琴の海(大村湾)で生まれた真珠を、海からとれたそのままの美しさを生かしたあこや真珠のブランド『acoya(アコヤ)』

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あこや貝、あこや真珠で作られたブランドacoya(アコヤ)のジュエリーが、東彼杵町Sorrisoriso内のくじらの髭にて取り扱い中だ。

acoyaで取り扱う真珠はどれも、“白くて丸い”という従来のイメージを覆す。

例えば、金平糖のようにいびつで儚い形をしていたり、隙間から光が差し込んできた雲のような鈍色をしていたり、一粒一粒が個性的だ。生命がそのまま形になったかのような、静かだけれど小さな躍動を感じる。

実は、これらの真珠は大村湾で採れたものなのだ。

山や森に囲まれ、世界的にも珍しい閉じた海域である大村湾は、まるで大きな湖のような穏やかさから、かつて琴の海と呼ばれていた。

ここには天女の神話があり、1300年以上続く真珠の歴史がある。海一円が太古の昔、“美しい珠の揃った国”の意味を持つ『具足王国(そないだまのくに)』と称されていたほどに、豊かな自然を誇っていたのだ。なんと10万年前から、スナメリが生息していたそう!

しかし時代は流れ環境も変化し、かつて東彼杵にあった数多くの真珠養殖場は、千綿の里郷・串島の鼻半島にある松田真珠養殖の一軒のみとなった。

そんな「松田真珠養殖」の戸を叩いたのがacoyaディレクターの大地千登勢さん

2019年に、Sorrisorisoを主体に、東彼杵、大村市松原、長崎オランダ村の3ヶ所でイベント『琴の海、真珠の海の物語 — 大村湾 東と西を繋ぎ海に眠る記憶を呼び戻す』を開催。トークイベントや音楽会、ワークショップなどを行った。

大学生時代からH.P. Fでバイヤーとして活躍、フランス人のボス、フランソワーズから数々のことを学び、ブランド立ち上げ、アートジュエリー展覧会の企画・プロデュース、アーティストとしてなど様々に活躍している。

そんな彼女が東彼杵の地を初めて訪れたのは2016年のこと。“九州・平戸のお菓子と文化を世界に”をテーマに行われた『Sweet Hirado』プロジェクトがきっかけで大村湾へと足を運んだそうだ。

大地「すごく香りが濃いなって感じたんですよ。」

東彼杵へ抱いた第一印象。山も海もこんなに近い、滝もあるし温泉もあるし、とても恵まれた環境だと感銘を受けた。

もっとこの土地のことを知りたい。そして大村湾のことを。

独自の調査を経て、大地さんは琴の海とも呼ばれていた大村湾で1300年以上続く真珠の歴史にたどり着く。

地元の人でも知らない真珠の歴史を調べるにあたり、文献だけでは限界があった。そこで彼女が出会ったのが、東彼杵町役場まちづくり課の中山氏と、私たちSorrisorisoくじらの髭だ。

私たちは大地さんの熱意に突き動かされ、東彼杵で真珠養殖を営む「松田真珠養殖」と彼女をつないだ。

松田さんと出会ってからの大地さんは、東京から毎月、東彼杵の養殖場に足を運び真珠の養殖について学び続けた。

真珠の養殖は稚貝を育てるところから始まる。母貝となったら核入れを行う。

「良い真珠ができますように」

核入れの際、必ず松田さんが口にする言葉だそうだ。

あこや貝の成長には3~4年もの月日を要する。それまでは、養殖場の人たちが手を尽くして育てていくのだ。しかしながら、 海の環境次第では収穫されても生き残るのは半数に満たないこともある、とても厳しい世界だ。

