福岡県久留米市にある西邦化学産業株式会社（以下西邦化学産業）は、布に絵を描けるオリジナル絵具『クロースペイント』など環境に配慮した繊維用加工染料・顔料などの製造販売や、ノベルティ商品を製造加工する資材の全国展開を行う企業である。また、環境コンサルティング企業である株式会社アールが製造する天然素材100％の消臭剤『酵素-R』の販売も手がけている。
梶原彰人（かじはらあきひと）さんは西邦化学産業で執行役員を務め、酵素-Rの魅力を各地に広めようと『酵素マニア事業部』を立ち上げ日々奮闘している。酵素-Rは2023年初頭から私たちくじらの髭の店舗で販売することとなったのだが、この商品とのご縁をくじらの髭へと繋いでくださったのが梶原さんである。
クリエイティブに興味が芽生えた
梶原さんは福岡県宮若市に生まれ、幼少期に大野城市へ移住。当時身体が小さかった彰人さんは近所の子供に目を付けられてしまい、毎日のように殴られ蹴られの暴力的ないじめを受け続けた。また厳しい両親からは常に叱責され、親の愛情を実感できなかったという。
しかし中学3年生ごろから成長期で体格が大きくなり、それまでのいじめや苦境に反発するかのごとくケンカに明け暮れ、家にも帰らずじまい。またその頃から仲間とバンド活動も始め、時折ライブハウスで演奏するようになった。
そんな毎日を過ごす中で梶原さんは雑誌で目にしたファッションの世界に憧れを抱き始め、服飾が学べる筑陽学園高等学校への進学を決意。目指していたファッション科は入学直前に無くなってしまったが、少しでも布に関することを学びたいと染色や織物を学ぶテキスタイル科へ進んだ。
高校ではカメラにも興味が芽生え写真部に入部。学校生活は充実していたものの、ケンカはしょっちゅうで家にも帰らず友人の家に入り浸り、夜はライブハウスでの演奏でお金を稼いだ。そんな生活を続けるうちに不摂生による体調不良で倒れ留年してしまったが、どうにか高校を卒業。福岡市の印刷会社へ就職することとなった。
苦労の末に身に付いた自信
印刷会社では印刷用の原版を製作する写真製版課へ配属され、コツコツとした仕事ぶりが評価された梶原さんは入社1年の早さで主任に昇進。その後「テレホンカードに画像を転写する方法を考えろ」と上層部から指示を受け、汎用機（業務用大型コンピューター）で画像処理をすることに。しかし上層部からこれを使えと指定された汎用機は西ドイツ製でマニュアルはもちろんドイツ語。何度も徹夜しながらの作業となった。
梶原さん「言葉は分からないけど扱わなくちゃいけない。でも不思議とね、コンピューターって扱ってるうちにこうなのかああなのかっていうのが分かるようになってきて。それでできるじゃんって自信がついた」
人見知りな性格でもあった梶原さんは、人と直接関わる営業の仕事を覚えようと23歳で事務機器販売会社へ転職。当時国内シェア率が1％にも満たないメーカー製の郵便料金計器や印紙税納付計器、1台40数万のパソコン（1986年当時の高卒初任給は14万円）を売ってこいと片道の電車賃と11キロに及ぶカタログの束を持たされ、銀行や商店など一軒一軒を訪ねて回る過酷な毎日。名刺を破られたり鮮魚店で水を掛けられたこともあった。
梶原さん「入口に立つと手足が震えて、ドアを開けると頭の中は真っ白になってましたね」
それでも徐々に売上を伸ばし始めた頃、営業で訪れたとあるホームセンターで「不良在庫を減らすことと、事務効率化に良いのでは」と提案した1億5000万円の汎用機が売れた。それが大きな自信となった梶原さんはさらにあちこちへ奔走。とある銀行では全支店に郵便料金機器や印紙税納付計器、発電機、UPS（無停電電源装置）の設置を契約するなどの実績を積み、入社して1年半で十数億円を売り上げるまでになった。
営業の自信を付けた梶原さんは、25歳で経験業界に戻ることを決意し製版会社に転職。現場の仕事を務めたが会社の命令で営業に転属した。しかし、前職の販売会社とは業務の勝手が違い、売上が伸ばせない。悩んだ挙句、梶原さんは現場での経験を活かし、その場ですぐに納期の相談ができると売り込んだ。
梶原さん「製版会社は印刷会社の下請け。印刷会社が知りたいのは『いつフィルムができるのか？』やけん、即座に納期を答えられるのは有利でしたね。現場が嫌がる仕事は持ち帰って、自分で製版もしていました。製版もカメラもCADも汎用機もMACも全部扱えるっちゃもん！夕方原稿をもらってその翌朝に印刷会社に校正を持ち込んだら、次からは嫌でも仕事来ますよ！」
そして、印刷会社にルート営業で待つだけでは伸びないと考えた梶原さんは、印刷会社だけでなく一般企業に対し企画を持ち込み、印刷までの直取りを開始。当時その製販会社では営業一人頭月に500万円の売上が目標のところを、個人で2700万円にまで伸ばした。
梶原さん「ルート営業は印刷会社も同じ。新規は行ききらん。やけん、あえて一般企業に企画を持ち込んで、それが通ればデザインから印刷まで受ける。そしたら下請けじゃなくなる。デザイン会社や印刷会社に仕事を回すことになる。立場が逆転、快感やろ（笑）！」
