悩める子供や女性たちを優しく導く、長崎の聖母マリア。『株式会社りぼん 代表 大原万里亜さん』

取材・写真

辺りを包み込む温かく華やかなオーラと、はつらつとした語り口がとても魅力的な大原万里亜(おおはらまりあ)さん。『布なぷきん・布おむつ専門店りぼん』を営む傍ら、ワークショップ『ちくちく会』や講演会を開催し、女性としての身体をいつくしむ大切さを発信している。

2021年9月には長崎県で初の快挙となる『女性起業家大賞』を受賞。そして11月には『一般社団法人フェムテック長崎』を設立し、生理や性教育を楽しく学ぶためのグッズ製作や、女性が暮らしやすい・声を上げやすい社会を目指す活動も行っている。

万里亜さんの原点
りぼんが手がける布なぷきん

万里亜さんは東京に生まれ、3歳までの幼少期を母親の故郷である五島市で過ごした。映画の世界のような豊かな自然に囲まれた生活と、教会のシスターたちと一緒に縄跳びやトランプをして遊んだ経験は万里亜さんの人生の原点になっている。

それからは長崎市内へ。高校時代は野球部のマネージャーを務め、様々な工夫をこらしながら人をお世話する楽しさや喜びに目覚めた万里亜さんは「誰かのために教えたりお世話ができる教員になりたい」と、長崎大学教育学部へと進学した。

万里亜さんが教育実習の一環で特別支援学校を訪れていた時のこと。実習の最中に声が全く出なくなってしまい困り果てていたところ、その学校の生徒たちが「先生、大丈夫?」と声をかけ、熱心に励ましてくれたという。その純粋さや優しさに心を打たれた万里亜さんは、特別支援学校の教諭としての道を歩んでいこうと決意した。

りかちゃんが教えてくれたこと

16年にわたる教員生活を送り、数多くの子供たちと関わってきた万里亜さんだが、中でも強く記憶に残っている女の子がいる。その子の名前は『りかちゃん』。りかちゃんは寝たきりで目は見えず耳も聞こえない。それに加えて幼少期からたくさん服用してきた薬の影響でホルモンバランスが乱れ、6歳から生理が始まっていた。

重い障がいを持つ子供にとって、排泄の管理は命に係わる。心地が悪かったり、身体に痛みがあっても自分から伝えることができないりかちゃんの表情や様子を事細かく見ながら、呼吸状態の悪化やけいれんを繰り返す彼女を万里亜さんは必死にサポートした。

万里亜さんがりかちゃんの担任になって1ヶ月ほど経った頃。りかちゃんが入院している病院で尿検査を行う際、股間に尿を入れるためのビニール袋が両面テープで貼ってあるのを見て万里亜さんは驚愕。しかもその両面テープはかなり頑丈で、はがす時に強烈な痛みが走るものだった。

「痛い思いをせずに紙コップで検査ができるようになれば」と万里亜さんはりかちゃんを一日中観察し、排泄しそうなタイミングを見極めることに。やがてじっくり見ているうちに一瞬だけ眉間にしわが寄ることがわかり、すぐトイレに連れて行くもののどうしてもタイミングがズレてしまう。

そんな頃、りかちゃんの母親が1ヶ月に1回の授業参観へやって来た。りかちゃんは今おしっこの練習をしているんですと母親に伝えると「りかは人間らしいことを勉強しているんだね」と涙ながらに喜んでくれた。

授業参観の最中、万里亜さんはりかちゃんを見て「今かも!」とトイレへ。用を足す穴が開いた寝便所の上にりかちゃんを寝かせて声をかけたが反応はない。しかし直後に母親が「りかちゃん、おしっこしてごらん」と話しかけるとすぐに尿を排泄できた。

万里亜さんと母親は感激のあまり号泣。しばらくすると母親から「先生、りかが笑ってる!」との声が。りかちゃんを見ると、表情を変えて笑っているわけではないものの誇らしげに、すごく嬉しそうにしているように見えた。