長い年月をかけて母貝のなかで育まれるいのちの珠。母貝やピース貝のいのちをもって生まれる美しい輝き。太古の時代から変わらない、人と自然を繋ぐ行為。

さまざまな色を帯びて輝く生まれたての真珠を見て、大地さんは言葉を失ったそうだ。

そのままが、きれい。

真珠の生まれたての色を分かってほしくて。

Acoyaのジュエリーはあこや真珠そのままの美しさを生かし、一切なにもしていない。

それは海が生んだ美しいあこや真珠そのものである。

大地「素材そのものの美しさが好きなんです。特に朝の光で見てると本当に綺麗で。その綺麗さを、そのまま活かしたくてデザインしたジュエリーたちです。」

素材そのものの美しさがさまざまな表情を見せるデザインは、身に着けるシーンを選ばない。

20年、信頼を築き上げてきた職人とともに

そんな大地さんのデザインは、20年に渡って信頼を寄せてきた職人によって形作られる。彼のことを大地さんは信頼と親しみを込めて「太郎さん」と呼ぶ。

職人でもあり、外川貴金属のオーナーでもある太郎さんとの出会いは、彼女が大学卒業後に勤めていたH.P. F時代に遡る。バイヤーとして勤めていた頃、太郎さんが「自分の作る商品をぜひ取り扱ってほしい」と店を訪れたことがはじまりだったそうだ。

自然の中にある畝り(うねり)を籠めてジュエリーを制作しています。そして、制作している時のワクワクする感覚まで身につける方に伝わってくれると嬉しいです。
———外川貴金属サイトより

大地「日本的なモチーフや、繊細な作業がとても上手なんですよ。私がイメージを投げて、それを作ってもらってるんです。」

太郎さんの手は、真珠のありのままの魅力を伝えたいという大地さんのイメージをすくいあげ、繊細かつオリジナリティあふれるデザインを形にする。

通常は既製品となりがちな留め具の部分などもすべてオリジナルで。素材の良さが伝わるよう、とことんこだわる。

真珠の色は、海の色

海の色が、そのまま真珠の色になると話す大地さん。

大地「琴の海(大村湾)がそのまま真珠になったということなんですよ。なので、身に着けてもらうことで、海を感じてもらえたらなと思います。」

珠の輝きは生と死の美しさ

何気なく、手のひらに置いた真珠を眺めてみる。まばゆい光が当たっているわけでもないのに、それはきらきらとしていた。

大地「ダイアモンドや石って、カットされることでさまざまな光り方をするんですけど、真珠はみずから光を発するんですよ。それって、『命』が持っている特権だと思うんです。私たちは、死んでしまったら魂はあるかもしれないけれど肉体は枯れてしまう。けど、活きている間は、いくらでも光になれるはず。真珠は、あこや貝が死んでしまうことで生まれるものだけど、細胞はまだ生きていて。それが光を発するということが、私たちに何かを教えてくれるから。お守りにもなる気がしますね。」

大地さんが以前「あこや真珠の美しさは、生と死の美しさ」とおっしゃっていたのがとても印象に残っている。『acoya』のサイトには、

その姿を媒介に、あの世とこの世、自然界と人を繋ぎます。
そしてその痛みを美しいものとしてメタモルフォーゼする。
それは海の力、治癒力でもあると言えます。

とある。

大地「そうですね、あこや真珠の美しさは、生と死が繋がっている。」

『acoya』さんのジュエリーには、海の中で育ったそのままの形を生かした美しい真珠が使われている。

大地「あこや真珠も生物なので、人間と同じように2つと同じものは存在しないし、形も完璧な丸ばかりではない。ほとんどが突起があったりと個性的な形をしている。私はその自然の形をそのまま生かしてあげたい。」

一般的に真珠の養殖は母貝に核と、ピースと呼ばれるあこや貝の細胞をいれてあこや真珠を作る。あこや真珠を母貝が育てる期間はさまざまだが、だいたい通常、7~8ヶ月。あこや貝自体の成長には3~4年かかる。

acoyaの大地さんのデザインで良く使われているのがケシパールだが、これは、核なしの、天然に偶然できた真珠。核を入れた真珠の中に偶然入り込んだ異物、ゴミ、虫を核としてできあがったものだ。もともとの真珠の原理から生まれた小さなアーティフィシャルでない真珠であり、これは本当に、ごくごく僅かな確率で生まれるので、核を入れた真珠より貴重なのだ。

まさに、自分から生まれ出でて輝く、宝物のような真珠といえるだろう。

大地「誰かに助けてもらうわけでもなく、自分自身で光輝ける人に。私もならなきゃって思うんです。」

そう語る大地さんの耳飾りには、ゆらゆらとゆらめく真珠が。海の底から命の美しさを伝えてくれるかのように、優しい光を放っていた。

acoya』のジュエリーを通して、美しい真珠が育まれた琴の海の声にそっと耳を傾けてみよう。生と死の美しさきらめく海の営みと繋がる瞬間が、きっと生まれるはずだ。