目標は低く、仕事4割・プライベート6割。フォトグラファー・ビデオグラファー 山田聖也さんの頑張りすぎない生き方

取材・文・写真

編集

フリーランスのライターになって3年目。これからどんな生き方をしていこう? 自分のスタイルって何だろう? 少しずつ見えてきた部分もあるけれど、このままこの道を歩き続けてもいいのか、やっぱりどこか不安を感じている。

いまの自分と似た境遇の人の話を聞きたい。そんな気持ちを抱えるなかで、山田聖也さんにインタビューする機会が巡ってきた。

東彼杵町出身のフォトグラファー・ビデオグラファーである山田さん。彼のことが気になっている理由は二つ。僕が山田さんの写真や映像のファンだから。そして、写真家としての活躍ぶりだけでなく、そんな作品を生み出すのはどういう人なのか、人となりの部分も知りたかったから。

年齢が近いことに加えて、ほぼ同じ時期に独立したと知って、尚更興味が湧いた。

山田さんは、これからフリーランスとしてどんなふうに歩んでいこうとしているんだろう?

山田聖也さん コーヒーを淹れる様子

「ついに来たか……。恥ずかしいから取材の話はのらりくらりと逃げてきたんだよね。これが人生で本当に初めて。できるかなぁ、大丈夫かなぁ」

終始そんな不安を口にする山田さんだったが、取材が進むにつれて、等身大で少年のような一面を見せてくれた。さらに、地元である東彼杵での思い出や今の暮らし、まちへの想い。こだわりを集めた素敵なご自宅でお話を伺った。

好きなものに囲まれて、趣味に活きる

お宅は海のすぐそばで、静かでスローな時間が流れるのどかなまちにある。山田さんはここで恋人とワンちゃんと共に暮らしている。

佇まいからはあまり分からないが、家に入るとちょっと驚いてしまった。まるでコンセプトホテルのような空間で、やわらかな音楽、心地よい香りが漂う部屋の中。大事に育てられている植物や、DIYの木製インテリアまで、センスの良さに惚れ惚れする。

「確かに、普通の家ではないかな(笑)。すごく気に入ってるよ。ちょっとしたケーキもあるけど食べる?」

淹れてもらったコーヒーと、上品な食器・カトラリーがテーブルに並ぶ。なんて優雅な暮らしなのだろう……。目に映るもの一つひとつに、山田さんの“暮らしを愉しむ”雰囲気が感じられる。

山田聖也さん 趣味の植物
山田聖也さん 趣味 コーヒー

植物(盆栽)、コーヒー、料理、ファッション、インテリア、登山、キャンプ……。さまざまな趣味の中でも、山田さんの好きが高じてそのまま仕事になっているものがカメラだ。

「写真はそもそもお父さんが好きで、学生の時からカメラを借りて出かけてた。基本、全ての趣味はお父さんから。盆栽もそうだし、登山も小さい頃からよく家族で行ってたかな」

散歩もまた、山田さんの趣味のひとつ。

もっと正確に表現すれば、“知らない道”を歩くのが好きなのだそう。今でも知らない風景を見つけると、あえて寄り道しながらお家まで帰ることも。

山田さんが散歩好きになったきっかけは、とある学校行事だった。

「中学校の時、謎のイベントで“35kmウォーク”というものがあって。今はもう無いのかな。川棚駅から波佐見に向かって、嬉野の山を越えて彼杵に帰ってくる計35kmのコースを、1日かけて歩くんだよね。みんな嫌がってたけど、俺は『楽しい〜!』って感じで(笑)」

山田聖也さん 海岸にて

知らない風景に出会う楽しさを知ったのは、間違いなくこの35kmという遠路のおかげだと山田さんは語る。

その後、高校生になっても、テストで早く学校が終わった日には友人と歩きに出かけた。はるばる佐世保や、有田まで。携帯電話のカメラで写真を撮りながら、徒歩の旅を楽しんでいたそうだ。

やっぱり自然って良い。のめり込んでいく写真の世界

中学・高校と地元で過ごし、高校卒業後は短大へ進学。実は当時、山田さんは調理師になりたいと思っていた。

「美容と迷ったけど、調理を選んで2年間短大に通ったんだよね。自分でもよく分からないけど、調理師になりたい!ってめちゃくちゃ思ってて。多分、おしゃれなものへの憧れが強いんだと思う」

山田聖也さん キッチンにて

そうして、初めてのキャリアは調理師に。ホテル・式場のシェフや、フレンチレストラン、創作居酒屋など、長崎・佐賀・福岡の職場を転々としながら4年間ほど経験を積んだ。

魅せる料理を創る仕事には、やりがいがあった。けれども、給与は低いし、実働時間も長い。転職を決意し、福岡から東彼杵へと戻ってきたのは24歳のときのこと。

地元に帰ってからは、しばらく携帯ショップの店員として働く日々が続いた。

「そこでカメラにがっつりハマっていく時期になってくるかな。休みがすごく多くて、毎月3連休を数回取れたりしてた。京都・大阪・東京・名古屋あたりに行きまくって、旅先で写真とかVlogを撮るようになったんだよね」

山田聖也さん カメラを構える

地元に帰ってきた2016〜2017年は、海外のシネマティックな動画やInstagramが流行し始めていた頃。そのブームに乗っかり、せっかくなら撮ったものを見てもらいたいと、山田さんもSNSで発信を始める。

自前でドローンを買ってみたりと、給料は次々と機材に変わっていった。

山田さんのInstagramを見ていると、迫力のある山の景色が度々登場する。

自然の風景を撮り始めるきっかけは何かあったんですか?

