「長崎でしかできない、”ひと味違った”観光を」。波佐見町きってのトラベルエージェント・『新栄観光』

写真

取材・編集

長崎県内のバスツーリズムを探していくと、ワクワクさせてくれるような提案を行う会社に行き当たる。波佐見町にある『新栄観光』だ。1977年に中古自動車販売として創業し、『地域と共に歩み、共に生きる』という言葉を理念に、人と人との繋がりを大切にしながら45年に渡って運営を続けてきた。2006年から観光バス事業を開始して16年間、観光客を乗せて今も走り続けている。

事業所もこれまでとは一新し、お客が気軽に立ち寄れる空間を整えた。

山脇「元々は別のところで創業し、今のオフィスに移りました。老朽化して、現在は改装しています」

現在は法人化を経て、会社のスタッフは運転手などを含めて18名。業務は、大きく分けて中古車販売、観光や旅行を一括りにした貸切バス事業、貨物などの運送事業の3つの事業で運営している。代表を務めるのは、2代目となる山脇慎太郎さんだ。『新しく、ワクワクさせるオモシロイこと』を提案し続ける新栄観光について伺った。

インバウンド特需に沸く観光業を尻目に、
一線を画すビジネスモデルを考えてきた

山脇さんが、もともと働いていた医療・看護業界から、実家の営む観光業へと仕事を変えたのは2010年頃。会社を自分の手でどう変えていくのか。常に考え、模索していた。

「同じように考える人もいるかと思いますが、若い時って、”とにかく大きくなるのがカッコ良い”という単純でわかりやすい答えがあって、そういうのも少しは意識していました。『こいつ、頑張ってるな』という、目に見える自分の評価ですよね。帰ってきて5年くらいは自分にも周りから注目されている感じを受けましたし、実際仕事をしていて楽しかった。ただ、その頃から『インバウンド』という言葉が流行り始めて」

長崎市や佐世保市にも外国からの大型客船が入るようになり、バスが走るようになった。ツーリズムを生業にする会社は、軒並み増えていくことになる。

「当時はあまり興味がなかった。そして、みんながやり出しているのをみて、自分は何か引っかかるものがあって。これで良いのかなと、ずっと思っていました。当時は、すでに価格競争になっており、他所のバス会社が参入してきたり新規のバス会社がインバウンド目当てに増えたり」

その頃から、自身の指針、経営に対する想いが固まっていった。

「ただ、稼げればそれで良いのかと。インバウンド一色で物事を考えたその先に何があるのか。疑問が湧き、その辺りから私の中でバス会社というものに不信感が芽生えたのは事実です。何故かというと、お客のマナーが悪くなる。そして、運転手の質も落ちる。県はインバウンドで潤っているように報道されているけど、実際のところは全然そうではないというのが同じ業界だから見えることがあります。ただ、それを嫌だと断ったら、もう仕事ができない。難しいというか、もどかしい感じを受け、私は自分なりのやり方で顧客を満足させていこうと舵を切りました」

そんな中で、未曾有のコロナ禍情勢へと社会は傾いていく。これまで、インバウンドで業績を大きく伸ばしてきた会社にとって、この事態は大打撃となっている。

「コロナ禍に陥ってから3年が経ちます。同業者とも話しますが、いろいろなビジネスがあるなかで、インバウンドだけをやってきたバス会社はなかなか先が見えない。当初思っていた半年耐えれば良い構想が、1年へと伸びた。そこからまだ立ち直らない中で、今度はオミクロン株が出てきた。このままでは、いずれ立ち行かなくなるのが目に見えています。その中で、やっぱり20代の頃に得てきた信頼とかが、改めて重要性を増してくると実感しています。コロナ禍になっても、いろいろなファンの方が支えてくれて、現状に至っているのかなと」

守備も、攻撃も、どちらも大事。
そこにあるのは『コミュニケーション』

「自分自身は、忘れていたものをもう一度復活させたいという思いがあります。帰ってきた時のエネルギーとか、そういう情熱がなくなったわけではないのですが、模索していた部分をしっかり確立させて『アイツは死んでいなかった』と思ってもらいたい(笑)。コロナという機会が、決して自分にとってマイナスではなかったというのを証明したいです。充電の期間であり、勉強の期間であり、準備の期間であり。本当に終息した時にも会社として立っていられるように、まわりとしっかり連携してうまく調和しながら、その辺りの準備は継続してやっておきたいなと思います」

