楽しく働き、楽しく暮らす。アートとプロダクトを通じて、新しい文化をつくりたい。『=voteプロジェクトマネージャー・山内理央さん』【長崎国際大学 佐野ゼミ生共著記事】

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  • 新開和奏(長崎国際大学佐野ゼミ生)

    新開和奏(長崎国際大学佐野ゼミ生)

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「アート」、それはどうにも心が揺さぶられたり、こんな物事の見方もあるのだと気づかされたり。アートに触れると、心が動き、 思考が巡り、自分の世界がぐっと広がることがあります。 人がアートに惹かれるのは、このような体験ができるからなのではないかと思うのです。 

そのアートを地域で気軽に楽しめるセレクトショップ「=vote(イコールボート)」が2023年2月に長崎県東彼杵町でお店をオープン。大村湾沿いにある小さな白い建物。外壁には”=vote”の文字が書かれており、窓には大きな絵が展示されています。

店内に入ってみると……。
壁一面にアート作品があり、雑貨やインテリア、アクセサリーなどオリジナリティで溢れ、色鮮やかな空間が広がっています。

店内にある商品はすべて、障がい福祉事業所の方々がデザインや縫製、生産加工を手掛けており、障がい福祉施設のものづくりの力を知るショールームにもなっています。商品の購入が”=”「アーティスト」「プロダクト」「福祉事業所」「=voteの取り組み」へ投票(vote)するという意味がブランド名に込められています。

プロジェクトマネージャーである山内理央さんは、=voteの会社設立と同時に福岡から長崎へ移住。以前は全くの異業種に勤めていた山内さんは、なぜこのタイミングで長崎へと移ったのか話を伺いました。

山内さんのこれからを変えた出会い

山内さんは山口県出身で、大学卒業後、福岡県で経営者団体の事務局員をしていた。そこでは経営に関する各種セミナーの企画運営だけでなく、共生社会を目指し、他団体と連携して障がい者雇用を促進。社会課題を解決できる企業づくりや行政と共にまちづくりにも携わっていたという。

長崎とは縁もゆかりもない中、移住するきっかけは何だったのだろうか。

山内さん 取材風景

「仕事で福岡の大牟田市まちづくり視察ツアーの企画を担当したときに、=voteのグループ会社ISIALの代表 石丸との出会いがきっかけです。その視察ツアーの懇親会で、代表の石丸が大学生たちに長崎で取り組んでいる”ハイキーパーソン”というまちづくりの仕組みの話をしていて。難しい収益性をしっかり考えており、誰もがメリットを感じるような取り組みをされているのを横で聞いていて心から凄いと感じたんです」

山内さんは、福岡の糸島をエリア担当していて、中小企業と行政、学校機関と連携してまちづくりを行う難しさを痛感していたタイミングだったこともあり、より一層詳しく知りたい、仕組みづくりを学びたいと強く思ったという。

また、共生社会を目指した障がい者雇用促進にも携わっていたため、石丸さんの福祉事業所も見て聞いてみたい!という気持ちが高まり、出会ったセミナーから2週間後に「長崎に見学に行ってもいいですか?」と連絡し、1ヶ月後には長崎プライベート視察ツアーが実現された。

石丸さんのひと記事はこちら
長崎プライベート視察ツアーでなにを思い、移住に至ったのか
山内さん =vote店内

「ISIALが運営する就労支援施設を見学した時、なんだこの福祉施設は?!って驚きの連続だったんです。誰もが働いてみたいって思える環境づくり、障がいの有無が関係ない組織づくり、誰もがわくわくするような仕事づくりをされていることに感動したんですよね」

長崎で目にした山内さんの感動とわくわくを熱量はそのまま伝えてくれた。それから=voteで働くきっかけとなるのは、いったい何だったのだろうか。

「社会人4年目になり、これからのステップアップをどうしていこうか考えていた時期でした。ちょうど奈良の研修で、とある経営者の方が、

”限りある命をどう使うか、それが使命であり、何に使うかを自分で決めるのが人生の醍醐味。自分の人生、自分もちやで。自分の生きてきた人生が、幸せやったなと思える歩みでした。”

とおっしゃっていて、私も人生の最後にそんな風に言いたいし、誰もがそんな風に言えたらいいなと思ったと同時に、今までの学びをアウトプットして行動に移していきたいと思いました」

経営者の方の言葉が山内さんの心に響き、新しい夢がまた芽生えたという。

山内さん 仕事風景

「そんなタイミングで長崎視察に訪れ、代表の石丸が『実は=voteという取り組みを会社化しようとしていて、その中心メンバーがいたらと思っていたんだけど、やってみる?』と提案していただいたんです。

正直、今まで会社を立ち上げるところからやってみたいという野望はありつつ、アクションする勇気はありませんでした。また、アートや文化的な取り組みに興味がありましたが、仕事にするなんて夢のまた夢だなんて思っていました」

目指す先、そしてやってみたいと思える新しい挑戦に繋がると思った山内さんは、密かな野望であった”会社を立ち上げる”を経験できると思い参加した。

大きな好奇心と想いから長崎へ迷い無く移住し、=voteに携わる決断が出来る行動力は山内さんの一つの魅力である。

山内さんにとって”働く”とは何か。=voteを運営してみて

人や想い、タイミングが重なり、”仕事”を理由に長崎へ移住した山内さんにとって、働くとは何か。

「”働く”という経験は人生の選択肢を増やし、人生を豊かにする一つの方法だと思っています。人生においてとても重要な経験だからこそ、意志ある仕事づくり、意志ある人生設計のために取り組むISIALの姿勢が好きです」

