これからの時代に向けたお茶を追求していく。『有限会社岡田商会 4代目 岡田浩幸さん』

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取材

『有限会社 岡田商会』は、東彼杵町千綿宿郷にお店と工場を構える製茶問屋です。その歴史は長崎県じゅうのお茶を取りまとめ、海外への貿易も行っていた前身の会社『長崎県製茶株式会社』に始まり、昭和28年に『有限会社 岡田商会』と名を改め創業。現在に至るまでそのぎ茶の製造と販売を行っています。

4代目となる岡田浩幸さんは、熊本大学を卒業後に外食関係の企業に勤めたのち、家業である岡田商会へと入社しました。日本茶が嗜好品へと変わりゆく中でお客様に「おいしい」と喜んでもらえる味の追求を続けながら、インターネットを介した情報発信にも力を注いでいます。

家業を継ぐと思っていなかった

浩幸さんは千綿宿郷で生まれ育ちました。子供の頃はあちこちを探検したり、海や川で魚を取ったりなど外遊びが好きだったそう。小学生になってしばらく経った頃からテレビゲームが流行り始め、友達みんなで集まって遊ぶことも多くなったとか。

岡田商会の仕事場へは時々遊びに行くこともありました。台車に乗って走り回ったり、当時あったエレベーターに乗って遊びながら、大人たちが働いているところをよく眺めていたそう。

浩幸さん(以下浩幸)「子供の頃の自分にとってお茶は普通に当たり前にあるものという感覚で、仕事場のおじさんたちがすごく頑張ってるなってなんとなく見ていました。お茶にもあんまり触ってなかったですね」

地元の中学校では勉強と卓球部に勤しみ、高校は長崎県立川棚高等学校へと進学。やがて熊本大学工学部へと進みます。当時は家業を継ぐとは思いもよりませんでした。

浩幸「この頃はうちに帰ってきて継ぐって話は全く無かったし、両親からもそんなことはしなくていいよって言われていたんです。それに理系が得意で高校はそっち方面に進んでいたこともあったし、今からは工業系の時代になって仕事も増えて行くよって周囲に勧められたこともあり工学部へ進学することにしたんです」

その後はオーガニック食品を扱う外食関連企業に就職しましたが、大学を卒業する頃から岡田商会の行く末を案じた話が持ち上がるようになります。

浩幸「岡田商会も社員の皆さんの年代がどんどん上がってきてて、若い人がいないとこれから続けていけないんじゃないかって話になって。それでいつかは自分が帰らなきゃと考えるようになりました。しばらくお茶とは関係のないところで仕事をしましたが、先々のために経営の勉強をさせてもらいながら3年ほど勤めました」

やがて浩幸さんは27才で帰郷、岡田商会へと入社することとなります。

郷に入っては郷に従う

岡田商会で仕事を始めたものの、仕事のやり方に対して疑問に思うことや「もっとこうすれば良いのに」と感じることが度々出てきました。浩幸さんとしてもこれからのためにと一緒に働いている人たちへアドバイスや意見しましたが、快く受け取ってもらえなかったとか。

浩幸「大ベテランの人となると、当時80代の方もいましたから。そういった上の人たちが長年やってきたことや積み重ねてきた歴史があって商売をされているので、20代の若造が意見したって『何言ってんだ』って(笑)。でも上の人たちがいたからこそ今まで成り立ってきたんだって思ったし、もっと内情をきちんと知らないといけないなって気付いて」

身をもって会社のことを勉強しつつ、試行錯誤しながらチャレンジしたいことに挑んでいった浩幸さん。地元の消防団や商工会の青年部にも加入して地元の人たちともつながりを作り『郷に入っては郷に従う』ことも学んでいきました。

仕事へ慣れていくうちに、お茶づくりや流通の仕組みが少しずつ分かってきました。任せてもらえる仕事も多くなり、入札や各地へ営業に回る日々を送る中でお茶を取り巻く状況が変化していく様を感じるようになります。

浩幸「僕が帰ってきた頃は生産農家さんと直接会って取引することも多かったけど、辞められるところもあったりして機会が減っていきました。市場の状況も変わってお茶が嗜好品になり、急須で飲むよりペットボトルで飲むことの方が増えていて。そういう事もあってお茶づくりも変わってきたのかなって思うし、より美味しいお茶を作って売っていかないとお客さんに受け入れてもらえないんじゃないかと。今まで岡田商会では美味しいお茶を求めて頑張ってきたので、自分もそれを踏襲していかなきゃいけないと思っています」

日本一への道のり

転機が訪れたのは2017年のこと。全国茶品評会が初めて長崎で開かれるということもあり、県や町が「そのぎ茶を日本一にしよう」と力を注いでいました。やがて東彼杵町のお茶農家さんが蒸し製玉緑茶部門で日本一となり、そのぎ茶の品質の高さが裏付けられました。

やがてその波は茶商さんたちにも拡がっていきます。一般消費者が味や品質の評価を決めるコンテスト『日本茶AWARD』へ積極的に出品してほしいと町からのお達しがあったのです。

そこで、岡田商会としてもこれまで積み重ねてきたお茶づくりがどこまで通用するのかチャレンジすることに。コンテストに出品するため特別なお茶を用意するところも多い中、すでに売っているお茶で勝負しようと浩幸さんを中心に取り組み始めます。

浩幸「今までうちで仕上げてきたものの中で、『これだ!』というものを出したかったんです。そこで『やまぎり』という銘柄のお茶を活用して、例えば火入れとかそれぞれの担当者と話し合いや試行錯誤を繰り返しながら、そのお茶の良さが一番出る形に仕上げていきました」

その努力は功を奏し、見事日本一を獲得。岡田商会のお茶づくりが全国的に認められた瞬間となりました。

まだまだ攻める部分はある

岡田商会に入社して14年。親戚の泰樹さん(写真左)らとお茶づくりへと励むかたわらHPやSNS、通信販売などインターネットを介した情報発信にも注力しています。これまでは直接お客様と対面する販売形式がメインでしたが、通信販売を始めて以降は全国各地から注文があり、売上が上がってきているそう。

浩幸「インターネットを活用した市場がどんどん伸びていることもあって、HPやSNSなどを利用する形に時代が変わってきているのかなと実感しています。今も模索を続けていますが、まだまだ出来ることはあると思っています」

浩幸さんには次なる展望も語っていただきました。

浩幸「いま家に急須がない家庭も増えていますし、茶葉から淹れるお茶は高級品、特別なものというイメージに変わってきています。なので急須をあまり使わない世代の人たちにも受け入れられるお茶であったり、カジュアルに飲んでもらえるようなお茶を試行錯誤してもっと考えなくちゃいけないなってところですね」

浩幸さんがつくっていくお茶はどんな味わいなのでしょう。美味しさの詰まった一杯をぜひとも飲んでみたいと感じるインタビューとなりました。

岡田商会で手掛けられたお茶は、千綿宿郷にある店舗や公式ホームページを始め『Sorriso riso 千綿第三瀬戸米倉庫』内にある『くじらの髭』店舗でも販売しています。気になる方はぜひチェックを。