東彼杵から大村へ。夫婦で営む、革の『tateto』 & おやつの『poet』
かつて『Sorrisoriso千綿第三瀬戸米倉庫』内にあった、革製品・卸問屋の『tateto』。2019年より、大村市松原に移転OPENしました。そして移転の際には、季節のおやつ、焼き菓子やドリンクなどを提供する『poet』も新たにOPEN。一つの店舗に、革のお店とおやつのお店が入った不思議な組み合わせとなっています。
お店を営むのは、tatetoの中島陽介さんと、poetのなるみさん夫妻。得意なこと・好きなことを生かしながら、同じ屋根の下でそれぞれが店長としてお店に立っています。ちょっと意外な組み合わせのtateto/poetには、どんな想いが込められているのか。そして、どんな物語が生まれているのかを聴いてみました。
私たち、同じ場所で、違うお店をはじめました。
陽介さんは、Sorrisorisoの立ち上げから携わり、2016年からの3年間は同建物内でtatetoを営業してきました。それから1年間の準備期間を経て、2019年12月に独立し、移転OPENに至りました。
陽介「1年間が準備で空いていたのが思ったよりも長く感じて、不安でした。けど、なんとかオープンにたどり着けましたね」
2人は歯科技工士の専門学校時代からの出会いで、ずっと一緒に歩んできました。夫婦でカフェをはじめました、なんてことはよくある話。ですが、中島夫妻は全く異なる商売を同じ建物で営んでいます。
なるみ「珍しい組み合わせですよね。変わっているというか……。大丈夫なのかなって不安もあります(笑)」
なるみさんの目から見て、陽介さんは学生の頃から少し変わった人物に映っていたと言います。結婚・出産・子育てを経験しながらも、革製品の事業で独立に向けて進んでいく陽介さん。その後についていく人生を歩むうちに、自然となるみさんの生き方にも影響が出てきたのでした。
なるみ「お菓子づくりは、今まで趣味でしかなかったんです。学校卒業後の就職は、長崎と大村でしばらく遠距離だったので、長崎で一人暮らししている時とかによく作っていて。でも、数ヶ月だけケーキ屋さんで働いたことがあって、その時の雰囲気が良くてすっごく楽しかったんです!」
なるみさん自身も楽しく働くことのできる職種を見つけたのでした。専門学校で培った手先の器用さは、2人とも現在の自分の仕事に活かされているようです。そうして、陽介さんの新たなスタートに伴い、なるみさんも自身のお店poetを持つことになりました。
ずっと使える良いモノと、ふらりと寄りたい可愛いカフェと
tatetoでは、革製品やレザークラフト用品を買うことができます。もちろん既存の商品も販売していますが、お客さんとお話しながらオーダーメイドで作ることもあるそうです。どんな形がいいのか、確認しながら好みに合わせて仕上げてもらうのも楽しそう。
また、定期的なワークショップも行われています。革製品を自分で作ってみたい人、プレゼントとして手作りのものを贈りたい人に向けて、毎月商品を変えながら教室を開いています。革にハマって自宅で作り始めたくなった人には、お店で材料や道具も購入可能。皮の切り売りや、金具、工具も用意されています。
陽介「お店をするにあたって、商品を売ったらそこでさようなら、というのが嫌なんです。モノを売るお店に多いと思うんですけどね。“お客さんに届けたいもの”は何なのかって考えると、商品を買ってくれた後にも顔を合わせる機会が欲しいなと」
中島さんがお店にカフェを併設させた理由は、ここにありました。革製品は単価も高く、丈夫で壊れにくいため、1回来たお客さんと次に会うのは数年後……なんてことがよくあるのだそうです。
しかし、革を買わなくても、ただカフェで休憩ができる場所であれば、その後も定期的にお客さんと顔を合わせることができます。その場づくりをしてくれているのが、まさになるみさんのpoet。そうすると、例えばカフェを利用している間だけ革の財布を預かって、メンテナンスをしてお返しすることもできるように。一回でぷつんと途切れてしまう関係性ではなく、“通う楽しみ”も提供してくれるお店なのでした。
陽介「ワークショップをやっていると、ただの店主とお客さんという関係性から、もっと近い関係性になれている気がしますね。親戚のにいちゃんとおばちゃんみたいな感じです(笑)」
共に手を動かし、ものづくりをする時間は、作り手同士の距離をグッと近づけるようです。お客さんが商品を買った後でも、ちょくちょく顔を見せに来てくれるような、一つのコミュニティになりつつあることに中島夫妻は喜びを感じています。
「ものづくり」を通じて、ひとが繋がる・まざりあう
お店づくりにおいて、夫婦間ですぐアドバイスし合える関係性であることも魅力の一つ。男性視点に偏りがちな革製品も、なるみさんや女性スタッフの意見もよく取り入れているそうです。お菓子の試作品ができれば、もちろん陽介さんは味見係に。
革製品とおやつでは、一見何も関連がなさそうに見えますが、実は「ものづくり」や「創作」という点で共通しています。陽介さんの革製品の創作はもちろん、なるみさんの菓子類も、細やかな手作業によって作り出される作品の一つ。
なるみ「poetは、ギリシャ語で“作る人”の意味です。コンセプトはtatetoとあんまり変わらなくて。ワークショップで来てくれたお客さんに、ちょっとしたお茶やお菓子を出しているような感覚です。ものを作る人たちが楽しくワイワイ集まれるような場所にしたいですね」
お客さんは、それぞれ片方のお店のことを知らなかったり、どちらかを目当てにやって来ることもしばしば。お互いのお客さんが混ざり合いながら、自然とコミュニケーションが生まれていくのだそうです。
なるみ「poetに来たお客さんが、革製品を作りましたって見せてくれたりするんですよ。そうやって話すきっかけもできて、仲良くなれるから楽しいですね。あと、お客さん同士の温かい交流が見れると嬉しいです」
中には、初対面のお客さん同士が仲良くなり、助け合うシーンに立ち会えたことも。さまざまな人が集い、ものを作ったり、休憩したりしながら生まれるちょっとした交流は、tateto/poetならではの魅力です。
陽介「来てくれたお客さんに、どれだけ良い気持ちで過ごしてもらえるかを考えて接客しています。それは夫婦でも共通している思いで、オープンの時からずっと話していて。きっと、これからも変わらないと思います」
店主とお客さんとの居心地の良い距離感、関係性。お客さん同士で生まれる営みやコミュニケーション。「またあそこでゆっくりしたいな」と思えるような空気が、お店から、そして2人の店長から感じられました。
「ひと」の記事につきましては、以下をご覧ください。