妥協をしない大将が、居心地良い空間を作りだす。 大村駅前で愛され続ける『駅前酒場 肴や』

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大村駅から徒歩3分圏内に店を構える『駅前酒場 肴や』

日本では、20歳を迎えると社交の場がぐっと広がる。大学生ではサークルの歓迎会やコンパ。社会人になると、上司や先輩に誘われての”飲みニケーション”や取引先との接待・会食など。昔ほどではないとは言え、人間関係を円滑にするためにお酒を酌み交わすという文化は、現代社会の中でも深く根付いている。また、他人と飲まずとも、一人で飲むことを粋とする人々も多い。そんな、“外で酒を嗜む”場として、人々に最も利用されるのは「居酒屋」と呼ばれる酒場だろう。長崎県大村市には、粋な謳い文句を掲げてこだわり抜いた酒と、肴と、空間を提供する居酒屋があるという。大村駅から徒歩3分圏内に店を構える『駅前酒場 肴や』だ。さっそく、暖簾をくぐってみることにしよう。

外の人が、愛される。

新鮮な魚を旨い肴に。旨い酒には旨い肴を。

4年前の7月からスタートし、その信念をもとに客の求めるものを提供し、客に愛され続けている駅前酒場 肴や。大将の前田匠さんは、生まれも育ちも東京都民。運命の糸を手繰り寄せていく中で、長崎の地で働くことになり、その人柄が周りの人間から認められるようになっていった。

前田「肴やとして独立するまでは『食酒処 信之』で約2年間働き、その後2号店となる『駅前 信之』で5年間働きました。マスターからは早い段階で独立しないかと打診されたんですが、オープンする時の借金があるだろうし、ちゃんと長崎の地で地盤を固めてからの方が良いと考え、『5年はやらせてもらいます』と言って。5年経過後、有言実行で独立しました」

そうした歴史があって、今の店の空気が出来上がっている。外から来た人間だからこそ魅せられる独自の色を出しながら、客を惹きつけて止まない居酒屋へと成長を続ける。

前田「肴やの場所は、駅前信之からそのまま引き継いでいるので合計9年間同じ駅前の場所で働き続けています。なので、自分は外から来た人間ではあるけど、この地で暮らす人たちのことはだいぶ分かるようになってきました」

“酒を楽しみ尽くす”ため。
肩肘張らずに、ご自由に

肴やの酒に対する拘りは、なんといっても「日本酒」だろう。焼酎文化の残る大村の地で、本当に美味しい日本酒を自由に楽しんでもらうべく、あえて種類を絞って料理に合った酒を提供している。それは、大将の前田さんが東京の居酒屋で培ってきた経験をもとに導き出したひとつの答えだ。

前田「東京時代に働いていた居酒屋では、日本酒メインで料理を組み立てていました。経堂という世田谷区にあり、東京農業大学の醸造学部という酒蔵や酒の卸業を志す子たちもそこでバイトするくらい日本酒に拘りをもつ居酒屋でして。そこで学んできた経験を元にそのまま長崎の地でも応用するという感じですね」

気軽に日本酒に触れてほしい一心で、一合180 mlにこだわらない120mlや90mlといったチョイ飲みサイズや、4種類の日本酒を45mlサイズで飲み比べる「いろはに飲み比べ」セットもご用意。他にも、燗の温度を変えての「温度遊び」や、陶器・磁器を使った「酒器遊び」、銘柄によっては「ワイングラス」で楽しむなど、日本酒を楽しむ提案は尽きない。

美味い日本酒は冷であるべき。とにかく有名な銘柄を。そんな固定観念は置いていこう。もっと、自由に。もっと、楽しく。必要なのは、美味しいを素直に楽しめる気持ちだけで良い。

肴に対するクセがスゴい!
それは、拘りの強さゆえのこと

前田「酒だけでなく、肴に対しても以前東京で働いていた居酒屋のスタイルをそのまま引き継いでいます。それだけ、その店の考え方が自分に合っていたので、影響は大きいです」

そのスタイルとは、いつもと変わらない同じ魚や食材を仕入れるのではなく、”その日にしか出逢えない新鮮な食材を仕入れる”こと。そこに、大将ならではの強い意思がある。

前田「常に新しい仕込みをして、新しいメニューを作って。同じことをやらないんですよ。自分が美味しいと思ったものを、すぐに作りたがる。そして、飽き性なんで同じことをやり続ける方が難しいという(笑)。また、長崎にはこれだけ魚も野菜も新鮮なものが揃っているのだから、なるべくその状態に近いものを提供したい。そして、それを実行するためにその日毎に仕入れを行うんですが、結果的に食材のロスが少なくなるので、一番良い方法だと考えています。ですから、『この前来た時に食べた”アレ”が美味しかった』と言われても、同じものを出せるわけではありません(笑)。材料があれば作りますが、メニューとして常時載っているかというと一週間くらいのスパンでどんどん変わっていきます。私の師匠が描いていたことなので、このスタイルは変わらず続けていきます」

