東彼杵郡波佐見町皿山郷にある『有限会社アイユー(aiyu)』は、波佐見焼を使ったオリジナルの商品開発や販売を行っている企業です。
誰にでも使いやすく、かつ洗練されたデザインの食器は大人気で数多くのファンを抱えています。
2021年6月、アイユーが手がけているORIMEシリーズからさわやかに食卓を彩る「薄緑色」と「黄色」の商品が登場しました。薄緑色は全国に展開を広げるアパレルブランド『アーバンリサーチ』限定、そして黄色はくじらの髭限定の商品となっています。
特別なORIMEシリーズの販売に際し、私たちはアイユー社長の小柳勇司さんにインタビューを敢行。アイユーという会社について詳しく伺いました。
一世を風靡した『若竹シリーズ』
アイユーの始まりは1897年、小柳さんの曾祖父である小柳吉蔵氏が皿山郷で創業した『小吉製陶所』という窯元です。その後『小吉陶苑』を開業し、アイテム製造と販売を自社で行うように。
小吉陶苑が手がけていた商品の中でも特に人気だったのが『若竹シリーズ』です。青々と茂る竹藪の柄がデザインされた焼き物は一世を風靡し、どこの家庭にも必ず1つはあると言えるほど日本の食器のスタンダードとなりました。
小柳「当時、若竹はとんでもない人気でした。あるとき近所の人から『海外に住む日本人を紹介するテレビ番組のなかで、ブラジル奥地にいる日本人の家に若竹が映っていたよ』と聞いて。そんなところにまで普及していたんだと驚きました(笑)」
爆発的な人気を誇った若竹シリーズですが売り上げが下降。次第に会社の経営が傾き始め、小吉陶苑は閉業することとなります。
アイユーのはじまり
1984年、小柳さんの父親であり現会長である小柳吉喜氏によって『有限会社アイユー』が設立。陶磁器の卸を行う商社として再スタートしました。
アイユーがある皿山郷は、かつて焼き物の一大産地としてその名を各地にとどろかせていた場所。メーカーが何社も存在し、大勢の職人さんが仕事に従事していたそう。
小柳「皿山という名前になっているだけあって、焼き物がかなり生産されていたという歴史があります。その史実をフューチャーしたいと思い、ロゴマークは皿山という文字をモチーフにしているんですよ」
2015年に作られたアイユーのロゴマークは、円形にかたどられた皿と山の文字の間に一本線が入っているデザインです。円は地球を、一本線は焼き物の生地を乗せる皿板をイメージしているとか。
デザインは長崎市のグラフィックデザイン事務所『デジマグラフ株式会社』によるもの。私たちくじらの髭のロゴデザインも手がけている会社です。
小柳「デジマグラフさんには『焼き物の産地である皿山から色んな所に出荷ができたり商売ができるようにという意味合いを込めたい』というお話をして、展開が広がっていくイメージで作っていただきました」
体制を変えるために
小柳さんは2011年にアイユーへ入社。会社の運営について勉強を始めたところ、かなり利益が少ない商売を行っていることが判明しました。
小柳「『この先もこの商売を続けなきゃいけないのか』と大きな不安を覚えるほどのもので。それから今の状況を変えるにはどうしたら良いのか考え始めました」
そこで行ったのが波佐見の市場調査。誰がどのような商品を手がけているのか、なぜそのブランドや商品が人気になのか分析を重ねた結果、企業の特色を生かしたブランディングを確立していることが大きいと気付きました。
小柳「例えば、波佐見焼人気の先駆けとなった有限会社マルヒロさん。シンプルで洗練されたブランドイメージがありますよね。その確固たるイメージがあるからこそ広く普及したのでしょうし、そこがアイユーとの大きな違いでした」
また、会社として実績を作りたいと考えた小柳さんは毎年開催されるインテリアの国際見本市『インテリアライフスタイル』へ5年後に出店する目標を掲げ、自ら動き出すことにしました。
そこから展示会への参加やモノづくりを一から学ぶなど、新たな課題を設定しては達成を積み重ね、やがて5年経った頃に念願のインテリアライフスタイル出店へと到達。あらゆることが軌道に乗り始めました。