目先の利益ではなく、長い目で物事を捉える。だからこそ、初心に返って根強く支持してくれるファンを増やしてこられた。彼らに支えられることに感謝を忘れず、新しく面白い提案でまた還元できるように取り組んでいく。

「また、会社は基盤が大事だということは、帰ってきた当初に会社として認めてもらえるように動いたのでよくわかっているのですが、私は飽き性なんですよ。でも、一つ仕組みを作ったらみんなに振って、また新たな仕組みを作りにいくのが代表の仕事だとも思っていて。なので、内をしっかり守りつつ、プラスアルファのことも考えて外にも攻めていく。野球と一緒です。宇宙に行くわけではありませんが(笑)、誰もやったことないことをやりたいですね」

そのためには、地域の人たちの協力も必要だという。さまざまな地域の、さまざまな業種の人々と、お互い手を取り、支え合いながら県外の人を呼び込むことを目指している。

「決して無視をしてはいけないところです。自分達だけお金儲けができれば良いというものではありません。ですから、先にも述べたようなインバウンドで儲けようというのが自分自身の中で『?』になってきた部分で。『外国人が乗ってきました。バスの運転手は何も挨拶しません。各々産地に赴き爆買いはしても、そこに会話は何もありません』。そんな旅行には絶対にしたくありません。そこには、何らかのコミュニケーションが必要で。何年経とうが重要な部分だと思っています。そこで、私が提案しているのが小規模グループに特化した周遊プラン。その方が、こちらの意図を汲んでくれる質の良いお客さまが集まりやすく、お客さまのサービスに対する信用度も上がり、さらにお客さまと地元の人たちとの接点も増えると思います。そういう意味において、地域の人とのコミュニケーションも重要になってくるのです」

“これまでの長崎”から、”これからの長崎”へ。
地の利を活かした旅をご提案

長崎という県は、広大な大村湾を9つの市町が取り囲み、さらには島原半島や平戸島、各離島が点在するという地理上において特殊な構造をしている。それでいて、焼き物といった工芸品の産地があり、お茶やみかんといった食の産地があり、アメリカ海軍が駐在する港町がありとそれぞれ個性豊かな町が軒を連ねる。最後に、長崎という地においての観光について聞いてみた。

「長崎空港という外からの入口が近いので、観光のしやすさでは悪くはないと思います。大村市という、県中央部に位置しており、そこから東に回るか、西に回るかでプランが大きく変わります。ただ、不思議に思うのが長崎市内にいろんなホテルができていること。長崎市の狭い道路とアクセスしにくい事情を鑑みると、乱立させても渋滞しか生まないのではないでしょうか(笑)。もっとアクセスの良い大村に造れば良いと思います。あとは、佐世保市にあるハウステンボスがどういう地図を描くのかはわかりませんが、IR事業が実現したら面白いのかなと個人的には思いますね。これから弊社で取り組む”海上観光”にも関わるのですが、ゆっくりクルーズしつつハウステンボスへ向かうというプランができれば楽しそうです」

昨今のコロナ禍が与えた被害は各業界において甚大なものであり、先の見えない時代が続きそうだが、それ以前からいずれの業界でも飽和状態が叫ばれていたのは事実だ。観光業においても多くの会社が犇く中で、新栄観光は独創性、柔軟性を念頭に、『地域一のフットワーク』で常に新しいものを発信することを心がけてきた。どんな状況下でも、顧客へ寄り添える活気溢れる企業であり続けることだろう。

社名:株式会社新栄
所在地:長崎県東彼杵郡波佐見町田ノ頭344-1
お問合せ:0956-85-5416(自動車販売事業)
     0956-85-6555(観光バス事業)
     0956-85-5255(ツーリスト事業)

ひと・ことについての詳細は以下のそれぞれの記事をご覧ください。