独立後の挫折、そして再起
やがて梶原さんは29歳で仲間の女性と会社を立ち上げ、フリーペーパーやパッケージの制作、企画や広告関係の仕事を始めた。やがて扱う媒体は紙だけに留まらず、ローカルの電波へ。1993年頃からはホームページやバナー広告の制作、インターネットへと広がっていく。
梶原さん「1992年当時はインターネット黎明期。当時はまだ回線料が高くて大企業しか使えんかったね。数年後には一般家庭にも普及し始めたけど、ダイヤル回線でピ・ポ・パ・ピ・ピ・ポ・パって鳴ってたよ。長い時間繋いでたら料金がバンバン上がるから、メールなんかはテキスト打ちしてコピペして……懐かしかねー！」
梶原さんはスカイネットアジア航空（現・株式会社ソラシドエア）の立ち上げにも携わり、ベンチャー企業として奮闘する毎日を送ったが、数年後に計画倒産に巻き込まれ、1億2000万円の個人負債を抱えてしまう（負債は懇意にしていた取引先の社長が肩代わりしてくれ、8年かけて返済した）。
梶原さん「マジで参ったね！でもね、1億超えたら落ち込まんとよ。笑いしか出てこん！高い授業料やけど、いい教訓でした。女性と仕事したらいかんってね（笑）」
離婚・多額の負債……不運が重なった梶原さんだったが資格を取り、結婚式場などで花を飾るアルバイトや写真の仕事で食いつないだ。
梶原さん「自分でも何考えたか思い出せんけど、シーホークホテルや浄水通のオペラハウスでバージンロード作ったり。女性2人と俺の3人組でしよったけど全員バツイチで、そんなメンバーで『結婚おめでとうございます』って祝う（笑）。花の仕事は2年くらい続けたね。女性と仕事したらいかんっていう教訓はどげんしたやろうか（笑）」
その頃に偶然見た映画『TAXi』や『Taxi Driver』に刺激を受け、タクシー会社に就職。運転手として働いていたがこのままではダメだと思い猛勉強し、国家資格を片っ端から取得、運転手から管理側となった。しかしその甲斐なく上層部とトラブルになり退職。その後も別のタクシー会社に就職したが、そこでもトップと上手くいかず退職してしまった。
梶原さん「どこもここも、出る杭は打たれるって実感したよ」
数々の職業を経てきたが、写真の仕事も長く続けていた梶原さん。これからはカメラで食べていこうとしていた矢先、SNSの台頭により安い価格で仕事を請け負う週末カメラマンと呼ばれる人々が急増し、仕事の継続が危ぶまれてしまう。
そんな頃、梶原さんが講師をしていた写真教室の生徒さんに、とある会社を紹介された。その会社が現在勤めている『西邦化学産業株式会社』。話を聞き、とても面白い会社だと感じた梶原さんは「ぜひ携わりたい」と入社を決意した。
熱意をたぎらせて
入社してしばらくしてから梶原さんはひどい腰痛に悩まされるように。整骨院に何度行っても症状は改善せず、病院でも原因がわからない。それから某所に凄腕の整体師がいると聞きつけ施術を受けたところ「すぐに精密検査を受けた方が良い」と全く予想外の言葉が降りかかってきた。
すぐさま検査を受けた結果は「身体はすでにガンに蝕まれており、余命数ヶ月」。突きつけられたのは厳しい現実だったが、幸いにも治療法が見つかった。その後懸命な努力が功を奏してガンはみるみる小さくなっており、転移も全くないという。
梶原さん「いやいや、全然むごい宣告とは思わんやったとよ！むしろ笑えた。医者が『即入院してください、すぐに治療を始めないと危ないです』って言ったけど、もう充分危ないよね（笑）。治療は何するのって聞いたら安静にして投薬して……って、よく聞く手段。余命数ヶ月ならいいかって入院を断って、検査資料をもらった。そして5人の医師にデータを送ったら、3通りの治療法を提案されて。あとは俺のババ抜きやね（笑）。でも大事なことよ！ひとつの問題が起こったら、常識にとらわれずに複数の方向から見てみる。聞いてみる。そして最後に選ぶのは自分。それが正しいかどうかは運かもね（笑）でも治療を始めて、気が付いたら今年3年目やけど生きとうやん。だけん結果としては良かったんかなって思う。それにしても、神様は次から次に色んな試練を与えてくるよね（笑）。壁が立ちはだかったら、右か左しか行けんやん。『どうしよう』って迷ってるヤツの頭かち割ってみてん、『どうしよう』って文字がギュウギュウ詰めよ。ただ迷うだけじゃあ時間の無駄。自分でまず考えて、物事に迷わない！これ俺の癖。年齢や性別や地位とかは横に置いて、相手の話を飲み込んでみること。この歳になってやけど、GlobalBの山本さんや、くじらの髭の森さんからは多くのことを気付かせていただきました。それは俺の財産やね！」
梶原さんは現在、酵素-Rの普及活動で全国各地を駆け回っている。今後酵素-Rが大きく関わる新たな事業も展開する予定だ。
インタビューのさなか「俺はもう60で、あと何年生きられるか」と語った梶原さん。成すべきことはまだ数多くある。梶原さんの熱意は永く永く燃え続ける。
