東彼杵町で自分の好きをこだわり尽くす。
その信念が失われることはない
東彼杵町の地で陶芸家、小玉健策、恭子夫妻が営む『抱星窯』。窯の由来は、「築山抱星」(山を築いて星を抱く)という漢語が元となっているそうだ。こつこつと努力すれば夢がかなうという意味らしい。
恭子「はじめはそのまま窯の名にしていたんですが、途中で端折って『抱星窯』に」
健策「努力をするというのを省いて、願いが叶うだけにしてもうた(笑)」
ユーモアに溢れるふたりだが、夢を叶えるのは、総じて難しい。本人の努力以外の要因も大きいだろう。しかし、夢を叶えられるのは、夢に向かって愚直に努力した人間だけなのである。36年以上もこの地に根付いてモノを作り続けるふたりに、ぴったりの窯名だ。実際にご夫婦でどんな作業をしているのか。
恭子「一個のものを作ってから焼くまでに40日。昔は薪窯をやっていたんですが、今はガス窯で。乾燥して、創製まで最低一月はかかります。また、歩留まりといって、ひと窯分で一割は不良品ができてしまう。調子が悪かったり、失敗したり」
健策「一から十まで全部自分が力を出し切るよりも、本当は分業が正しい。それぞれの分野で腕の立つ職人がやれば不良品の数は少ない。全部得意じゃないから、嫌な部分とか。そういうのは本当はしたくない、極力したくないって頭で考えるとミスも出ちゃうね」
波佐見、有田は完全なる分業制。陶磁器の石膏型を作る「型屋」、その型から生地を作る「生地屋」、生地屋に土を収める「陶土屋」、その生地を焼いて商品に仕上げる「窯元」、陶磁器に貼る絵柄のシールを作る「上絵屋」。それぞれの職人が、手分けしてひとつの作品を作るのだ。
健策「作るだけだったら楽しい仕事ですよ。粘土で作ってる段階が一番楽しい。そして焼き上がり。その中間は本当に作業やから、全然楽しくない(笑)」
恭子「だから、陶芸教室なんて楽しいところどりです。粘土で作って、完成を待つだけですから。中間は全部プロがやる(笑)」
それでも、ふたりは今後も己の信念のもと、創作活動を続け、作品を生み出し続けていく。陶芸家にとっても、その原動の妨げになるのは“老い”だ。
恭子「今までのパワーでやっていくのは無理なので、体力と気力と今の身の丈に合わせつつやれる範囲でやりたいです。なので、今度今までやってきた薪の穴窯を壊すんですよね。今となっては体力的に厳しいので。面白いので名残惜しいですが」
健策「今焼き物に携わっている人のほとんどが穴窯を経験したことないと思う。薪で炊いてるこの瞬間こそが最高に楽しい。なので、これは本当に残念。火を見るというのが人間にとって良い時間やと思います」
恭子「でも、自分たちは穴窯でずっとやってきて火を使うのは得意なので、火を使って何かをする。全工程をやるワークショップとか。そういうのを模索しながら、自分たちも訪れてくれる人たちも楽しめる場を作っていこうかなと考えています」
できることを、無理しない範囲で。それでも、進化が、変化がふたりの中で止まることはないだろう。年に窯元と佐賀でそれぞれ2回ずつイベントを開催している。ギャラリーはいつでもオープンし、購入も可能なので、電話で伝えてからぶらりと尋ねてみたい。
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