現在、魚のノドグロが東京だと1キロ9千円ほどで、長崎だとその三分の一の値段で買えるという。もともとの価格相場の違いもあるが、特にコロナ禍の影響により本来であれば東京に出回るはずだった食材が止まっているため地元の良い食材が安く手に入るというチャンスがあるのだ。社会のことを考えると、この状況が決して望ましいことではないのだろうが、この状況だからこそ考えられ得る試みも多いはずだ。

前田「もっと、いろいろなことができるんじゃないかなと思います。例えば、東日本大震災の時、石巻の缶詰工場が全壊して、売れるはずだった缶詰が全部津波の泥にまみれて売れなくなった。その缶詰を磨いて売ったり、飲食店の人たちがその缶詰を使って”まかない”を作り合おうというムーブメントが起こって。東京では、良いものを仕入れてそれをみんなでシェアするという文化があるんですね。自分もその時の繋がりで缶詰をもらったり、青森のちくわを取り寄せたり。大村市で有名な上野養豚さんの豚肉なども、シェアして。良いものを独り占めしようとするんじゃなくて、良いものはいろんなお店で分け合って、地域の人にどんどん美味しいと認知させられたら、結果的に食べに来る人たちの母数が増えるんです。少ない牌を取り合うのではなく、シェアを拡大させる方がみんながハッピーになれる。なので、他のお店と共同で仕入れて、その分安くで手に入るからどんどんメニュー化して利益を上げるようにしています」

熱量そのままに、今日も東に西に車を走らせては最高の食材を手に入れてくる。これが、肴やならではの強みとなる。しかしながら、各地に足を運ぶのは大変な作業だ。

前田「確かに、東彼杵までレバーを買いに行くのは面倒臭いなと思うこともあるんですが。それでも、美味しいんですよね。『白レバー』とか。あれを、普通のレバーと同じ値段で買えるとなると、自然と足がそっちに向きます。たいして値段が変わらないんだったら、美味しいものを求めた方が良い。そう考えると、動き回るのは苦ではないですね。美味しいものを出すために。仕入れに関しては、アホなほどに動き回っています(笑)」

定番の揚げ物や串物は、もちろんある。だが、ここはせっかくなら『肴や』らしい、どれもがその場限りの名物となる料理の数々を味わってみてほしい。毎日のオススメは、SNSで常に告知している。店に行く前に、一度チェックしてみるのが良いだろう。

酒や肴だけではない。
店の雰囲気作りへの拘り

料理は”化学”だ。食材、調味料。そこに、人の技術や調理方法、それに合わせる飲料といった様々な要因が、重なり合って、掛け合って、生み出される。さらに、”食”は料理だけにあらず。料理を盛り付ける器や店の内装、ついてはスタッフといったその空間にあるもの全てがひっくるめられて化学反応を起こし、初めて五感を刺激される味となる。その空気を作るのは、店を営む人の手腕にかかっている。

前田「料理は一期一会。その感動をお客さんにもたらすには、素材の良さも、店の雰囲気も、人も。全てが影響していると思います。ですから、メニューだけではなく器などにも拘りを持って使わせてもらっています。例えば、地元の陶芸家の方に酒器などをお願いして作ってもらうんですが、都内のちゃんとした料亭と同じクラスの物なんですよね。これは、東京のお店の人からしたら、長崎の陶芸家さんとの距離の近さが羨ましいと言われるほどの特権です。長崎の人って個性が濃い人たちが大勢いると思います。特に、大村の若手職人会のメンバーの方々は、これから10年先とても有名になると思います。そういうスゴい人たちに支えられつつ、お店の空気を作っています」

「酒場という聖地へ 酒を求め、肴を求めさまよう…」とは、BS-TBSの番組『吉田類の酒場放浪記』の冒頭のセリフである。酒を求め、肴を求め、人との出会いや交流を求める。そんな場を提供してくれる居酒屋のありがたさを、コロナ禍の社会情勢になって改めて感じる。良い匂いに誘われて、ふらっと立ち寄る。物思いに耽って一人で酌むのもよし、大人数で話に花を咲かせつつ酒を酌み交わすのもよし。人に迷惑をかけるのはご法度だが、気持ち良くなってついつい居眠り…そんな多少の粗相くらいは店側もご愛嬌。それらの光景どれもが、今となっては懐かしく、渇きとなって求めている。

ひと・ことについての詳細は以下のそれぞれの記事をご覧ください。

店 名
駅前居酒屋 肴や
所在地

長崎県大村市東本町2-1 1FGoogle Map

営業時間
月曜〜土曜
17:30-23:00(L.O 22:30)

※変更になる場合がございます。くわしくはお問い合わせください。

休業日
日曜日

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お問合せ
TEL
0957-53-9798