まさかの出来事が起きた
小柳さんがアイユーで働き始めて3年ほど経ったころ、小規模事業者持続化補助金を受けたことがきっかけとなり波佐見のお土産を作ろうと考えるように。
小柳「波佐見のお土産といえばまさに波佐見焼でしょうけど、茶碗やお皿などの日用品が多くていわゆる『Theお土産』がないんです。だから新たにアイユーで作ってみよう!と」
自分一人の力だけではままならず、お土産作りを一緒に担ってくれる人を探していた小柳さん。知り合いからの紹介で出会ったデジマグラフ株式会社と共に商品を開発、完成したお土産品はテレビ取材でも取り上げられるようになりました。
しかし、陶磁器を手がける某企業から「自分たちが作っている商品に似ているから販売を辞めてくれませんか」と、まさかの連絡が。
やがて先方とは話し合いの末に和解、商品の回収はなしという結果となったものの、社長さんから「できれば陶磁器をやっているもの同士でデザインの奪い合いはしたくないし、お互い違った道で頑張らないといけませんね」と声をかけられたそう。
小柳「この一連の出来事でルールを改めて思い知ったし、もっと独自性のあるものを作らなきゃ、もっとモノづくりを強化しなくてはと強く感じるようになりました。そして土台としてブランディングの確立が必要だということも。これをきっかけにデジマグラフさんにブランディングもお願いすることにしました」
アイユーが得意としていることが何かを掴まなければならない、と模索し始めた小柳さん。この後に受講したセミナーでアイユーの強みに気付くこととなります。
ユニバーサルデザインの強さ
この当時は波佐見焼の人気に火が付き、作品制作の依頼が殺到。注文をすべて受ければ会社も安泰だろうと思えるほどの状況でした。
小柳「物自体はたくさん作れるし、色んな企業とも結び付きができて。しかし、父親である会長がもともと取り入れていたユニバーサルデザインをさらに活かしたい思いもありました。これから超高齢化社会へと進行していくし、誰でも使える・共用できる品物を作ることは強みになるなと。どちらへシフトすれば良いか悩んでいました」
悩んでいた小柳さんでしたが、長崎窯業技術センターで受けたセミナーである男性との運命的な出会いを果たします。その男性とは諫早市出身の伝統技術ディレクター立川裕大氏でした。
小柳「セミナーの中で『あなたの会社の強みは何ですか』というテーマで記述する課題を出されて。さんざん迷ったのですが、やはりユニバーサルデザインを取り入れていることが強みだと確信し発表しました。その時セミナーで講師を務められた立川さんに『自分の仲間と一緒にモノづくりをやってみませんか』と声をかけてもらったんです」
立川氏をプロデューサーに迎え、障がい者用のオーダーメイド家具を作る諫早市の企業『株式会社シーズ』と誰でも使いやすい食器の開発を始めることに。実際に小児麻痺を抱える方に協力を仰ぎ、どのように食器やマグカップを使うのかなどの検証を積み重ねました。
やがて完成したのが『motte(モッテ)』シリーズ。手が小さい子供や握力の弱いお年寄り、そして障がいのある人でもハンデを気にせず楽しく食事ができるよう配慮されており、現在ではアイユーの数ある人気商品のひとつとなっています。
人とのつながりのおかげで、今に至っている
様々な場面で様々な人に出会ってきた小柳さん。人とのつながりがとても大切なものだと語ってくださいました。
小柳「新たな商品開発の際や過去に参加した展示会などで数多くの人に出会い、現在まで続いているつながりが今でもたくさんあります。そして波佐見の仲間。すごい能力を持った人たちばかりです。様々な人たちとつながり助けてもらったおかげで、アイユーは今に至っているんだと感じています」
人とのつながりと時代の変化を捉える確かな眼差しをもって、独自の商品を次々と展開してきたアイユー。これからも焼き物の里『皿山』から世界へ、大きく活躍が広がっていくことでしょう。
ひと・ものについての詳細は以下のそれぞれの記事をご覧ください。