「旅ムサin佐世保」プロジェクトメンバーの個性豊かな芸術哲学と思想【武蔵野大学 佐野自主ゼミ生共著記事】

取材・文

  • 中久木愛実(武蔵野大学 佐野自主ゼミ生)

    中久木愛実(武蔵野大学 佐野自主ゼミ生)

編集

企画

  • 武蔵野大学 佐野香織

    武蔵野大学 佐野香織

人と人がつながっている町、佐世保。
自然豊かでありながら半都会的なその土地に、芸術を得意とする六人の学生が降り立った。

彼女たちは旅するムサビプロジェクト、通称「旅ムサ」のメンバーだ。

▼旅ムサについてはこちら:
https://www.musabi.ac.jp/collaboration/consortium/school/tabimusa_project/

彼女たちは今回、佐世保の町で「ながさきピース文化祭2025 みんなのさせぼフェス」【「わたし」と「わたしたち」のことばART×旅するムサビプロジェクト in 佐世保(企画:ながさきWell-beingミライ研究所)】で、アート制作・展示・参加型ワークショップを行った。

▼アートプロジェクトの紹介記事はこちら

※四ヶ町商店街アーケードくっけん広場でのポスターアート展示、アート作品展示は終了しています。
アルカスSASEBO, 佐世保市役所高砂駐車場連絡通路においてポスターアート展示をしています。

▼ワークショップのレポート記事はこちら

いくつかの活動をするが、そのうちの一つが、佐世保四ヶ町商店街内にある多目的スペース「くっけん広場」での作品展示だ。本ページでは、彼女たちの作品の展示を楽しんでいただくために、みなさんに彼女たちの性格と展示作品について紹介したい。

学生ではプロの芸術には及ばないと考えられる方もいるかもしれないが、彼女たちは個性のある芸術家としてすでに確立している。

少しでも興味を持たれた方はぜひ、この機会に彼女たちの想うアートに記事という媒体からでも触れてみてほしい。

『自己と他の人とのつながり・人間は縁の中で生きていることに気づいてほしい』~前野色葉~

プロジェクトのリーダーである前野色葉は、をとても大切にしている。

サンスクリット語でという意味の『Pratyaya』は、前野の作品名だ。一つの灰色の球体が自分を減らす(自己犠牲をする)ことで、身体を受け継ぐ。その流れを、服という作品で表している。

「命を繋ぐという事は美しく尊い。~中略~ 繋がれた一つ一つの命は、「縁」となって複雑に重なり、混じり合い、今ここに存在している」

『Pratyaya』という作品には、前野のの世界が詰まっている。

『私はワークショップがやりたくて旅ムサに入った~柳澤穂乃歌~

副リーダーのようなポジションで前野をアシストしながらも自分の作品に妥協しない柳澤穂乃歌の作品は、今回の展示の中では唯一参加者をも巻き込んだものだ。

「作品を持って来てって言われたから昔の絵をもって来たんですけれど、なんか、こんなの、違うだろって(思いました)」

色が混ざったクレヨンで参加者に壁に絵を描いてもらって完成させる展示に加え、天井から参加者が印刷し裏面に文字を入れた写真をつるしてひとつの作品にする展示も行っていた。

私達が参加することで完成するという柳澤の作品は、私達が芸術に触れることのできる数少ない機会になっている。

『海の文化は世界中いろいろな場所にあるから面白いと思った』~チン ウテン~

静かでミステリアスな雰囲気を纏うチンウテンは、感情を作品に乗せることを得意としている。

「苦しみや傷が創作の原動力となり、作品というかたちで結晶する――その思いを込めています」

貝は病気になることで(異物が巻き込まれることで)真珠が生まれる。自分の作品は同じようにして生まれていると彼女は言う。今作品も、無理やり傷を曝け出させられている貝は彼女の感情が投影されている。

痛みすらも作品へと昇華するその意識の結晶は、私たちの感情を揺さぶる力を持っている。

『人に影響を与えるのが好き』~キム テウン~

天才気質でわかりやすく「すごい」と思わせる作品をつくるキムテウンの裏側には、本人が努力とも思っていない凄まじい努力が詰まっている。

「絵を描く練習方法はネットや本にたくさんある。だから、しっかりやれば上達できる環境がある」

今回の作品に限らず、少しの時間と紙とペンさえあれば、彼女の作品は生まれる。そんな彼女は佐世保を見て、できる限りの佐世保のスケッチを行った。

「とにかく人と作品が繋がってほしい。どういう方法でもいいから」

彼女の作品に触れ、佐世保とつながってみてはいかがだろうか。

『つり革もLOVEも同じ』~パク ガウン~

平面の作品を得意とするパクガウンは普段は写真を撮っている。今までの撮影したものから厳選した写真集と佐世保をコラボさせた写真集との二冊に加え、今回は別の作品も展示している。

「つり革とLOVEは同じだと思う」

汚いからといって掴まない人もいれば欲深くいくつも掴もうとする人もいる。自分の気持ちに合わせていつでも掴めるしいつでも手放せる。

今まで考えたことのない知らなかった感情を、実際に写真とつり革から感じてほしい。

『芸術にとくに意味はない。やりたい人がやる孤独な営みだと思う~水樹~

水樹はいつも冷静で、変に色を付けることなくしっかりと現実を見ている。そんな彼女は今回、ことばの儚さを作品におとしこんだ。

メモされたことばは確かに存在しているのに、誰かに届くことはない。和紙という昔からことばに使われているものでその曖昧さを表現している。

「(メモの)言葉たちは声として発せられることも、人の目に触れられることもなく、情報としての役割を果たすこともありません。~中略~ その不確かさから、他者に伝えることを難しく、少し恐いと感じてしまうからです」

現実を冷静に見て静かに考える折原だからこそ表現することができる作品である。

私は芸術のことなど何も知らない、むしろどこか縁遠いものだと思っている状態で彼女たちを取材した。しかし、彼女たちの作品を直接見て感じながら取材する中で、思っていたよりも芸術を自分の身近なものに感じ取っている自分と出会った。


「わたし」と「わたしたち」のことばART×旅するムサビプロジェクト in 佐世保

本企画は、「第40回国民文化祭、第25回全国障害者芸術・文化祭 ながさきピース文化祭2025 みんなのさせぼフェス」において、ながさきWell-beingミライ研究所が企画・運営するプロジェクト〈「わたし」と「わたしたち」のことばART×旅するムサビプロジェクト in 佐世保〉として、ポスターアートと参加型ワークショップを行いました。

主催:文化庁 / 厚生労働省 / 長崎県 / 第40回国民文化祭 / 第25回全国障害者芸術・文化祭長崎県実行委員会 / 佐世保市 / 第40回国民文化祭 / 第25回全国障害者芸術・文化祭佐世保市実行委員会

企画・運営:ながさきWell-being ミライ研究所

協力:武蔵野美術大学 / 西海みずき信用組合 / させぼ四ヶ町商店街協同組合 / させぼ四ヶ町商店街 / くっけん広場