東彼杵町『Tsubame coffee』の新コーヒー豆パッケージも手がけるのは波佐見町の大注目の画家
波佐見町在住のウラベメグミさんは、自身の個展を開くかたわら、長崎ココウォークのポスターメインビジュアルや長崎県美術館とのコラボレーションなどを手がけている大注目の画家。家業である「ウラベ生地」で三代目として働きながら、精力的に活動を続けています。
ウラベさんの作品の魅力は解放感あふれる自由でのびのびとした線と、見た人の気持ちがパッと華やぐ色使い。ウラベさんの明るい人柄やインスピレーションの源という自然の美しさが絵を通じて伝わってくるようです。
今回は、ウラベさんがデザインを手がけた東彼杵町『Tsubame coffee』の新コーヒー豆パッケージが2021年春に発表されるにあたり、ウラベさんの今までの出来事や作品制作に対する思いなどたっぷりお話いただきました。
絵を描くことが好き
小さい頃から絵を描くことが好きだというウラベさん。かつては漫画家を夢見ていたこともあるそう。
ウラベ「将来なりたい職業は変化していったのですが、絵が好きだという思いは決してブレませんでした。おかげで進路に迷うことはなかったですね」
高校は有田工業高校デザイン科へ進学。卒業後は福岡の看板屋へ就職し3年間勤めました。
ウラベ「高校を卒業してすぐデザインの仕事をするには、自分自身の力と求められることにギャップがあるなと感じていて。だけど早く働きたくって、現場で勉強させてもらいながら仕事になじんでいければ、と思い看板屋へ入社しました」
パソコン操作が苦手だったこともあり、最初は図面づくりなど苦労が多かった看板屋での仕事。働いているうちにある思いがウラベさんの頭の中にふつふつと湧き上がっていました。
ウラベ「とにかく絵を描きたいマインドになっていましたし、絵を描いて生活することに憧れがありました。そんななか作品を人に見せる機会があってすごく褒められたんです。それがとても嬉しくて。このことが励みになって東京に行こう!と決めました」
東京での生活、ニューヨーク行きの決意
東京では高級おでん屋、寿司屋、メキシカン料理店などアルバイトを掛け持ちして生計を立てながら個展を開く生活を送ったウラべさん。刺激的で充実した日々は7年に及びました。
ウラベ「東京ではアルバイトをしながらとにかく絵を描いて、個展して、という生活でした。飲食店での仕事はとても楽しかったし、お客さんの中には絵のイベントに誘ってくださる方もいました」
出会った数多くのお客さんの中で、特に印象的だったのが寿司屋の常連だったオシャレなおばあちゃん。頭の回転が早くパワーに満ち溢れている人で、ウラベさんのことを可愛がってくれたそう。そのおばあちゃんからの一言がウラベさんの人生を大きく変えることになります。
ウラベ「おばあちゃんから『私は40の時にニューヨークに行って、もっと若い時に来ておけばよかったってすごく後悔したの。だから若いうちに行っておきなさい!』と言われて。おばあちゃんの言葉にはとても説得力がありました。ただ、滞在費など高い費用が必要になってしまうため短期集中で行こう、3ヶ月だけ留学しようと決めました」決意したウラベさんは波佐見町にいる両親を説得、やがてニューヨークへ飛び立ちました。
アートスクールでの日々
ニューヨークではアートスクールへ。ビザを持っていなくても通えるうえに、月ごとに自分が受けたいコースを選べる学校でした。ウラベさんは3ヶ月間デッサンコースを受講し、面白い日々を過ごしたそう。
ウラベ「今まで絵の学校へ行った事がなかったので、ニューヨークでは絵を学べる学校に通いたかったんです。行った学校の生徒は若い人からお年寄りまで世代が幅広くて、しかも色んな人種が集まっている学校で。先生はみんな本業と掛け持ちしながら教えに来ていました。言葉が100%伝わらなくても実践して教えてくれるので、何を伝えようとしているのか汲み取ることはできました。」
留学で専門的なことを数多く学び、絵に対する考え方に変化が生まれました。
