仕事に対してはまず家族が本当に理解を示してくれていて。忙しすぎるときはお姑さんが子供たちの面倒を見てくれたり、夫も本を作る時に表紙をデザインしてくれて。家族の協力なしでは成り立たないですね」

お姑さんといえば、千尋さんのインスタグラムでファッションを披露していることでもおなじみ。洗練されたセンスが光るコーディネートを心待ちにしているファンも多い。千尋さんとしてはお姑さんがノリノリで撮影に挑んでくれていることが本当に嬉しく、このひと時が嫁姑の楽しいコミュニケーションになっているそうだ。

書くことと演じることはつながっている

千尋さんには劇団主宰という顔もある。演劇から離れていた時期もあったが、佐世保に戻ってすぐに学生時代の友人から「芝居を見に行こう」と誘われたことで、再び演劇への情熱が湧き始めた。

転機となったのは、佐世保で長年活動している『劇団HIT!STAGE』のワークショップに参加したことだった。その際に意気投合した男子高校生Aさんから一緒に劇団を作ろうと持ち掛けられ、Aさんの友達や千尋さんの学生時代からの演劇仲間と共に『ヤングアクターズ』を立ち上げることとなった。

しかしAさんが高校卒業と共に県外へ行ってしまったため、千尋さんが主宰を引き継ぐことに。2023年8月現在はメンバー4人がみな子育てで忙しいということもあり活動休止中だが、復活後の芝居の構想は練り続けている。

千尋さん「やってみたいのは等身大の、今の生活をそのまま反映させたようなものを……子育てあるあるじゃないですけど。実際メンバーたちも子育てを経験してる子たちばっかりなので、そういう自分たちの生活とか、その中での楽しいこととか葛藤とかそういったことを描き出せるような、そういう芝居をしてみたいと思っています」

もはや千尋さんのライフワークといっても過言ではない演劇。“書くこと”を生業としながら、“演じること”も自分にとっては必要不可欠なことだと千尋さんは語った。そこに思い至ったのは、千尋さんが書くことに対して抱いている信念と、身体を使って演じることがリンクしていると悟った瞬間があったからだ。

千尋さん「記事を書くとき『嘘はつかないぞ』と決めていて。そういうのってやっぱり文章ににじみ出るじゃないですか。素晴らしい言葉を並べたところで、書いてる本人がそう思っていなければ。以前、舞台で演じるときに『身体は嘘をついてはいけないよ』ってとある演出家さんから教えてもらったことがあって。それって記事を書いて発信することと通じてるなって共通点を見出したあたりから、これはちょっと辞められないなって。私なりの発信の仕方に通じるものがあるって思って…子育ても生活ももちろんあるし。私は他のライターさんみたいな文章は書けないから、勝負できるのはそこしかないかなって。演劇をしている私だからこそのフィルターを通して書いていくというか。ライターとしての自分の武器だと思ってます、演劇も」

これまで書いてきた経験が演劇にも影響している、と時折感じることがあるという。先述したヤングアクターズ復活の舞台に向けても「ライターの経験が活かされるかもと淡い期待をもってるんです」と千尋さんは楽しそうに語った。

新たなことへと進んで挑戦し、追求し、自らの強みを磨き続けている千尋さん。子育てや生活に励みながら、書くこと・演じることをさらに掘り進めた先でどんなものを掴み、昇華していくのだろうか。

これから千尋さんが紡ぐ文章、そして彼女が出演する舞台を観るのがとってもとっても楽しみなのである。

山本千尋さんの「こと」の記事は、こちらをご覧ください。