一花さんの“好き”が詰まった小宇宙へようこそ
「東彼杵町にオシャレな雑貨屋さんができた」
そんな話を耳にして、ドライブがてら東彼杵へ。陽の光を受けきらきらと光る大村湾を右手に気持ちよく車を走らせる。
ふと、以前、旅行先でサイエンス系の雑貨屋さんに行ったことを思い出した。夫婦でやってて、旦那さんが趣味で集めてたりして、奥さんが「私ゼンゼン詳しくないんですよぉ」って笑っちゃってたりするみたいな。あんな感じかな。なんて勝手にイメージを膨らませたりする。
駐車場に車を停め、小さなOPEN看板に目をやると小さな恐竜のフィギュアがちょこんと乗っていた。
パキケファロサウルスだ。なぜ名前がスラスラ出てくるかって? 娘が好きなYoutubeで観たことがあるからだ。頭突きが得意なやつなんだよね。
おそるおそる引き戸を開けると、私の想像よりもはるかに自由で、とにかくかわいい世界がそこにはあった。
きょうりゅうと宇宙
天井から伸びるペンダントライトはあたたかい光を放っている。さりげなく個性的なアクセサリー、ポーチ、服。心躍る文具。手にも食卓にもしっくり馴染むカトラリー、ユーモアあふれるインテリア雑貨。興味をそそる本から子どもが喜ぶ駄菓子まで。
「きょうりゅう」と「宇宙」は、店内のあちこちに居て、わたしを癒しワクワクさせてくれるのだ。
なんてのびのびとした空間なんだろう。
男女とか肩書きだとか、いろんな役割がぺりぺりと剥がれて“わたし”で居られる。そんな心地のよさだった。
お店の片隅にあるカウンターでひっそりと佇んでいるのは、この居心地のよいワールドの仕掛け人、小玉一花さんだ。
一花さんは、Sorrisorisoのデザイン関係や写真等でとってもお世話になっている写真家の小玉大介さんの妹でもある。
「私が好きなものを、好きなだけ集めました」と、彼女は屈託のない笑顔を見せた。
兄の一言からはじまった、
夢の雑貨店
一花さんは東彼杵町出身。大分の美術系の大学に進学後、長崎市で観光の仕事に就いたのち帰郷した。
はじめは別の仕事をしていたが、大介さんの「雑貨屋やってみたら」の一言がきっかけで雑貨店をオープンすることを決意したという。
「幼い頃から雑貨が好きで。当時は東彼杵には雑貨店がなかったので、かわいいレターセットがほしいときは電車に乗って隣町の文具店に買いに行ったりとかしてました。
親と買い物先で雑貨店に立ち寄ったときなんかは、平気で1~2時間は居座ってて。もう帰るよ! ってよく言われたりしてました」
「何か見つけて買ってきては部屋に飾っているのを兄が見て。ちょうど良い物件もあるし、センスもあるからやってみな、って」
くじらの髭・森さんの実家でもあった酒屋の倉庫を活用し施工がスタート。
かつて森さんの父親が40年前に建てた空間が、大介さんと山口大工の手によってかわいい大人の秘密基地へと生まれ変わった。
「きょうりゅうと宇宙」のオープン日は、偶然にも一花さんの同級生の粒崎さんが手掛けるお店「和洋創作料理店 多々樂tatara」と同じ。地元出身の二人が、東彼杵に新しい灯をともしたのだった。
誰もが等身大で楽しめるお店に
インタビュー中、女性のお客さん数名が入店してきた。ずっと、「かわいい」と盛り上がっている。そんな彼女たちを初め、さまざまな人たちのココロを掴む雑貨はどのようにして集結したの?
「仕入れ先のツテは全くなかったです。これまで雑貨屋とは無縁の仕事ばかりをしてきたので、お店の経営のことも全然わからなくて。けど、(進学で住んでいた)大分の友達が雑貨屋をしていたので、彼に色々と教わりに行きました。
雑貨の展示会に一緒に行って、取引先をそこで見つけてました。あとは、ネットで見つけて一目惚れした作家さんやメーカーさんに直接交渉したり。いまだに慣れませんが……」
足を運んでの出会いから、いまはネットを通じた出会いもベーシックに。
一花さんのときめきアンテナはいつだって、全国規模で張られているのだ。
ちなみに、「きょうりゅうと宇宙」のコンセプトって、やっぱり一花さんが恐竜と宇宙が好きだから?
「宇宙は終わりがない、きらきらした感じが好き。惑星の名前とか全然知らないんですけど。恐竜も見た目。かっこいいなあって感じ。
ラプトルっていう、映画「ジュラシックワールド」にでてきた小さい恐竜が特に好きなんです。けど、恐竜ショップをやりたかったわけではなくて。大人や子ども関係なく、誰でも楽しめるお店にしたかったんです」
きらきらなかわいさが好き、リアルでゴツゴツした恐竜が好き、神秘的な宇宙が好き。とても入りやすいフラットな空間に集まった一花さんの“好き”は、立場や性別を超えた誰かの“好き”とリンクするのだ。
店内には、一花さんの両親が営む「抱星窯」の味わい深い焼き物も並ぶ。この「抱星窯」の名は、“築山抱星(山を築いて星を抱く)”という漢語が元となっている。
こつこつと努力すれば夢がかなうという意味とのことだ。
一花さんの両親は、彼女が惚れ込んだ作家の一組に数えられるのだろう。まるで親子でエールを送り合っているかのようにも感じられ、心があたたかくなる。
「中高生とか、もっと若い子たちも気軽に来れるようなお店にしていきたいです」と星の瞬きのように微笑む一花さんのお店は、今日も誰かにワクワクを与えている。
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