ウラベ「ものの見方などをしっかりと捉えるには、デッサンやスケッチなどの基礎が大事なんだと実感しましたし、自身のセンスを磨くにもデッサンが大切だと気付きました。また、現地で私の絵を買ってくれる方もいて揺るがない自信へつながったりと、行動して得たものは大きいと感じました」
3ヶ月の留学を終えたウラベさんは波佐見町に戻り、家業の「ウラベ生地」で働きながら画家を続ける2足のわらじ生活へと移っていきました。
現在の制作拠点について
波佐見町に戻って5年。現在は朝から夕方まで焼き物の生地を作り、夜に絵を描く生活を送っています。
ウラベ「必ず1日1枚は絵を描くようにしています。描くモチーフは『手』と決めていて、最低5分でもスケッチをする習慣をつけています。起きれたら朝早くから描くことも。デッサンやスケッチを続けていくことで、画家としてのマインドも保てるのではないかと」
家業のお仕事を続けながら絵を制作するのは両立が大変ですが、利点もあるそう。
ウラベ「家と隣り合わせで仕事をしているので、何かあったときにフレキシブルに対応できる環境にいられるのが良いところですね。また、お客さんやスタッフなど様々な人と関わることで自分の作品を俯瞰して客観的に見られるようになったと思います」
描くよりも考える時間が増えた
最近はさまざまなアーティストの画集を買い集めてはひたすら眺めているとか。
ウラベ「最近は構図や配色などについて考えるようになり、素敵だなと感じる画集を何時間も眺めて研究しています。作品自体というよりは、作品の制作方法や表現方法、見せ方がすごく興味深くて。今は日本画の余白のつくり方が気になっています」
構図や配色などを深く研究していく中で、制作方法にも少しずつ変化が出てきています。
ウラベ「描いている時間よりも、考えながら客観的に眺める時間が増えてきました。描いて、置いてみて…それで仕上がりまで時間をかけるというか。途中で違和感を感じたらガラッと変えることもあります。今回手がけたTsubame Coffeeのコーヒー豆パッケージは初めての切り絵作品。色々と試行錯誤し、今まではやってこなかった手法に挑戦しました」
地方でアーティストの道を進んでいくことについても考えを伺いました。
ウラベ「私にとって絵は長く付き合っていくもの、『ライフワーク』だと考えています。今の目標は個展で私の絵を見て何かを感じてもらったり、刺激を与えられる空間を作っていくこと。そして地方にいるからこそできる表現を見つけていきたいです。最近は私の作品を見た方から絵の依頼をいただけることが増えてきて嬉しい。『ありがとうございます』と感謝する日々です」
Sorriso riso3周年のお祝い
『Sorriso riso』が創業3周年を迎えた際、お祝いの作品がウラベさんからプレゼントされました。大きく翼を広げたツバメと『OMEDETO!(おめでとう)』の文字が目を引く印象的な絵ですが、これには意外な制作秘話があるとか。
ウラベ「ツバメが『3』を表しているんだけど、逆になっちゃったんです。わざとじゃなくて、描き上げたところで『あっ!』って気付いて(笑)。描く時はSorriso riso全体のイメージを頭の中に浮かべながら、勢いに乗って15分くらいで完成させました」
この作品は現在、Sorriso riso内のTsubame Coffeeで展示されています。来店の際はぜひチェックしてみてくださいね。
『暮しの手帖』の表紙を描きたい
インタビューの最後に、今後ウラベさんが描いてみたい絵についてたずねてみました。
ウラベ「『暮しの手帖』の表紙を描いてみたい!表紙じゃなくても、詩と一緒に見開きページの絵を描くとか…。もし叶ったら嬉しいな。憧れの雑誌なので近づけるように、肩の力を入れ過ぎないようにしながら頑張りたいです。やりたい夢を自分の中に閉じ込めていてはもったいないので、思い切って言っちゃいました(笑)」
絵と、自然と、そして人への愛を描き続けるウラベメグミさん。彼女の独創的でやさしい世界はこれからも壮大に広がっていくことでしょう。
ウラベメグミさんの描いた「もの」についての詳細は以下の記事をご覧ください。