移住して東彼杵の虜になった。東彼杵町観光協会・飯塚将次さん【長崎国際大学 佐野ゼミ共著記事】

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  • 山口 碧斗(長崎国際大学)

    山口 碧斗(長崎国際大学)

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生れも育ちも千葉県浦安市で、田舎とは無縁の生活を送っていた。そんな人が東彼杵町の観光協会の職員として働いているのだから面白い。「人生のらりくらりしてきました」そう笑って話す飯塚将次さんに、今回スポットを当ててみた。

なぜ東彼杵に移住してきたのか。それは“ミッション”がきっかけだった。

もともと千葉出身で、緑もゆかりもない東彼杵町にきて仕事をするようになった理由は何だろうか。

飯塚「40歳を前にどこか地方で暮らしたいと思っていました。それで、ちょうど『地域おこし協力隊』という、都市部に集中する人口を過疎地域や高齢化の進行が著しい地方へ分散させる制度があり、それを利用しました。観光資源の掘り起こしなどのミッションを抱えて、この東彼杵町にきたんですよ」

色んな仕事を経験するうえで、観光に関わりたいという気持ちが芽生えたこと。地方に行きたいという思い。そして、地域おこし協力隊の制度を知ったこと。タイミングが重なって、運命のように東彼杵町へと引き寄せられた。実際に町役場で地域おこし協力隊として活動をし、生活をするなかで、町の良さを知っていった。

飯塚「東彼杵にきたタイミングでちょうど子どもが生まれました。そこで見えたことは、地域全体が子どもに関しても温かかったということ。すごく住みやすいと思いました。また、東京で仕事をしていた頃、忙しくて帰りが0時すぎるということもざらにありました。もし、その時に子どもがいても相手ができなかったと思うし、今だったらずっと一緒にいられる。これも地方の良さですかね」

東彼杵町で暮らしてみて町民の温かさや、住みやすさを知った。そして、人と人とのつながりを大切にしていることもわかった。東彼杵町の交流場所である「 Sorriso riso 」を運営する東彼杵ひとこともの公社の森一峻さんが中心となって、移住者と地域との間に入り、活躍する場を作ってくれている。このまちの良さを知った飯塚さんは、協力隊の任期を終えた後も町に残り、観光協会のスタッフとして働くことを決めた。

色んな仕事の経験が、現在の観光の仕事に結びついている。

これまで色んな仕事に関わってきたという飯塚さん。実際に、どのようなことをしてきたのだろうか。

飯塚「大学を出た後は営業の仕事をして、それから釣りの新聞社に入りました。そして、観光ガイドブックの仕事を経て現在の職に就いたという流れです。釣り新聞はコアなおじさんが読むような専門紙で、取材では船にも乗っていました。結果として、今考えると釣り新聞の仕事をしていた経験も今の仕事に繋がっていると感じます。」

人に魅力的な何かを紹介する。その想いの熱やそれに伴う技術は、釣りの新聞社で働いたことで培われていった。

飯塚「あと、観光ガイドブックの編集者も経験しました。主に関東圏だったんですが、取材に行く楽しさや地域の魅力を感じました。特に、地方が面白い。東京には商品が何でも揃っていますが、地方には人も含めていろいろと、そこでしか体験することができない面白いことがたくさんあると思います」

メディアの魅力を知り、観光というジャンルに興味を持った。そして、発信する中で自身が地方への魅力に取り憑かれ、移住し、経験を活かした仕事を始めた。これまでやってきたことは全て、今に活きているのだ。

お茶の産地ならではの“グリーンティーリズム”で“東そのぎ観光”を盛り上げる。

そして、現在は観光協会のスタッフとして、東彼杵町のPR活動に尽力している。

飯塚「東彼杵町は観光地としてそれほど有名でありません。そこで、4年連続で日本一に輝き、全国的に認知度が上がっている『そのぎ茶』に目をつけ、お茶と観光を組み合わせた“グリーンティーリズム”というグリーン・ツーリズム事業に取り組んできました」

町を代表する産業の一つで、近年注目されている「そのぎ茶」。東彼杵のお茶の歴史は古く、室町時代から続いているので、東彼杵の良さを知ってもらうに「まずは、お茶から」という気持ちは強い。『グリーンティーリズム』とは茶農家が中心となって国内外の来訪者を受け入れ、日本茶の美味しさや効能、素晴らしさを伝え、需要を高めることを目的としたもの。日本茶の産地・東彼杵ならではの“都市農村交流”のスタイルを表現した。

飯塚「当初の予定から外国人、特に欧米のお客様を想定していました。農家民泊の外国人受入が順調に増えるなかで、お茶体験のほかに、さらに何かアクティビティがあると良いなと思いました。彼らの観光スタイルとして、付きっ切りで案内するよりも自分たちで自然や人との出逢いを気ままに探したいのではないか。そこで、『グリーンティーリズム』に参加したい人に自転車を貸すという計画で、レンタサイクルを導入しました。」

コロナウイルスによる影響で観光業界も大打撃を受けている。厳しい中でもグリーン・ツーリズム事業を推進するために、観光客との関係を保つべく試行錯誤している。

飯塚「昨年はバーチャルでお茶のツアーを実施しました。コロナ禍ではそういったことも観光のひとつになり得ます。東彼杵の美しい茶畑などの映像をオンラインで体験してもらい、コロナ収束後には訪問先に選ばれるようなファン作りに努めてきました。あと1~2年はこのような仕掛けをしていこうと前向きに考えています」

観光・メディアという業界で長年働いていたからこそ、観光には色んな魅力の伝え方があると飯塚さんは語る。東彼杵町という地域の活性化のために色んな考えを提案し、東彼杵の観光を盛り上げてくれるはずだ。