顧客の望むデザインに、全力で応える。波佐見町の老舗パッケージカンパニー『岩嵜紙器』

取材・文・写真・編集

長崎県波佐見町の地に1960年に創業し、63年の歳月をかけて紙と向き合い、新しいデザインでクライアントを、引いては消費者を驚かせ、喜ばせ続けている『岩嵜紙器』。オーダーメイドから企画商品まで、パッケージにまつわるさまざまな要望に、全力で応え続けるプロ集団を訪ねた。

チームで動く、岩嵜紙器。
デザインに、ゴールはない

岩嵜紙器は、現在三代目を継いだ代表の岩嵜大貴さんを中心に、60名のプロフェッショナルたちのクリエイティブな貢献により支えられている。

岩嵜さんが紙業界に関わってきて20年。改めて紙パッケージをデザインする仕事にどんな気持ちを抱いているのか。

岩嵜「関わってきた時間も長いし、紙という素材自体が好き。紙の持つ風合いや自由度の高さ。そのおかげで商売をさせてもらっている部分も大きいです。かつ、SDGsなど社会環境の視点からも重要な素材。そんな紙を用いたパッケージデザインの仕事では、その括りのデザインだけでなく、流行やファッションなどのデザイン要素を取り込むことも感覚的に大事です。その点において、自分はファッションが本能的に好きだったのでインスピレーションが湧きやすく、弊社で作る商品にも反映しやすかったのだと思います」

時には、専門のデザイナーとチームを組んで動くこともある。

「弊社の場合は、形状のデザイン開発に一番力を入れているので、特に表面に施すグラフィックデザインについてはデザイナーとの繋がりも増えたので、その人たちに任せることもあります。なので、クライアントがデザイナーと一緒にデザインし、そこに弊社が形状を開発し、一緒のチームとして動くことが、この10年で増えてきました」

その流れで、デザインをしたい人と、パッケージを作りたい人とを繋げる『世話焼き紙器』というプロジェクトが立ち上がった。

「デザイナーが増えてきた背景は、デザインという社会的役割が昔よりも高くなってきたことにあります。デザインが世の中にもたらす影響力は、とても大きい。デザインが良ければ、その分一般消費者にも届くと思います。なので、クライアントはもちろんデザインを生業とするデザイナー側からも、弊社をメーカーとして選んでもらえるなら、その人たちと共同して作り出せるもの、場所、場面を増やしていきたい。そこに、業績が後からついていけば良い話なので。ですから、デザイナーとの関係性も重視しています」

社会の変遷で、改めて見直されたパッケージの重要性。それが、デザインの土壌を豊かにしていった。

「昔みたいに、ロングセラーでずっと続いている商品ってかなり少なくなりました。商品寿命が短くなってきたのかもしれません。そのため、その都度いろんな要素を試行錯誤し、商品をより良いものに見せていく必要が出てきました。要素のひとつであるパッケージは、一番最初に消費者の目に入り、触れるもの。だからこそ、中身の商品と同じくらいパッケージデザインを重要視するクライアントが増えてきました。そうした社会変化から、常に新しく、独自性の強い形状のデザインが次々に生み出されるようになっていったのです」

岩嵜紙器のこだわり。それは、ものづくりに対する妥協はしないこと。

「デザイナーごとに、この材料を使いたいという要望があります。数万種類ある紙材の中で、弊社が在庫している紙で作れば効率は良いのでしょうが、基本出てきた要望には断りません。こっちの都合を押し付けるのではなく、相手の理想とするイメージを汲み、全力で応えてあげる。そうすると、いちから材料を取り揃えるので、どうしても製造する材料の管理が煩雑になってしまうのですが(笑)」

デザインには、ゴールがない。だからこそ、夢中になれる。

「今、営業が6人ほどいてそれぞれのイズムを持って動いていますが、断らないのをモットーとしています。話を聞くたびに、大変な仕事をとってきたなと(笑)。難しい要望ほど製造の現場は大変になるので、バチバチやり合ってはいますが、互いに知恵を出し合って乗り越えています」

紙を使った、ものづくりの技術。
岩嵜紙器の工場見学

実際に、説明を受けながら工場内を見学させてもらった。工場内には、あらゆる種類の紙材があちらこちらに積まれている。「どんな紙材を何トン保管しているかは、もうわからないです(笑)」。我々消費者の元へ届く商品のパッケージを作るために、人や機械が日々動く紙の現場。写真点数多めで、見てみよう。