その後は万里亜さんとりかちゃんの阿吽の呼吸によってトイレで排泄できるようになり、尿検査も紙コップで行えるように。やがて布おむつではなく布パンツで過ごせるまでになった。りかちゃんを小さな時から知っている病院の医者や看護師たちはとても驚いたが「2人が仲良しで心が通じ合っているからこそできるのだろう」という結論に達したという。

万里亜さん(以下万里亜)「医学的なことやお薬も大切だけど、そういうのを超えてくるくらい、目に見えない計り知れない思いですごく改善したり、変わってくることがあるんだってすごく自信持てたんですよね。何気ない言葉掛けでも、それが生まれたばっかりの赤ちゃんに対しても絶対伝わってるんだって。また、この経験から自分自身の身体の状態や自分自身の核に意識を向けていくことが大切なんだってりかちゃんに教えてもらいましたね。それが布ナプキンや布おむつのお店をやるきっかけにつながったと思います」

『りぼん』オープンへ

それから万里亜さんは教諭の仕事を辞め、夫の転勤で広島の尾道市へ。新天地では近所に住む女性たちが集まるコミュニティができており、メンバーそれぞれが得意なことを教えるワークショップが盛んに行われていた。

万里亜さんも自分にできることで協力したいと教諭時代に経験を培った布おむつのワークショップを開催。小さな子供を抱える母親たちから反響を呼び、次第に幼稚園などからも実演依頼がやってくるようになった。

しかし数多くの人に教えているうちに「布おむつを扱ったことはあっても、自分で使ったことはない。もし私が使うなら布ナプキンかも」と考えがよぎり、布ナプキンの作り方を教えてくれる講座に参加。その後自分で縫ったものをいざ使ってみると、重かった生理の症状に変化が現れた。

万里亜「それまでは経血の量が多くてかぶれたりしたんだけど、布ナプキンを使ってみると経血の量が減って、夜も本当に出なくなったの。『何これ!すごくない!?』ってすごく面白くなって調べてみたり。それからは枇杷とかで染めた布を縫ってナプキンを作ったりしてて、そのうち『布ナプキンのワークショップもやってほしい』って頼まれるようになって、じゃあみんなで作ろうよってやり始めたのがお店の原型ですね」

やがて万里亜さんは長崎市へと戻り、2013年に『布なぷきん・布おむつ専門店りぼん(以下りぼん)』を教員時代の保護者たちと共に開業。りぼんの店名は再生・生まれ変わる・本来の力を取り戻すという意味をもつ“Reborn”が由来となっている。

プラスαの経験を伝えていきたい

りぼんの布ナプキンは身体本来の力を呼び覚ますと大変評判で、関東や関西のイベントでは完売するほど。ナプキンは万里亜さん自ら手作業で3週間から1ヶ月の時間をかけて製作している。

また、万里亜さんは性別や年代を問わず生理を楽しく学べるようにと『生理カルタ』を開発し、長崎県内の小中高校や子育て支援センターに寄贈するなどの活動も精力的に行ってきた。

万里亜「お店を9年間やってきて、本当にいろんな所に動いて回って。最近は保健室の先生たちに私の経験を話す機会も多くなってきました。生理についてとか身体の仕組みについては先生たちが専門なんだけど、今まで自分がやって来たことや経験と、りかちゃんのような子供たちから教えてもらったことって実は現場の人たちにとってはすごく大事なことで。教科書に載ってること、教育課程でびっしり習う事だけじゃなくって、プラスαのところが大切なんだっていうことをこれから語っていけたらなって思ってます」

困っている人に優しく寄り添い、温かく導いてきた万里亜さん。一人の女性として「これからもあなたについて行きます!」と思わずにはいられない、とても素敵なお人である。

りぼんを運営する大原万里亜さんの「こと」「もの」の記事は下記リンクからもご覧になれます。