また、=voteの「障がい福祉事業所のものづくりの力を知ってもらいたい」という想いには、「働く」が大きなキーワードとなっているという。

「=voteでセレクトしているプロダクトは全て障がい福祉事業所で製作したストーリーある商品を取り扱っています。就労支援事業所にいる彼らの給与はすべて製作した商品の売上が対価となります。そのため、意志ある仕事づくりが経済活動に繋がることを必ず意識しています。

福祉事業所が企業の競争力を高めるパートナーとして協業したいと発信しているのですが、その想いの先には、企業には仕事の幅の広がりや新しい環境づくり、市場の拡大、仕事への誇りを感じるなどの機会創出ができるからなんです」

山内さん =vote店内

=voteは、2023年1月25に会社を設立し、店舗は2月24日にオープンした。1年が過ぎ、実際=voteを運営してみて何を感じたのだろうか。

「地域で気軽にアートを楽しんでもらう場所、障がい福祉施設のものづくりの力を知るショールームとしての役割を担う場所として、定着しつつあるのではないかと感じています」

そのように感じたポイントはなにか。

「アート作品の原画やポスター、ポストカードなどアートプロダクトは月の売上の3分の1以上を占め、月に100点以上動きがあります。アートを飾ってみたいと思っていたけど、身近にお店がないことと敷居が高いと感じていたというお客様が多く、=voteと出会って、絵を選ぶ、飾る楽しさを知りましたとおっしゃっていただくこともしばしば。地域で、老若男女がアートを見て楽しめる空間がつくれていること、そしてその先に描き手や作り手の働くことに繋がっていることがとても嬉しいです」

話を聞く中で、山内さんのアートへの強い思いを感じることができた。またその思いは山内さん本人だけでなく、=voteに訪れるお客さんからも感じることが出来るという。

「店舗では、福祉という枕詞を使わず”いいな、好きだな”と思ってもらえることを大事にしているのですが、入った瞬間に”ワクワクする!このお店!”とおっしゃってくださり、お知り合いを連れてきてくださるリピーターさんが多いです。さらに、企業や福祉事業所の見学も増えました。立ち上げて1年が経ち、企業や地域との接点をつなぐ役割が徐々に担えてきたと感じています」

山内さん =vote商品

また、=voteの強みの一つとして、オリジナル商品は全て、障がい福祉サービスを利用する人たちが手掛けていることだという。デザインだけでなく、縫製や布への印刷などの製作までを一貫して障がい福祉事業所が行っているというから驚きである。

障がい者一人一人の特性を踏まえた社会参加を創出できるよう、複数の事業所が連携する体制を整えている。その品質は高く評価され、=voteの商品は、東京駅や大阪や福岡の百貨店でも販売されている。

「全国で販売されるようになり、デザインや縫製に携わった本人やご家族がとても誇らしげな顔で喜びを伝えてくれたことがあります。私自身も携わった商品が全国に展開されることを嬉しく思うと同時に彼らの喜びに繋がっているからこそ継続的な発展をしていきたいとより一層感じます」

少しずつ=voteの取り組みが長崎県内ニュースやテレビ東京、ファッション雑誌「装苑」や共同通信に掲載され、全国的に広がりをみせている。

全国に広がりをみせ始めた=voteは今後どうありたいと考えるのか。

山内さんの話から=voteへの想いや長崎に移住に至った理由をたくさん伺うことができたが、活動する中で一番印象に残ったことは何だったのだろうか。

「取り組んでいることすべてが印象に残ることばかりです。やってみたいことを尊重してもらいながら進められること。未経験のことが多い中で、フィードバックや相談にのってもらえる環境があること。同じ温度感で進めましょうと言ってくださる企業がいること。すべてがとても恵まれていて、プレッシャーはありますが、心から楽しく成長させていただいてるなと感じます」

山内さん 取材風景

最後に、今後の目標とビジョンを聞いた。

「新たな文化を創りたいです。一つは、アートを気軽に楽しめ、今日はアートを買いに行こうという文化ができること。もう一つは、福祉事業所が競争力を高める一企業としての認識が当たり前になること。地域のお店でアートを気軽に楽しめる環境をつくり、絵を見て楽しむ経験や部屋に飾って日常にアートがある経験がしやすくなる。日常でアートを楽しむ心地いい時間を繰り返すことで、アートに魅せられて心が動き、文化となっていくのではないかと思います。

=voteの役割として、そのアートやアートプロダクトは、各地域の福祉事業所のものづくりの力のプレゼンテーションとなるものであり、経済活動に繋がる仕組みまで持っていけるように、実績をつくっていきたいです。一人一人が自分のできることに取り組み、その繋がりのなかで、楽しく働き楽しく暮らす。誰もが参加できる持続可能な社会の創造を=voteとして叶えたいです」

今回お話を聞いて、山内さんの好奇心を行動に変え、実行していく力に強い印象を受けた。熱い想いで溢れる山内さんは、今後もたくさんの方を笑顔にするのだろう。

山内さん =vote店内
『=vote』のみせ記事はこちら