「段ボールの小箱がこういうもので、これは創業時からやっているお皿が入る箱。これが、岩嵜紙器の始まりです。こういう箱は、車で10〜15分圏内の場所に配送しています。焼き物屋からの受注は、現在全体の3割あります」
「これは、紙を打ち抜く機械。手動も、自動もどちらでもやっています。型をセットして、機械で打ち込んで。箱の型は、取引先のあった会社ごとに保管しています」
Vカット加工ができる機械も見せてもらった。彫刻刀のような刃先がセットされてあり、そこに紙が流れることで自動的に削っていく。そうして出来上がるのが、写真にも映る紙の溝だ。これにより、箱を折る際に、角をきっちり折り曲げることが可能となる。
「ホッチキスのような鋲を使って紙を留める作業。足のペダルで踏むと、鋲が出てきます。贈答用の化粧箱化粧箱の製造ラインは、どの会社もほとんど同じ。あとは、どこを自動化するかの違いです」。自動装置は工場内に2台。1台につき、1日で5〜6000個の化粧箱ができるという。
「この箱は、赤と白と、内箱の3つのパーツを貼り合わせることで成り立っています」。今更ながら、どの箱もそれぞれの工程を経て出来ているのだと思い知らされる。
この箱に書かれた文字に注目してほしい。「箔押しという技術です。箔にはいろんな色があって、箔押し版をセットしプレス械で熱と圧力により転写します。面積が大きくなればなるほど、その技術は難しくなってきます」
これは、シールタイプの糊。「この特殊な糊があるおかげで、特殊な形状の箱が作れるようになります。一般の製造ラインでは糊が乾いてしまうのですが、この糊を使えば、じっくり作ることができます。この技術も、途中で導入しました」。
こちらは、デザイン室。「CADによる設計を行っています。CADで設計したデータを、室内にある機械で裁断してみて、イメージをもとに打ち合わせを重ねたりしています」。

一通りの現場を見させてもらい、戻ってきた。工場見学って、何歳になっても面白い。

さて、インタビューに戻る。昨今のコロナ禍において、影響を受けたりはしたのだろうか。

「もちろん、もろに影響を受けています。お土産関係からの受注は、一時期ほとんどがストップしました。逆に、テイクアウト用のボックスなど別の産業からの受注が増えたり、良い影響も悪い影響も見てきました」

紙の驚きを、もっと発信。
これからの、岩嵜紙器

岩嵜紙器は、製造だけでなくWEBサイトやSNSでの発信の取り組みにも力を入れている。

「先にも述べた『世話焼き紙器』などのプロジェクトが生まれたのは、発信力を上げる意識から。HPを立ち上げて長いことやってきましたが、パッケージメーカーが作るHPは、始めはどこも似通っていました。設備がどうとか、こういうものを作れるとか、そういった類のものが多くて。弊社は、より消費者目線で、一般の人が見ても面白い魅せ方をしたかった。直の取引先に見てもらうのではなくて、一般の人に見てもらって面白いか、伝わるかを意識しています」

地域、社会貢献も進んで行う。5月14日に、東彼杵町の『Sorriso riso』にて開催されるウクライナ支援金グッズ販売&トークイベント『Piece to Peace』への協賛も二つ返事で引き受けた。

「『東彼杵ひとこともの公社』の森(一峻)君と、同じく波佐見町にある『丸研特殊印刷』代表の丸田君が、今度の企画で作るものを話している中で、弊社で提供できる部材が出てきたようで。そこで、一緒に話をして、やろうと。今回は部材の提供と加工です。これも社会貢献のひとつで、断る理由がないですからね」

つねに新しい箱を作り、発信し続ける。これからの岩嵜紙器について伺った。

「今までこの仕事に従事してきて、商品やパッケージ、紙質、贈るシーンなど弊社のデザインにいろんな要素が関わっていることがわかりました。企業の次の一手として、それらの要素を表現できる新しいチャンネルを作っていきたい。それが、お店なのか、WEBサービスなのか。近い将来具現化して新しい柱みたいなことを表現していくプロジェクトを始めています。例えば、東彼杵町にくじらの髭が生まれたように、波佐見の町に新しく人を呼ぶような仕組みや拠点などとコラボできたら面白そうです」

ひと、イベントについての詳細は、以下の記事をご覧ください。

店 名
岩嵜紙器
所在地

〒859-3716 長崎県東彼杵郡波佐見町田ノ頭郷201−1Google Map

営業時間
月〜金
8:30〜17:30

※変更になる場合がございます。くわしくはお問い合わせください。

休業日
土・日

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TEL
0956-85-2127