ひと口飲み込めばふわっと華やかに広がる香りと、青々とした新緑を思わせる爽やかなうまみ。大村湾の潮風・日差しが降り注ぐ穏やかな気候・多良山系の豊富な水に恵まれた東彼杵町で生産されているそのぎ茶は、その上質な味わいから全国茶品評会で4年連続日本一を獲得、近年大きな注目を集めています。
東彼杵町中尾郷にある『大山製茶園』は4代にわたってそのぎ茶の生産を続けるお茶農家。そのぎ茶の栽培から焙煎、販売までを行っており、工場のすぐそばにある『お茶飲み処 茶楽』では丹精込めて作られたお茶を実際に飲むことができます。
今回私たちくじらの髭は、大山製茶園の代表である大山良貴さんと、お母様の英子さんにインタビューを敢行。茶楽についてのお話やそのぎ茶を育てていく上でのお話などをたっぷり伺いました。
お茶をゆっくり味わってもらいたい
『お茶飲み処 茶楽』の洗練された趣ある古民家風の建物は、懐かしさを覚える佇まい。上質なお茶をじっくりと楽しめるスポットとして観光客だけでなく地元住民の憩いの場にもなっています。
良貴「茶楽を作ったのは、母が日本茶インストラクターの資格を取ったことが大きなきっかけでした。せっかくだからその資格を活かして、沢山の方においしい日本茶を飲んでもらえる場所を作ろうという話になって」
英子「それまでも試飲の機会を設けてはいたんですが、工場の片隅でやっていたんですよ。だけどわざわざお客さんにうちまで来てもらうんだから、ゆっくりと味わって自分で納得した上でお茶を買っていただいた方が良いよね、ってことで始めました」
お店に一歩足を踏み入れれば木製の家具やこだわりの調度品が数多く並び、まるでギャラリーのようです。これらのインテリアの数々は英子さんのこだわりをとことん詰め込んでおり、海外からのお客さんからも喜ばれることが多いそう。
英子「お店を古民家風にしたのは私たっての希望で、大工さんには私のリクエストをたくさん実現してもらって。お店にある棚は障子の枠を再利用していて、テーブルや椅子も茶楽オリジナルなんです。天井にある梁もわざと見えるようにして、古き良き日本の雰囲気が出るようにしてもらいました」
特に目を見張るのが所狭しと配置されたお茶道具のミニチュア、陶器、人形などの数々。思わず夢中になって見入ってしまいます。
英子「もともと細かなものが大好きで、長年かけて少しずつ集めてきたんです。作家のお友達に『こういうの作って』ってリクエストすることもあるし、旅行に行ったときは必ず可愛いものを探しに行くの。『和』って書いてある掛け軸も北京へ行ったときに現地の書道家の人に書いてもらったんですよ」
お店ではお客さんが飲みたい銘柄を試飲することも可能ですが、基本的には大山製茶園おすすめの『和(なごみ)』を用意しているそう。実は良貴さんのお子さんのお名前がお茶の名前になっており、甘みと優雅な香りが特徴の「やぶきた」とふくよかなうまみのある「さえみどり」がブレンドされています。
また2020年からは優しい甘みが広がる『芯(しん)さえみどり』が新登場。こちらもお子さんの名前が名付けられており、注目を集めているそうです。
そして、茶楽では日本茶インストラクターである英子さんから美味しいお茶の淹れ方を学ぶことも可能となっています。事前予約が必須とのことなので、ぜひお問い合わせを。
美味しいお茶を生み出すために
大山製茶園では、当主が良貴さんに代替わりした頃から茶葉の小売にも注力。年々お茶の価格が低迷し今後の経営に危機感を覚えたことや、肥料や農薬など日々の管理費を捻出するためなど様々な理由がありました。
良貴「自分としては若い人にもっとそのぎ茶が普及できれば、という思いがありました。それで展示会に出向いてお客さんとコミュニケーションを取ったり、パッケージを自らリニューアルしたりなど色々と試行錯誤しましたね」
小売と同じく力を注いできたのが肥料の改善です。ある年、お茶農家仲間である尾上和彦さんが手掛けたお茶の味がとても良く市場でも大評判に。その秘訣は尾上さんが長年に渡りぼかし肥料を使用していたことにありました。
ぼかし肥料とは菜種油や魚粉、米ぬかなどの有機物に水分を混ぜて発酵させた肥料のこと。有機物の中にいる微生物に分解させるため出来上がるまでに40日ほどの時間を要しますが、バランス良く作物が生育されるメリットがあります。
良貴「肥料を作るのに手間がかかるのがネックでしたが、昨今の温暖化で気候が変わってきたことや、普段使っている乗用機械がとても重くて土がガチっと固まるのに困っていたのでチャレンジしようと。いざ始めてみると土が変わってきたし、栄養の効きも早くて。導入して15年になりますが、少しずつお茶屋さんに認めてもらえるものを作れるようになっていきましたし、おかげさまで小売の売上も想定より伸びています」
大山製茶園で本格的に小売を行うようになり、気付いたことが沢山あったと良貴さんは語ります。
良貴「自社で仕上げの焙煎まで行っているので、お茶屋さんの気持ちが分かってきましたね。例えば何故お茶屋さんが色の良い茶葉を欲しがるかと言ったら、焙煎の際に火を強く入れても鮮やかなグリーンが保てるから…といった感じで相手の立場に立って。また、お客さんとのやり取りも増え、『毎年ここのお茶は美味しかね』『大山製茶園じゃないと』って言ってもらえるようになりました。すると毎年作る時にも『今年はいくら売る』じゃなく、『うちのお茶を待っている人がいる。美味しいものを作らなきゃ』っていう思いがあると、畑の管理を怠れないし気を抜けなくなるから、そういう意味では小売りをやってみて良かったと感じています」
最後に、大山製茶園のこれからの目標についてもお話いただきました。
良貴「模索を続けてなんとか安定してきましたが、一番の課題はどんどん経費が上がってきていることです。父親の代くらいまでは今の面積の半分でも利益率が十分高かったんですが、現在は面積を倍にしているのに売上はさほど変わっていません。利益を上げるためには小売を頑張らないと、とは思っていますがお茶屋さんとの関係や市場で売っていくことも大山製茶園としては大事なことなので、そこのバランスをよく考えながら動いていきたいですね。また先代までが築いてきた歴史や、うちのお茶を買ってくださるお客さんのことも大切にしたいですし。『Tsunagu Sonogi Tea Farmers』や『株式会社FORTHEES』で培った経験も活かして、そのぎ茶の在り方をもっといろんな視点から考えていければと思います」
誠心誠意込めてそのぎ茶を作り続けている大山製茶園。極上のお茶を味わいにぜひ『お茶飲み処 茶楽』へ訪れてみてください。
※茶楽は不定休のため、あらかじめ問い合わせていただくのが確実とのこと。お茶の淹れ方も学びたいという方は必ず事前予約をお願いします。
ひとについての詳細は以下の記事をご覧ください。
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