東彼杵町のそのぎ茶問屋、池田茶園がなぜ、ドライフルーツを!?
池田茶園は昭和16年から続く茶商。いわゆるお茶の卸問屋だ。ただ卸問屋といっても、ただ製品となったお茶を仕入れてそのまま売るわけではない。
お茶は市場では茶葉を1次加工した「荒茶」の状態で取引される。この「荒茶」を茶商が最終的に火入れを行い、一般的に流通している「製茶」の状態に仕上げ、小売店などに販売している。そのため、「茶商」は「茶匠」と表現されることもあり、卸問屋でもありながら職人的な生産者としての一面も持つ。
そんな歴史ある茶匠を営む池田茶園4代目の若大将、池田亮さん(29歳)が新たな事業に挑戦している。
池田「先代たちは各々、何か新しいことに挑戦してきてるんです。」
初代は宮大工から東彼杵への定住を機にお茶農家を始め、2代目は茶商も兼業で行うようになり、3代目では茶商専業へと事業転換。このような歴史を歩んできた池田茶園の4代目にも、その血が流れている。
池田「消防団の先輩からいただく段ボールいっぱいのイチゴ。しかも、他の消防団の方々にも同じように配ってあるのをずっと見ていて、それが心のどこかにずっと引っかかっていたんです。」
東彼杵町はそのぎ茶だけでなく、イチゴやみかんといった果物の生産も盛んな町。農産物は農協や売り場に出せる商品には規格が定められていて、規格外の商品はほとんどが捨てられてしまう。
池田「今年の5月に家族でビニールハウスにイチゴ狩りに行かせていただいたんですが、たくさんのイチゴが残ってて。でも、色やサイズが規格外だったり、出荷時期を逃してしまうと、もう商品にならなくて、枯らして捨ててしまうと。見た目が悪いからといっても、味はとても美味しいし、生産者の方が思いをこめて作られた農作物。それが捨てられてしまうなんて、何か役に立てないかと思ったんです。」
そんな矢先、父である3代目から、ある商品のパンフレットを見せられる。
「何気なく父が持ってきたパンフレットにフードドライヤーのチラシがあったんです。そこで、ドライフルーツにできるんじゃないかと思って、父にドライフルーツをやりたいと相談し、とりあえずやってみようということになりました。」
フレーバーティなど本業のお茶との親和性も感じつつ、ドライフルーツとして挑戦が始まったDRY FRUIT IKEDA。 まだ始めたばかりでありながらも、既に手応えややりがいを感じているという。
池田「お茶屋がお茶しか売ってはいけない訳ではない。果物農家さんから声をかけていただいたりもありますし、先日はお茶を納品しに行った先のおばあちゃんから、庭先になっていた果物をいただいたこともあったり。そうやって生産者さんの役に立てたり、これまでの繋がりの中で仕事ができるのが嬉しくて。」
茶商という生産者と消費者を結ぶ役割を担っている池田さんは、ドライフルーツを始めて感じることがあった。
池田「商売は、商社だけでもだめだし、生産者だけでもだめ。両者が助け合いながら商売しないといけない。生産者さんのお役に立てることを商売にできたら。ドライフルーツは自社のためというよりも、生産者のために取り組みたいという思いが強い。もちろん売れることも大切だが、自社の収益を増やすというよりも、生産者さんの収益につながってほしい。」
本業のお茶ではない商材を取り扱うようになった池田さん。本業のお茶にはない、ドライフルーツの魅力をこう語る。
池田「姉が結婚式場で働いていたんですが、お茶って仏事のイメージがあってプチギフトでは使われにくくて。それをドライフルーツとセットにしたりすることで、慶事でもお茶を使ってもらえるようにできれば。」
すでに新商品や新しい商品展開も視野に入れて試行錯誤は続いていく。
池田「まだドライフルーツは始めたばかり。果物の種類や水分量などで乾燥の時間が異なるため、試行錯誤しています。また、ドライフラワーと合わせてリースにしたり、アクセサリーの一部としてドライフルーツを使ったり、エディブルフラワーと一緒にしてフレーバーウォーターを作ったり、ドライフルーツの用途としても様々な方々と検討しています。いずれは、果物だけでなく、野菜のドライにも挑戦して、同じように廃棄されている野菜も減らしたい。」
今回のDRY FRUIT IKEDAのロゴには、数字の「5」が随所にデザインされている。「5」に秘められた思いとは。
池田「私は4代目。先代から継承されてきた池田茶園を5代目へ紡いでいく使命があると感じています。5という数字には、五感や五穀豊穣など、お茶にもつながる意味合いも込められています。うちは家族経営で事業をしていますが、両親はもちろん、叔父や姉、義兄など、みんなキャラクターが違って、それぞれの強みがとても頼もしい仲間。これからも家族で力を合わせながら、これまでの池田茶園の歴史や技術、味を守りながら、4代目として継承していきたい。」
4代目として本業を継承していく過程にありながら、新たな挑戦を始めた池田さん。まだまだ若いながらも、生まれ育った東彼杵町の役に立ちたいという思いが強い。
池田「市場価値がないと廃棄されていた農作物に新たな価値を作ってあげて、生産者さんたちの役に立ちたい。見た目の悪さや旬を逃したというだけで、生産者が思いを込めて育てた農作物はとても美味しい。そういう農作物が出てしまった時、池田茶園に持っていけば商品にしてくれると、東彼杵町内の生産者さんから頼られる存在でありたい。」
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