2019年。本場フランスで10年に渡り料理の研鑽を積んだフレンチシェフが、東彼杵の町でレストランを開いた。その名は『Little Leo(リトル・れお)』。オーナーの宮副玲長奈シェフは”テロワール”という概念を大事にしている。東彼杵町でしか味わうことしかできない、その土地の風土を感じることができる至極の逸品に、興味は尽きない。
本場を見てきたシェフが考える
フレンチのあり方
Little Leoを知るにあたって、どのようなスタンスでフレンチと向き合っているのかがまずは気になるところ。はじめに、宮副シェフが考えるフレンチのあり方について、いろんな角度から話を伺った。
宮副「日本のフレンチは、新しいことへと突き進む中で本質と違うことに尽力していた時代があったように思います。目先だけで違うものを作っていくのは、この世界で30年やってきて思うのはピントがズレているということ。確かに、お客さんにとって新しさ、斬新さがわかりやすい指標になるとは思います。しかし、奇抜さに寄ってくるとエンターテインメント性が強すぎて本質から離れてくる。それは、フレンチではなくなってきているなと。一瞬のウケであり、淘汰されてしまいます」
そして、話はフレンチから各国の料理へと移っていく。
「料理の世界は日進月歩。特に、フレンチはトップランナーなカテゴリでもあるし、技術的にも高いというのは誰もが認めるところです。例えば、イタリアンというのはシンプルな家庭料理。ワンプレートのフライパンでどうにか仕上げようという基本概念です。ですが、フレンチというのは焼くものは焼く。ソースはソースで別カテゴリでどんどん進めていって、最終的に一つのものを作る感覚です」
「工程が長いし、その分手がかかります。難しいとか、ゴテゴテしているとか。説明が長いと言われることもありますが、実際それくらいのステップを踏んで料理を作っており、それを楽しんでもらうという考え方です。だからといって、イタリアンよりもフレンチが優れているというのは間違った論争ですし、そもそもの考え方が違います」
食材か、調理か。という見方もできるが、その点についてはどうだろうか。
「今の日本人の思考性では、すごくシンプルでありのまま、手をかけないという感覚を大切にしていますが、フレンチはそことは考え方が違います。”1の素材から、10の料理を作る”という感覚。トマトはそれ自体が美味しいけど、それを色々と手を加えることによって10まで引き伸ばそうという考えです。その過程の中で間違ってしまって結局2くらいにしか出来ないということもあるのですが(笑)、そこを目指しているため根本の考え方から違うんですよね。火を入れたり、焼いたり、ソースと組み合わせるといった調理法のバリエーションが圧倒的に多いので、表現の仕方が全然違うし、その分調理器具の多さも全然異なってきます」
最後に、これはどの業界にも考えられることだが、大衆に寄せるか、自分に寄せてもらうか。
「それって、常に付き纏いますよね。一般ウケするかどうか。自分の中では(大衆という存在は)大きいし、かといって一般ウケされたものをそのまま出したくないという超天邪鬼な自分もいて(笑)。でも、そのウケてるかウケてないかという感覚を知るのは絶対に大事だと思っています。ただ、オリジナル性でいうと、普通に作っていてもフランス料理という時点で既にオリジナル性が高いので、先にも述べたようにあまり奇抜さはない方が良いというのが私のスタンスです。スタンダードなフレンチで、少しアレンジを加えていくくらいがちょうど良いのではないかと思います」
佐世保から東彼杵へ。
牛舎からレストランへの大転換
続いて、Little Leoを始めた経緯や歴史について話を伺った。
「東京でキャリアをスタートし、フランスへ単身渡って10年腕を磨いてきました。そこから、日本へ戻ってリスタートしようということで、実家のある佐世保市にいました。『レオリオンドール』というお店でシェフを15年やっていて」
東彼杵に移るきっかけは、何だったのだろうか。
「佐世保では親と一緒にやっていました。そして、次のステップで自分で独立するときにどうしようかと。街中でも探しましたが、そこそこの大きさの物件が見つからなかったので、佐世保以外も平戸市とか西海市などいろんな土地を見ていました。そんな中、東彼杵町を紹介してもらったのは森(一峻)さん。佐世保の時から知り合いで、この場所を教えてもらいました。東彼杵に来てみると、風景と食材の美味しさに惹かれました。佐世保だと魚介が多いんですが、ここは根菜が美味しくて」
そうして、2019年3月に開店に至った。
「移るまでに1年半の時間を要しました。当初は、この地に人が住まわれていたので色々と打ち合わせをしながら、佐世保から通いました。そして、空き家バンク的な位置づけで、修復等は自分たちで全て行って。お店は、実はもともと牛舎だった場所です。なので、改修の際に牛舎の名残も残して、ワークショップで藁詰めなどをおこなって。工事だけでも半年はかかりました」
良いものは壊さずに残し、波長を合わせながら新しいものを取り入れた。そうして、苦労して出来上がった店内は、抜群に恰好が良い。
テロワールをうまく引き出し
新しい『食べる』を提案
さて、冒頭にも述べた”テロワール”という概念。その言葉について少し深掘りしてみた。
「『テロワール』とは、ワインの用語です。原料となるブドウは土地の環境に感化されやすく、同じ品種を使っても土地ごとによって味が変わります。それをテロワールと言います」
この事象は、野菜にも当てはまるという。同じ野菜でも、日照時間、海が近いか、標高といった環境の違いで味や香りが全然違ってくるのだそうだ。
「どこの産地が一番というわけではなく、その土地で産まれた食材に合った調理法だったり、何と合うのか食材の組み合わせ、組み立て方が重要になってきます。地元の食材を掛け合わせたものが美味しくなるのもひとつの考え方です」
その考えをもとに、今後のLittle Leoの展望を伺った。
「地域の食材をなるべくメインになるように料理を作っていきたい。生活にも慣れてきたので、豚とか加工してソーセージを作るように、いろんな食材を引き立て、組み立てていきたいですね。例えば、東彼杵の特産品であるそのぎ茶も、デザートとして活用したりワインなど料理の口直しとしてあるドリンク的なもので出せないかと考えたり。あとは、本来の料理としてのベースについて。佐世保にいた時は、海の幸を使ったフレンチをメインにしていましたが、ここでは特に野菜を食べてもらいたい。この東彼杵の地で採れる野菜、特に根菜は抜群に美味しいです。この食材を使って、テロワールをもっと引き出していきたいですね」
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