東彼杵町木場郷は天下の米所!小さな食の拠点「米どころ 木場のむすび」
茶畑の風景でおなじみの東彼杵。しかし忘れてはいけないのが、爽快な棚田と、美味しいお米が穫れる場所・木場。農産物の恵みをもたらす豊かな水が、まさに地域の産業を潤している。そんな東彼杵のお米や野菜を買うことができる食の拠点をご存知だろうか。
大村市から東彼杵町へと向かうドライブコース・大村湾グリーンロード沿いに佇む、「米どころ 木場のむすび」だ。気持ちよく車やバイクを走らせる道中で、大きな“木場”のモニュメントを見たことがある人も多いはず。
店を運営するのは「一般社団法人 東そのぎ木場みのりの会」。直売所ができたことで、地域にもたらされたものとは一体何だろうか?副代表・松尾幸彦さんにお話を伺った。
小さな拠点の芽ばえ
始まりは、平成25年に実施された長崎県の地域活性化事業にさかのぼる。地域として3年間取り組むことになり、ワークショップを重ねていった。進行する少子高齢化についてなど、地方の課題に対して住民同士でアイデアを出しあう。
松尾「解決するためにはどうしたらいいか、こんなことしたらいいんじゃないか、という風に、みんなでこの町の将来を考えていって。その中で出たアイデアの一つが、地域の郷土料理に関することだった。その時は、まだ会の名前も無かったね。」
「お米が美味しい木場。」この魅力を起点に物語が動き始める。事業は3年間で終わってしまうため、このまま形を残さずに解散するのは勿体無い。そうして、希望者を募った任意の組合「東そのぎ木場みのりの会」が立ち上がったのだ。松尾さんたちは軽トラでおむすびを販売するなどして、自分達にできることを継続した。
続けて、平成28年度より始まった長崎県の小さな楽園づくり交付事業。3年間のうちに、今までの取り組みを“小さな拠点づくり”へと展開させていく。施設の魅力をどう発信していくか。お米の美味しさをどうやって伝えるか。会議を重ね、地域住民で店舗をDIYしながら、木場郷の新しい食の拠点「米どころ 木場のむすび」が誕生した。
流れる湧き水、自然の恵み。地域資源を循環させる
木場郷のお米が美味しい理由。それは、出口山から流れる清らかな湧き水の存在に他ならない。日に16,000tと言われる豊富な湧き水は、水田用水・農業用水・家庭用水として活用されている。時は江戸時代、この地に配置された「江の串鉄砲組」が水田を開拓したことに始まり、現在のような景観が生み出されるまでに至った。
松尾「毎年1月16日には、1.8㎞くらいの距離をしめ縄で囲むんだよ。昔からある、山の神様に感謝する行事でね。ここでは、水を大事にしているね。」
祖先より残されてきた地域の恩恵。感謝し、保全する文化が継承されているようだ。そんな木場郷の美味しいおにぎりが食べられる「木場のむすび」は、シンプルなメニューのラインナップ。様々な具材のおむすびとお惣菜が中心だ。
松尾「オープンしてから少しずつおにぎりの種類も増えていったね。季節限定のメニューとかは無くて、基本通年かな。作り手の数は6人で、週末の営業に向けて木曜日から仕込みをしとる。」
もちろん精米の販売も、まとめ買いをするお客さんもいるほど大人気。時期によっては販売できる量が限られるため、なかなか手に入らない時もあるとのこと。品質を保つためには、常温ではなく冷蔵庫で保管する必要があり、それだけストックをしておくためのスペースがたくさん求められる。
出口山の湧き水で育まれたお米がより多くの人の元に渡るために、より美味しい形で届けるために、生産者と「木場のむすび」は手を取り合う。
新しい人の流れを町へ
「木場のむすび」の名が示す通り、この場所には“結び”の想いも込められている。目指すは、食を通じて地域と訪れる人とのご縁を結ぶ、現代の寄合所。ドライブがてら寄り道してみれば会話が自然と生まれるような、居心地の良い空気が流れている。
松尾「おむすびの他にも、地域の朝獲れ野菜も置いてるね。今は試しに3件ほど。この辺のおばあちゃんが趣味で作っているもので、月に数千円くらいしかならんけどね。値段もあってないようなもの。こんなに安くてよかと?って聞いても、お〜!よか!って(笑)」
他所からやってきた人でも地域の農産物が購入できる場所といえば、道の駅や直売所が思い浮かぶ。そこへ立ち寄る時、そして商品を買う時に、私たちが求めているもの。それは、その“地域の空気”そのものではないだろうか。
木場郷周辺の道の駅は少し離れた場所に位置するため、高齢者は遠くて野菜を持っていくことが困難だ。そんな人たちのためにも、「木場のむすび」がご縁を繋いでくれる。松尾さんがここへ来る途中に農家の元へ顔を出しては、売れそうなものがあれば引き取って来るのだとか。
近年、大規模な直売所などの店舗が増えており、連日来訪者で賑わう。一方で、「木場のむすび」のような小規模な加工直売所も、私たちが期待する東彼杵の空気と出会わせてくれる場所の一つに違いない。
地域にお金を循環させる
最後に、この食の拠点が目的とすること。それは、地域経済の循環だ。地元の人はもちろんのこと、町外から訪れる新しい人の波を呼び込みたい。
松尾「やっぱり外貨を稼がないとダメ。外貨を稼ぎながら、地域の中でお金を回していく仕組みが理想。ここで利益を出して、地域に還元していきたいね。」
新しい場所を作るということは、新しい流れが生まれるということ。循環するのは、ひと・もの・お金と様々だ。「木場のむすび」ができたことで、今まで広域農道を通ることがなかった人も、ドライブコースに選択する理由が生まれた。
始まりは住民間で課題を共有し、自分たちの町を見つめ直すところから。そこで芽生えたアイデアは大事に育まれていき、地域の新たな持続可能性を実らせた。私たちが「木場のむすび」で美味しいおにぎりを一つ頬張れば、木場郷のひと・もの・お金の循環がまた一つ巡ったことになる。
木場のむすびの「ひと」についての詳細は以下の記事をご覧ください。