『SSC』・篠原光沙実さんが取り組む、新たなセラピーワーク。「”手作り石鹸”を通して、肌と心が喜ぶ安らぎの時間を」

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私たちが日常生活を送る上で何気なく、それでも必ず使っているもののひとつが石鹸ではないだろうか。身体や衣類、日用品を洗浄する私たちの暮らしに必要不可欠な『洗剤』だ。だが、よくよく調べてみるとその奥は深い。

石鹸の起源は、紀元前3000年ごろ。つまり、今から5000年も前から作られ、使われていた。英語で石鹸を意味するソープ(soap)は古代ローマ時代のサポーという名前の丘が語源となっている。日本に入ってきたのは16世紀の鉄砲伝来と同じころ。そこから、明治時代になって初めて国内で生産されるようになった。

さて、そんな歴史ある石鹸に注目し、その魅力の本質を伝えられるように取り組んでいる人がいる。長崎県大村市に本拠を構える『SSC・篠原メディカルケアセンター』代表の篠原光沙実さんだ。

薬剤師として様々な療法を学び、未病対策からアフターケアまで一貫したスキンケアのサポートできる施設を構築。そして、自らが考案したスキンケアクリーム『ビワの葉ごころ』を開発・製造まで手掛けている彼女は、手作りの石鹸にセラピーの作用があると語る。

篠原「石鹸を自らの手で作ることで、他には代えられない安らぎの空間と時間が生まれます。私自身もまだまだ勉強中の身ですが、石鹸から学ぶことは多く私が伝えたいことが詰まっています。いかにうまく作るかというよりも、セラピーのツールのひとつとして用いて患者さんたちに寄り添いたい」

これまで、肌の痛みや悩みについて研究し患者に寄り添ってきた人が、これから石鹸を通して悩める人たちと共有し寄り添っていく。そして、自身もさらなる肌に良いモノづくりに活かしていく。溢れんばかりのパワー漲るその背中を追った。

何からも縛られない石鹸づくりは、
多角的なセラピー効果を生む。

「肌は、季節や食べものによって肌質が変わります。なので、石鹸づくりを通して、その時の肌が喜ぶバランスを一緒に見つけていく。例えば、二十四節気に合わせて蓬(よもぎ)や紫根(しこん)といった植物から成分を抽出をして、それを石鹸に含ませてみる。あとは、色、形、香りをデザインしていく。その人にとって必要なソースが全部詰め込められていて、多角的な観点からセラピーになりますそうして、自分の都合で作り出された日常を解放し、自然の中で生きる本来の姿と出会っていく」

その時、その土地でできる植物を化学的な切り口で石鹸に取り入れる。そこで生まれる化学反応を楽しみ、過程や空気感を味わい、自然のリズムを共有する。「その時間は、過去も、未来もありません。”いま”を生きて動いている自分を見つめ直すことができるのです」。未来の不安や過去の後悔でがんじがらめになった自分を解きほぐし、今ここにいる自分と向き合い集中する。それが、心の安らぎや安寧に繋がるというのだ。

「化粧品製造は、認められた成分と量を必ず入れなければならないとか、これは守らないといけないとか、厳格な中で作っていきます。一方で、手作り石鹸というのは自分たちで入れるものをある程度自由に決めて入れられるという良さがあり、バランスの中で成り立っている。なので、これまでは薬剤師としての目線で成分にこだわって分析し、思考しながら物作りをしていたことが、素材や季節をみんなで味わい、楽しみ、作ることによってその人たちがどう感じるかを共有することができます。自分ひとりで考えながら作ることもあるし、ワークショップなんかで友人たちと一緒に作ったりすれば大きなフィードバックも得られます」