「風景はいつからだっけなぁ……。あ、そうそう!阿蘇だ! ちゃんとカメラにハマった自分で、改めて阿蘇に行くことがあって。5〜6月の新緑の季節で、めっちゃ綺麗だった。この阿蘇がきっかけで風景を撮り始めたし、すぐに登山も始めたかな。懐かしい」

阿蘇の写真(提供:山田 聖也)

遊び感覚で磨いていったセンスは、観光地でのVlogだけでなく、むしろこの大自然を被写体として大いに発揮されていくように。知らない道、知らない風景へと導かれ、いきいきとレンズを向ける山田さんの姿が目に浮かぶ。

独立してカメラ一本で生きていく、というわけじゃない。

ライフワークだった撮影は、徐々にプロのレベルへと近づいていった。

独立への後押しとなったのは、趣味のアパレル。山田さんはSNSをファッションアカウントとして使っていたこともあり、そこからアパレル関係の繋がりが広がっていった。

仲間内でVlogを撮るなかで手応えを感じ、次第に撮影チームとして声がかかるようになり、カメラが副業になり始めたのだ。

山田聖也さん ファッションアイテム

「これだったらいけそうだなって思って、ノリでフリーになった感じ。でも、東京に行くとかはなかった。都会は本当に嫌いだから、行きたくない(笑)」

「ノリでフリーになった」。その言葉の軽やかさに少し意表を突かれる。都会的な雰囲気の山田さんが「都会には行きたくない」とはっきり言うのも意外だった。

山田さんのいけそう”な予感は当たり、ウェディングや建築などの案件をこなして順調なスタートダッシュを切っていく。

また、独立直前に大きな仕事が入ったことも、手応えを感じた要因の一つだった。

「ちょうどフリーになる前だったかな。自分がファンで使ってた革製品をインスタに載せてたら、その革職人さんから連絡が来て。そこからドーンと大きな案件が入ったのも決め手だったと思う」

この革製品だけに限らず、撮影の仕事はほとんどがInstagramから依頼が来るか、一度仕事をした人からの紹介で次に繋がっていくそう。

山田聖也さん お散歩

「営業はしてないというか、できない。トークイベントの配信を手伝うときも、大人数がいる中で名刺配るとかできないし、喋れない。撮影機材を黙々と片付けてますってオーラを露骨に出してる(笑)。基本、内向的なんだよね。みんなと交流するなんて絶対できない……!

お金をガツガツ稼ぎたいタイプではないしね。フリーになる時も、動画の仕事が月に2〜3本あれば、生きていく分にはなんとかなると思ってた。それぐらいは案件も見つかるでしょって。

難しかったらバイトでもすればいい。死ななければ別にいっか、という感じ。目標は低いよ。仕事は4割・プライベートが6割ぐらいで生きていたい」

“頑張らないこと”を何よりも熱く語る山田さん。趣味を生活の中心に据えているからなのか、不思議と説得力があった。そこに不安は存在しなかった。

仕事にも、地域にも、自分に正直なままで生きる

楽天的な考えからフリーランスになり、結果として山田さんはカメラだけでこれまでやってこれている。

その要因のひとつとして、地元・東彼杵との関わりも大きいのだとか。都会には行かず、生まれ育ったまちでのんびりと暮らし続けるのが性に合っている、ということもあるが、それだけではないようだ。

山田聖也さん お散歩

「Sorriso risoができてから、地元が盛り上がっているのは前から知ってた。中心メンバーのこともSNSでフォローはしてたけど、繋がりは全然なくて。フリーになった時に、『まずは地元からせんとダメやろ!』って思ったんよね」

「まちのことが知りたい」。そこで山田さんは、同級生だった池田茶園の池田亮さんにお願いして、Sorriso risoの運営メンバーを紹介してもらうことに。東彼杵を活気づけようとする人たちとの繋がりがそこから生まれ、広がっていった。

「最初はもちろん、独立にあたって自分のことを知ってもらうためっていう動機だったよ。まずはすがる思いで行動したって感じ。でも地域にはいろんな職人さんがいるから、そういう人たちを撮りたいって気持ちもあった」

山田聖也さん 外で撮影

地域で顔も知られていき、バイトをせずに済んだのはこの繋がりのおかげだと語る山田さん。自身の仕事が軌道に乗った今でも、その姿勢は変わらない。

「東彼杵の仕事はお金とか関係ないんだよね。最近は俺が忙しそうだと思って気を遣ってくれてるのかな。あんまり声をかけてくれなくて。そんなのいいのに!って思ってるよ(笑)」

山田さんは“頑張らないこと”に揺るがない芯を持ちつつも、地域のために惜しみなくその職能を提供しようとしている。お金は大して重要じゃない。

飾らない本心の言葉であることが伝わってきた。

山田聖也さん コーヒー

最後に、カメラの中で最も楽しい瞬間って何ですか?

「やっぱり撮影の方がいい。これは100%そう言える。編集はあんまりだな。この家にいると、植物みたり、犬と遊んだり、コーヒー淹れたりって趣味が周りにありすぎて集中できないんだよね(笑)。だから夜にならないと仕事しない、ぐうたらだよ。趣味が絶対に大事」

山田さんは、ただカメラを楽しんでいる。自分の楽しい時間を愛している。

作品のシネマティックな世界観から抱いていた勝手な僕のイメージは、良い意味で裏切られた。

そして、自分のお気に入りの道具・心地いいと思える空間に囲まれて暮らす山田さんを見て、肩の力がスゥーッと抜けていく感覚を覚える。

そっか、楽しく生きればいいんだ。好きなものを心の真ん中に置きながら、それを大事にし続けられるように仕事を組み立てていけばいい。

取材を通して、いろんなものがほぐれていくようだった。

山田聖也さん 外で撮影