長崎出身のデザイナー・毎熊さんによる、平和のアート作品
今年も、8月9日がやってきます。長崎に関わる人にとっては、忘れてはいけない特別な1日。日本中、世界中の人々が、平和の大切さと戦争の恐ろしさを再認識してほしい。そんな想いを込めて、たくさんの人が長崎からメッセージを発信します。
被爆70年以上が経ち、数年後に80年を迎えようとしている今、次世代に平和問題を継承する方法に変化の兆しがあります。長崎出身のデザイナー・アートディレクターの毎熊那々恵さんが手がける『祈りの花瓶』も、平和の新しい伝え方の一つ。
お花を一輪だけ挿せるほどの小さな花瓶。でこぼことした不思議な形をしています。現代の私たちが暮らす部屋の空間にも調和して、日常をささやかに彩ってくれます。
これは、長崎の原爆によって変形してしまった瓶を3Dスキャンし、波佐見焼で忠実に再現したもの。「くじらの髭」店舗においても、期間限定で販売しています。このアート作品を通して平和を発信する「Vase to Pray Project」が誕生するまでのストーリーや、開催中の企画展についてを紹介します。
原爆資料館で“さわりたくなる作品”への着想を得る
『祈りの花瓶』の原形となったのは、長崎原爆資料館に保管されている被爆資料です。
瓶の変形の原因は、今から77年前、長崎に落とされた原子爆弾によるもの。CTスキャン技術と3Dプリント技術を駆使して、2000~4000℃の熱風で変形した瓶の形を忠実に再現しています。
通常、施設の資料や展示品には触ることができません。しかし、こうして作品化されたことにより、誰もがそのゆがみを手で触れて、直接感じることができるようになりました。
毎熊さんはデザインの道に進むため、長崎から東京に上京しました。その時に感じた、長崎と東京の“違和感”。
それは、8月9日にサイレンが鳴らない、ということでした。長崎では平和学習があり、毎年のように集会が行われたり、黙祷のサイレンがなったりする環境で育ってきました。だからこそ、当たり前だった平和や戦争への意識。長崎を離れ、東京で過ごす日々には、その面影はありませんでした。
毎熊さんは、通っていたデザインの専門学校で卒業制作を何にしようかと考えていた際に、長崎の平和をテーマにしようと考えました。制作にあたり、リサーチのために訪れた長崎原爆資料館。当時の館内には資料に“触れる”コーナーがありました。
毎熊さんが見たのは、触れる資料のコーナーに集まる子どもたちの姿。ただ資料を見るだけではなく、直接手で触れて感じることで、より深く心に残るのではないか。そんなイメージが膨らんで、『祈りの花瓶』が誕生したのでした。
現在では、東京や長崎で企画展・販売会などを開催しながら、不定期にオンラインショップで販売するなどして、この活動と作品をより広めようとプロジェクトを進行しています。
「祈りの花瓶展2022」が長崎県美術館にて開催中(〜8/15)
今年は、長崎での企画展が実現。7月30日から8月15日までの期間で、長崎県美術館の運河ギャラリーにて「祈りの花瓶展2022」を開催中です。(入場無料)
期間中、すでに多くの人が訪れ、SNSなどでも「#祈りの花瓶」「#祈りの花瓶展」で発信されています。
今回は、美術館周辺や長崎県内の複数店舗において、企画展開催中に『祈りの花瓶』を展示・販売中。美術館からまちへ、そしてまちから美術館へとめぐる循環が生まれています。
協力店舗一覧は以下の通りです。
BOOKSライデン
アルマスゲストハウス
長崎雑貨たてまつる※8/15以降も販売
カリオモンズコーヒー 長崎※7/31スタート
clips / clips on※8月末まで販売
くじらの髭
PEACETOWN CAFE
Patataの花
8月6日(土)と7日(日)では、美術館周辺のお店や被爆遺構をたどるまちあるき企画「Around Peace Gallery」も予定。普段は長崎で生活する毎熊さんと、現地・長崎で活動するメンバーとが協力し、展示会や企画を作り上げました。(事前予約制。詳細はこちらから)
遠く離れたウクライナへの想いも込めて、長崎のまち一帯で取り組む今回の企画。
長崎で過ごす8月9日はもちろん、私たちの毎日の暮らしの中で、少しだけ明るく前向きに未来を見つめられるように。そして、日本と世界の平和に意識を向けるようなきっかけのタネが生まれるように、花瓶は静かに一輪の花を飾ってくれます。
あなたの暮らしのそばにも、平和にふれる、日常を彩るピースなアート作品を取り入れてみてはいかがでしょうか。