わたしの“好き”を集めました。『きょうりゅうと宇宙』小玉一花さん

写真

取材・編集

生まれ故郷で、
大好きな雑貨屋をオープン

千綿宿郷に店舗を構える「きょうりゅうと宇宙」。東彼杵町初ともいえる雑貨屋は、店主の小玉一花さんの“好き”がとことん詰まっている。

「初めて映画館で観たのが『ジュラシックパーク』。字幕も読めなかったんだけど、インパクトがすごくてそこから恐竜が好きになりました。

宇宙は、惑星の名前とか知らないけど、きらきらして、終わりがない感じが好きなんです」

雑貨屋をするぞと決意し、改めて自分の好きなものと向き合った結果“きょうりゅうと宇宙”というワードが浮かんだという。そんな、誰もが持つ“好き”を、立場など関係なく楽しんでほしいとの思いを込めて店名を付けた。

波穏やかな大村湾を望む千綿に、小さな雑貨店を開いた一花さんのこれまでを辿る。

平気で1~2時間は過ごせちゃうほど、雑貨屋が好き。

幼い頃から雑貨が好きでたまらなかった。当時はどれだけ周囲を見渡しても雑貨屋はなく、レターセットがほしくなったら隣町の文具店まで電車で行く。

両親とのお出掛けはお買い物の一大チャンス。お目当ての雑貨屋に迷わず駆け込んだ。

「いつまで見てるの、早く帰るよ!」

呆れる家族を尻目に、一花さんは夢のようなひとときを過ごしていた。

教師からの勧めで、大分大学の教育福祉学部へ進学した。選んだのは「総合表現コース」という、書道・音楽・身体表現・陶芸・美術を一度に学べる革新的なところだった。

1クラス16人で、それぞれが実に個性的。一花さんは美術部門を選んだつもりだったが、経験のないダンスや音楽にもふれることとなった。もちろん陶芸も。

「両親は『抱星窯』をやっているけど、私はさっぱりで」

それでもやっぱり気持ちは美術一筋で、中でもグラフィックデザインに惹かれて専攻していた。

楽器もできて踊りもするなど、一芸ならぬ何芸も取得できたことはとても良い経験だったようだ。

異ジャンルの芸術にふれる学生生活は、一花さんの感性をより豊かにしたに違いない。

充実した日々の中でも雑貨屋めぐりは欠かせなかった。

大学卒業後、長崎市で観光の仕事に携わっても。その後、高島の海水浴場でシュノーケリングのインストラクターの職についても、両親から心配されて東彼杵に戻ったときも。

まるで旅先での出会いみたいな歩みのなかで、ふらりと訪れたお店でお気に入りの雑貨を手に取って部屋に飾る。

それは今も変わらない、一花さんのささやかなしあわせの1つだ。

そんなささやかなしあわせが積み重なった部屋を見て、兄の小玉大介さんは「雑貨屋やってみなよ」と言った。

そのことが、「きょうりゅうと宇宙」を開くきっかけとなる。

「雑貨屋、やってみなよ」

続けて、「良い物件もあるし、センスも良いから」と大介さんは言った。

写真家として数多くの風景や人物を切り取ってきた彼の審美眼にも、一花さんの部屋はとても魅力的に映ったのだ。

物件は、くじらの髭・森さんの実家でもあった酒屋の倉庫だった。築40年前に父親が建てたものを、若者たちで手を加えリノベーション。シンプルな中にも遊び心のある建物に生まれ変わった。

雑貨店経営のノウハウがなかった一花さんは、同じく雑貨店を経営する友人から学び、展示会に足を運んだりネットで直接交渉するなどして仕入れ先を徐々に拡げていった。ようやく落ち着きを見せたが、いまだに慣れない。

そんな一花さんのお話を伺いながら、ふと、カウンターからの景色を想像してみる。

わたしが彼女なら、間違いなくにやけてしまうだろう。流行や利益などを度外視した、自分の“好き”だけが集まる空間だからだ。

「お店で仕入れているので、プライベートで買い物をしたい欲がなくなりました」と笑う一花さん。買って、飾る。幼い頃から積み重ねてきたライフワーク。

「仕事はとても楽しい。雑貨を見てお客さんが喜んでくれたり、新商品のカタログが来たらめちゃくちゃテンションあがります」

そんなささやかなしあわせを、今度は届ける側として、カウンターに立つ。

好きなものを“好き”と言える
自由な空間に

冒頭でもふれたが、「きょうりゅうと宇宙」のコンセプトは、立場など関係なく、自分の好きを楽しめるお店だ。人にはさまざまな役割や立場があるが、“好き”はその垣根を取り払ってくれる。

「15年前……大学生のころ、美術館のミュージアムショップで見つけたゼンマイ仕掛けの人形がすごくかわいくて。ニューヨークにある、キッカーランド社が代表するおもちゃ。当時はまだ学生でお金がなかったので悩みに悩んだすえ、思い切って買って。ずっと好きで大事にしてました。雑貨屋をするってなったときに改めて販売元を探して仕入れたんです」

一花さんが特に思い入れのあるアイテムも、店内にはちらほら。

これからのお店の行く末を尋ねると、

「ゆくゆくは、ヴィレッジヴァンガードとかドンキみたいになれたら最高ですね」と、彼女の口からとても意外な言葉が出てきた。

「色んな作家さんが創るいいものを仕入れるスタンスは変わらないんですが、ここからここまで、みたいなこだわりはないんです。色んな人がいるから、いろいろあった方が楽しいじゃん、って思います」

作家さんたちとの交流も楽しみの1つ
手書きのPOPには、作家さんへの親しみもにじみ出る

「今後は、訪れてくれる人たちがほっと一息つけるような喫茶スペースを作りたいですね。あと、中高生とか、若い子たちが気軽に入れる場所でもありたい。そのために、価格も少し、頑張ってます。私の頃は、東彼杵には雑貨屋がなかったから」

あのとき、こんな雑貨屋があったらな。そんな思いもあるようだ。

わたしは、正直、東彼杵に住む若者がうらやましい! どんどん足を運んで、一花さんのセンスを食べてすくすく育っておくれと願うばかりだ。

「きょうりゅうと宇宙」に来ると、なりふり構わず「かわいい!」「好き!」と言えて気持ちが良い。そんな贅沢なことってそうそうないだろう。

「かわいい! えー、あれも、これも……あぁ、かわいい」

女性の来店客が少女のようにはしゃぐ声が、しばらくのあいだ店内に響き渡っていた。

一花さんはたいてい、そんなわたしたちをつかず離れずな心地いい距離感で、そっとしておいてくれるのだ。

みせの記事に関しましては、以下をご覧ください。