しかしながら、なぜ石鹸なのだろうか。2013年から化粧品を作り始め、9年が経った。ここで、改めて原点に立ち返って考えたという。

「自分が求めるものがないということで作り始め、そこからブラッシュアップを重ねて化粧品製造業という仕事をしていますが、ここでもう一回原点に立ち返って考えてみました。みんなが求めるものとは何だろう。肌に優しい成分とは何だろう。みんなが良いという肌の感覚とは何だろうと。そして、手作りの温かさを思い出し、ものづくりの大事さを改めて考えていきました」

篠原さんが色や香りを織り込んだ石鹸作りに着目したのは、そんな時だった。「これなら、作る過程も含めてセラピーができると思いました。自分も癒されるし、他の人ともその想いを共有できるというか」。そこから、本格的に石鹸づくりについて学んでいくこととなる。

流動的に変化し、還る石鹸。
それは、まさに人生そのもの

石鹸づくりを学び、実際に行う中で、石鹸の持つ純粋な面白さ、喜びを発見したと言う。

「本来混ざることない水と油を混ぜることで化学反応を起こさせて、そこで生まれる化学熱という反応熱を利用して少しずつ石鹸になっていきます。そして、色も香りも取り込み固形となった石鹸が、使うことで泡となってまた地球へと還っていく。泡が消えていく中、人も含めて全てのものが地球に還る、循環していくことをまざまざと知ることができました。そして、それがきっかけで石鹸作りの過程を体験して見ることがセラピーになると考えたのです」

そう思うと、もっと、石鹸のことを知りたくなった。

「香りのこともそうですし、もっと五感で感じられる化粧品づくりも必要だと思いました。そうして、石鹸を通して出会ったその道のスペシャリストたちから調香の勉強をさせていただきました。そうすることで、温度や湿度の違いで植物から出てくる成分は違ったり、香りが人にどのように作用するのかといったことも作りながら話すことができます。ただ石鹸を作るだけでなく、いろんなアプローチができます。石鹸は、奥が深いなと」

石鹸が教えてくれた、
本質を掘り下げた商品づくり

水や油など、本来混ざり合わないものを交え、固まらせる。それが、また泡となって流れていく。その流動的なものの変化を感じる。そして、肌にも、心にも、繋がってひとつになっていく。まさにそれは、奇跡の連続と言えないだろうか。

今は歴史を学ぶことでより深みが出てきて、石鹸を通して今まで私が何年も思い描いてきた、人にとって必要なことが見えてきました。それをみんなと一緒に共有して、分かち合うことができたら良いなと思いますまた、この学びはプロデュースした『ビワの葉ごころ』のさらなる研究にも役立つはずです。発見できていないこともまだまだあるので、深い学びを得て、繋げて。そうして製品づくりに活かしていきたい」

ひとは、どんどん変わっていく。身体も、心も、石鹸のように流動的に。それを楽しみながら、そこに幸せを感じながら生きられると、どんなに楽なのだろう。篠原さんはここまで歩んで来て、それでもまだまだ道半ばだと言う。

「五感という言葉を簡単に使ってしまいがちですが、そこを実際に掘り下げていく。皮膚の感覚で何を感じているのか、嗅覚もどのようなルートを経て人はコントロールしているのか。香りも、ただアロマテラピーで匂いのするものを使うのではなく、どの成分がどのタイミングで香り出すのか。それを言葉にできると人は安心できるし、実際に体験してもらうことで私が言っている本質も共有できると思っています。もっと具体的にアプローチできるセラピーを目指し、五感の本質を掘り下げた商品づくりを目指したい」

五感の本質を掘り下げるとは、言い得て妙である。確かに、記者も漠然と五感という言葉を使いがちだが、それは表面を掬い上げたものになってはいないだろうか。では、果たしてその語感の本質とは。そう考えたときに、学びの道は開かれる。

さて。身体、身の回りのものを洗浄する石鹸作りは、”be here now.”で感じる心の洗浄でもあった。チルアウトし、本来の自分を取り戻せられる体験は、とても興味深い。篠原さんの取り組みを、今後も注視していきたい。

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